トップが誰になっても、今後ますます険しくなっていき、修復さ
れることはないと考えます。これは、国の価値観が根本的に異な
るからです。
中国をWTOに加盟させ、その経済発展を援助した米国、日本
をはじめとする西側諸国は、そのようにサポートすれば、中国も
民主主義国家に脱皮すると考えたからです。香港の1国2制度も
50年も経てば、中国の方が変わると期待したのです。
しかし、そのいずれも予測は大きく外れ、中国は巨大な経済力
を持つ、米国に対抗する超覇権国になろうとしています。西側諸
国は、やっと今になってそのことに気が付いたのです。これは、
最近の日韓関係を見ても明らかです。
現在、日本と韓国の関係は、どちらかが一歩引いて謝罪し、修
復を求めない限り、解決しないと思います。これまでは、つねに
日本が一歩引いて、問題を解決してきたのですが、今回ばかりは
日本は一歩も引かないし、何が起ころうと、韓国の文在寅政権も
一歩も譲ることはないと考えます。文在寅大統領は、絶好の機会
とばかり、GSOMIAを廃棄しています。これで北朝鮮に恩が
売れるし、そのバックに君臨する中国にもきっと褒めてもらえる
からです。文在寅大統領はまさに確信犯です。
どうしてこうなってしまうのでしょうか。それは価値観の違い
です。現在、販売中の『文藝春秋』10月号の特集に、「日韓断
絶」が取り上げられていますが、そこにヒントがあります。
韓国によるGSOMIA破棄は、作家で外交評論家の佐藤優氏
によると、日本外交の”大勝利”であるとして、その理由につい
て、次のように述べています。
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首相官邸や外務省の狙いは、まさにこのGSOMIAを対日
カード″として使わせない、ということにありました。
韓国側は、「ホワイト国」除外の撤回や徴用工問題での譲歩な
どをGSOMIAを″人質≠ノして要求してきます。この協定が
あるかぎり、今後ずっとこの状況が続いてしまう。これでは日本
側からすれば、「すでに実効性を失っていて、あってもなくても
実質的に同じなら、こんな協定はなくていい」となる。しかも、
米国が望まない協定の破棄を日本からではなく韓国に言わせる。
そうすれば、「責任は百パーセント韓国側にある」と主張できま
す。まさにこうしたシナリオ通りに事態が動いたわけです。その
意味で、短期的に言えば、日本外交の大勝利≠ナす。
──『文藝春秋』10月号「総力特集/日韓断絶/
憤激と裏切りの朝鮮半島」
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「GSOMIAなんてなくても大丈夫」ということを確信した
のは、GSOMIA破棄決定直後の8月24日早朝に、北朝鮮が
発射した短距離弾道ミサイルについて、日本政府は韓国よりも早
く発表したことです。しかも、弾道ミサイルであることを断定し
ています。これまでの6回の北朝鮮のミサイル発射に関しては、
いずれも韓国の方が早かったにもかかわらずです。日本と韓国の
発表時間は次の通りです。実に26分の差があります。
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◎日本/防衛省発表
8月24日/午前7時10分
◎韓国/韓国合同参謀本部発表
8月24日/午前7時36分
──『文藝春秋』10月号(2019年)
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日本と韓国は準同盟国のはずです。しかし、その韓国の大統領
が、臨時閣僚会議を開き、日本を名指しして、「盗人たけだけし
い」といった時点で、その信頼関係は完全に壊れています。そん
な国と、軍事機密協定など結ぶことは困難です。ただ、韓国にし
てみると、GSOMIAの破棄は米国との関係を確実に悪化させ
ます。これは韓国としてはできるだけ避けたいので、一時は「G
SOMIAを一時延期させ、実質的に情報の交換を行わず、対日
カードとしてGSOMIAを利用する」と案も検討したといわれ
ています。しかし、8月15日の「光復節」で文大統領が日本に
対話を呼びかけたにもかかわらず、日本が反応しなかったことか
ら、GSOMIAの破棄に踏み切ったのです。
文在寅政権になる前の朴槿恵政権の頃から、韓国はいつもゴー
ルポストを動かして日本を揺さぶってきています。つまり、韓国
は日本に対して何らかの自信を持ち始めたのです。「日本何する
ものぞ!」という自信です。もともと「事大主義」(大にはつか
える)でやってきた国ですが、あることによって、日本に対して
自信を深めているのです。それによって、日韓基本条約なんか韓
国の力が弱かった頃の不平等条約であり、そんなものは覆しても
いいという考えています。その「あること」について、佐藤優氏
は、次のように解説しています。
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日韓基本条約が締結された1965年当時、韓国の一人当たり
名目GDPは100ドルを超える程度で、日本の約8分の1。そ
れが2018年時点では、日本が3万9000ドルなのに対して
韓国は3万1000ドルにまで伸びています。しかも、韓国の方
が物価が安いゆえに、購買力平価で見た生活水準はほぼ変わらな
い。インバウンドで来日した裕福な韓国人からすれば、皮膚感覚
として「日本の生活水準は低い」と感じるほどでしょう。その結
果、韓国が経済的に弱かった時期に結ばれた日韓基本条約や日韓
請求権協定が不当な条約に見えるのです。
──『文藝春秋』10月号(2019年)
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韓国の一人当たりの名目GDPがここまで伸びたことには、日
本が大きく寄与しているのですが、韓国はそういうことを露ほど
も考えない国なのです。 ──[中国経済の真実/097]
≪画像および関連情報≫
●日韓経済力比較 差は縮まりつつあるが逆転の可能性は?
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元徴用工への賠償命令判決にレーダー照射問題と、日韓関
係に改善の兆しは見えない。いま両国に求められているのは
経済力から軍事力、学力からスポーツまで、感情論が一切排
除されたデータに基づき、お互いの現状を認識し合うことで
ある。
ここでは経済力を見てみる。名目GDPは総人口数の多い
日本が韓国を上回るのは当然だが、国民一人当たりの同数値
で比べても日本は約4万ドルで、韓国は約3万ドル。世帯年
収は日本が429万円で、韓国は357万円と、現状は日本
が上回っている。
一方で、IMF(国際通貨基金)が予測する2019年の
経済成長率は、日本が1・1%であるのに対し、韓国は2・
6%とその差は徐々に詰まりつつある。今後、逆転の可能性
はあるのか。元韓国大使で評論家の武藤正敏氏はこう見る。
「サムスンをはじめとする韓国の財閥は、オーナーによる
カリスマ経営や徹底した競争主義で世界に通用する急成長を
遂げ、それが韓国成長の原動力となってきた。ただし、文在
寅大統領は『財閥解体』を掲げており、サムスンも2018
年10〜12月期は前年同期比29%減益となるなど落ち込
んでいる。このままでは、成長に歯止めがかかるのではない
か」 https://bit.ly/2lNu1bg
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作家/佐藤優氏