2019年11月15日

●「資産を売り負債を圧縮しない理由」(EJ第5129号)

 「日本の財政状況は健全であり、改善の傾向にある」──高橋
洋一嘉悦大学教授の主張です。財務省のいっていることと真逆の
ことを財務省出身の学者が明言しているのです。証拠も示してい
ます。財務省はなぜ間違ったことを主張するのでしょうか。財務
省はウソをついていることになります。
 いや、さすがにウソはついていないのです。ウソをつけばバレ
たとき責任を取らされるからです。「政府の債務は、GDP対比
で200%以上である」ということ自体はウソではないのです。
ただ、資産に言及していないだけです。
 しかし、そういう発表を長くしていると、メディアは完全に間
違って事態をとらえます。2018年12月22日付、朝日新聞
の社説は、国債残高が1989年に161兆円だったのが、20
19年度には、897兆円に増えると指摘した上で、次のように
心配しています。高橋教授の指摘です。
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 歳出全体のおよそ4分の1は借金の返済にあてる国債費が占め
る。このままでは、安定した公的サービスを続けるのも難しくな
る。その危機感を政権に感じられないところが、恐ろしい。
          ──2018年12月22日付、朝日新聞
 ──高橋洋一著『消費増税は嘘ばかり』/PHP新書1174
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 財務省は、こういう文章をメディアに書かせたいので、政府の
債務だけを強調し、危機感を煽るのです。こういう記事を読むと
読者は、日本は借金で危機的な状況にあるので、借金を返すため
に増税はやむを得ないなと感じるでしょう。
 もうひとつ、こういう記事を朝日新聞が書いていることで、記
事にリアリティがあります。朝日新聞はどちらかというと、政権
に批判的な新聞だからです。新聞読者別の安倍政権の支持率を示
します。2017年6月実施の調査です。
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           支持する    支持しない
     産経新聞   86%       5%
     読売新聞   43%      29%
   日本経済新聞   41%      38%
     朝日新聞   14%      70%
     毎日新聞    9%      59%
     東京新聞    5%      42%
                  https://bit.ly/350KwBL
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 ここでもうひとつ、決定的なデータを示します。添付ファイル
を見てください。このグラフは一般政府(中央政府+地方政府)
の資産と負債をあらわしているIMFのグラフです。
 昨日のEJで示したグラフは、中央政府と地方政府、政府関係
機関、中央銀行のすべてを合わせた国全体のバランスシートの国
際比較であるのに対して、今回のグラフは、一般政府(中央政府
+地方政府)の資産と負債のバランスシートの国際比較です。
 このグラフで、一番目立っているのは日本です。なぜなら、負
債は238%、資産は220%と突出しているからです。グラフ
は、純資産順に並んでいます。日本の純資産は、次の計算をする
と、対GDP比マイナス18%になります。
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    資産210% − 負債238% = −18%
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 このグラフは、純資産額が大きい順に並んでいます。縦線(黒
い棒)が左側にある順です。これによると、日本は、アメリカ、
カナダ、ドイツよりは純資産が少ないですが、フランス、英国、
イタリアよりは純資産が多いことを示しています。
 このグラフを見て、世界の財務担当者は、一様に次のような疑
問を持つと思います。
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 グラフからはみ出すほど日本は資産が多いのに、なぜ資産を売
却して、負債を減らさないのか。 ──高橋洋一著の前掲書より
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 当然の疑問です。これについて、高橋洋一氏は、財務省の魂胆
を次のように明らかにしています。
─────────────────────────────
 「まず資産を売って負債を減らす」のがバランスシートを保つ
ための優先策のはずです。では、なぜ日本の(財務省の)常識は
違うのか。財務官僚が愚かで、会計の基本に気付かないからでは
ありません。何よりも財務省が「資産」を抱え込むことが、同省
の官僚に大きなメリットをもたらしているからです。
 そのメリットは、「天下り先の確保」です。政府資産の大半は
金融資産で、天下りに使われているものです。したがって、資産
の売却は天下り先を減らし、官僚の人生設計に狂いを生じさせま
す。彼らは自分の再就職先を守るため、「資産は売れない」と異
を唱えているのです。      ──高橋洋一著の前掲書より
─────────────────────────────
 日本は、採算が良いとはいえない多くの政府機関・団体などの
資産を数多く保有しています。普通の国では、負債が大きいとき
はそれらの資産を売却して負債を圧縮し、資産と負債のバランス
をとるものですが、日本ではそれをやると、「天下り先」が少な
くなってしまうので抱え込むのです。だから、グラフは他国と比
べると、異常な状態になるのです。これは、ほとんど犯罪的な行
為です。これらの自分たちにとって大事な資産を守るため、今後
も消費税の増税をやろうとしているからです。
 問題なのは、財務省が資産については語らず、負債の方だけを
強調することです。つまり、添付ファイルのIMFグラフの左側
(負債)だけを取り上げて、「債務残高の対GDP比を見ると、
我が国は主要先進国のなかで最悪の水準になっている」と訴えて
いることです。     ──[消費税増税を考える/027]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ日本は多額の借金でも「つぶれない」のか
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   日本の借金は1071兆円──財務省が、2017年5月
  10日に発表した今年3月末時点の残高である。この額は今
  世紀に入って約1・5倍に膨らみ、今後も当面増え続ける。
  主要先進国の中で最大の借金を抱える日本は破綻しないのか
  私たちの生活はどうなるのだろう?
   この額を総人口で割ると、1人あたり850万円近く、こ
  れにはもちろん、0歳児も含まれる。年間の給与所得の平均
  520万円(15年、国税庁調べ)と比べると1・6倍以上
  だ。誤解のないよう申し添えると、これはあくまで国(日本
  政府)の借金で、後述のように国民はむしろ貸している側で
  ある。借金がここまで膨らんだのは、政府が長年赤字を続け
  ているからだ。2000年降で見ると、年間の平均赤字額は
  30兆円以上にのぼり、これがほぼそのまま借金になる。
                  https://bit.ly/2QgPgPv
  ───────────────────────────
  グラフ出典/──高橋洋一著の前掲書より

各国政府の資産と負債のバランスシート/2016年.jpg
各国政府の資産と負債のバランスシート/2016年
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 消費税増税を考える | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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