2019年11月26日

●「通貨発行益について改めて考える」(EJ第5136号)

 少しややこしい話をします。
 「通貨発行益」には、2つの考え方があります。日本政府が国
債を発行して、民間銀行がそれを購入し、日銀が金融緩和の一環
として、それを買い取ります。この場合、政府は国債の利払いを
日銀に対して行いますが、その金額は後になって、日銀剰余金と
して政府に戻されます。政府はこれを「歳入」として受け入れ、
毎年の予算のなかで活用しています。この剰余金のことを通貨発
行益と呼ぶ経済学者がいます。
 しかし、これは間違いです。本当の通貨発行益というのは、日
銀が買い取った国債金額そのものから、その印刷代を差し引いた
ものをいうからです。したがって、その金額は利払い費を含む剰
余金とはケタ外れの金額になります。
 これに対して、経済アナリストの森永卓郎氏は、次の疑問を呈
しています。
─────────────────────────────
 (通貨発行益によって)日銀が国債を保有している限り、政府
は元本返済の必要はない。だから、本来であれば、国債の日銀買
い取りに基づく通貨発行益は、税収とともに政府の歳入として、
きちんと位置づけるべき性格のものなのだ。それをせずに、いわ
ば秘密の財源としてずっと隠してきたというのが、これまでの日
本財政の歴史なのだ。   ──森永卓郎著/角川新書K126
  『消費税は下げられる!/借金1000兆円の大嘘を暴く』
─────────────────────────────
 そういわれてみれば、森永氏の主張の通りです。問題は、政府
が、なぜ歳入として受け入れないかです。それは、何となくうし
ろめたさを感ずるからではないでしょうか。
 実際に政府は、通貨発行益を財源として活用しています。こう
いうことは、平時では何も問題を起こしていないのです。ただひ
とつ、貨幣の供給を増やし過ぎて、インフレーションになってし
まうときに限られます。
 井上智洋氏という日本の経済学者がいます。駒澤大学経済学部
の准教授です。井上氏に次の著作があります。
─────────────────────────────
                   井上智洋著
    『ヘリコプターマネー』/日本経済新聞社刊
─────────────────────────────
 井上智洋氏の本に出ているのが、「間接的財政ファイナンス」
というタイトルの図です。この図を添付ファイルにしてあります
ので、見てください。
 政府が国債を発行します。民間銀行がそれを購入します。その
国債を日銀が金融緩和の一環で買い取り、その代金を民間銀行の
日銀当座預金に振り込みます。本来であれば、銀行はその資金を
企業に融資して市中に通貨を拡大させるのですが、デフレ下では
企業に資金需要がなく、それができないのです。
 そのため、資金が日銀当座預金に法定準備を超えて積み上がる
だけです。しかも、法定準備を超える預金にはマイナスの金利が
かかるのです。アベノミクスでは、この段階で止まっており、市
中にお金が出回っていないのです。
 井上智洋氏は、ヘリコプターマネーには政府紙幣を発行する直
接方式と、国債を中央銀行が買い取り、その資金を財政資金に充
てる財政ファイナンスの2つの方式があり、このヘリコプターマ
ネーは、金融政策と財政政策の組み合わせであり、必要に応じて
駆使すべきものといっています。
 それに基づいて、森永卓郎氏は、いまやらなければならないこ
とについて、次のように述べています。
─────────────────────────────
 (政府が)やらなければならないのは、中央銀行による国債買
い取りで得た通貨発行益を減税などの形で、政府が国民に戻すこ
とだ。銀行に資金を渡しても融資に回らないなら、国民に直接資
金を渡せば、国民の持つお金が増えるから、消費が増えて景気が
回復するのだ。         ──森永卓郎著の前掲書より
─────────────────────────────
 ここで考えてみることがあります。アベノミクスは、浜田宏一
元イエール大学教授が設計者といわれますが、アベノミクスの、
いわゆる「3本の矢」の構想は、次のようになっています。
─────────────────────────────
           1.金融緩和
           2.財政出動
           3.成長戦略
─────────────────────────────
 このうち、「金融緩和」と「財政出動」を重ねてやっている初
期の段階では、アベノミクスによる経済状況の回復は著しいもの
あったのです。しかし、そこで安部政権は、既に法律化されてい
た5%から8%の消費増税をやったのです。経済の状況が少し改
善したと判断したからです。
 しかし、これは大失敗でした。経済がデフレの状態を脱出する
ことができなかったからです。このとき、安倍政権がやるべきこ
とは、増税ではなく、通貨発行益を利用した減税であったからで
す。財源は通貨発行益になります。おそらく安部首相の頭には、
企業への減税は別として、一般消費者に対する減税の発想はかけ
らもなかったと思います。それに、安部首相自身が通貨発行益が
わかっているとは、とても思えないからです。
 日本人の頭のなかには、日本はひどい財政赤字を抱えていて、
減税なんかとんでもないとの思いがあります。財務省の長年にわ
たるプロパガンダが見事に効いているからです。この財政赤字へ
のこだわりが経済の状況をおかしくしています。
 このアベノミクスの失敗を設計者である浜田宏一氏も認めてい
ます。プリンストン大学教授、クリストファー・シムズ氏の論文
を読んだからです。この論文については、明日のEJで考えるこ
とにします。      ──[消費税増税を考える/034]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ、財政赤字は減らないのか?/塚崎公義氏
  ───────────────────────────
   日本の財政が大幅な赤字である事は、誰でも知っているで
  しょうが、どれくらいの赤字なのでしょうか?昔から赤字を
  減らす努力をしているのにどうして減らないのでしょうか。
   毎年の財政が赤字だということは、その分の借金が積み重
  なり、借金の金額も莫大なものとなっていますが、一体どれ
  くらいでしょうか。そんなに借金していて、日本政府は倒産
  しないのでしょうか。今回は、日本の財政赤字について学び
  ましょう。国(中央政府)と地方公共団体に財政があり、国
  には一般会計と特別会計がありますが、単に「財政赤字」と
  呼ぶ場合には、国の一般会計の赤字を指すのが普通ですので
  本稿もそうします。
   ちなみに、「国が赤字」というのは「日本国の中央政府の
  一般会計が赤字だ」ということで、「日本国が赤字だ」とい
  うことではありませんので、注意して下さい。日本国と外国
  との取引は、経常収支統計に示されているように、大幅な黒
  字です。2017年予算の歳出は97兆円です。予算は歳出
  と歳入が同額ですから、歳入も97兆円です。もっとも、歳
  入の中には税収等63兆円のほかに「公債金」34兆円が含
  まれています。これは、税収等だけでは歳出のための費用が
  賄えないため、国債を発行して資金を調達する必要があるか
  らです。一般には、歳入予算の公債金を財政赤字と呼ぶ場合
  が多いようです。        https://bit.ly/35tFHkz
  ───────────────────────────
 ●図の出典/井上智洋著/『ヘリコプターマネー』/日本経済

間接的財政のファイナンス.jpg
間接的財政のファイナンス
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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