2019年09月27日

●「瀬取り監視と航行自由作戦の関係」(EJ第5097号)

 9月23日夕方(日本時間24日朝)、ドナルド・トランプ米
大統領と韓国文在寅大統領が、ニューヨークで首脳会談を行って
います。この席では、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMI
A)の破棄についての話は出なかったといわれています。実際に
は、出たかもしれませんが、公式には、GSOMIA破棄の件が
話し合われたという情報は入っていません。
 これには、2つの考え方があります。1つは、米国は国務省を
はじめ、関係部署の要人が、正式に不満を表明しており、改めて
大統領がいうまでもないという考え方です。
 もう一つは、トランプ大統領は、GSOMIAのことがわかっ
ていないのではないかというものです。これは、24日のBSフ
ジプライムニュースにおいて、笹川平和財団上席研究員の渡邊恒
雄氏が述べています。
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 トランプ大統領は、文書は読まないし、長いブリーフィングを
嫌がる。最近はボルトン大統領補佐官が罷免されたので、ブリー
フィングをする人がいなくなっています。だから、もしかしたら
GSOMIAのことがよくわかっていないのかもしれない。
            ──渡邊恒夫笹川平和財団上席研究員
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 米国大統領としては、お粗末な話ですが、会談の様子は、2人
の写真を見る限り、トランプ大統領は非常に険しい表情をしてお
り、あまりよい雰囲気の会談になっていないことは確かです。
 ここで大事なことがあります。米国は、朝鮮半島を失ったとし
ても、アジアの権益を失うことはないということです。しかし、
地政学的に考えると、台湾やフィリピン、インドネシアを失うと
太平洋の半分まで失うことになります。したがって、この日本列
島、沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ線は、第1列島線といいます
が、このラインの防衛は米国にとって重要であり、とくに台湾の
重要さは、朝鮮半島の比ではないといえます。
 しかし、台湾には、中国のスパイとされる軍人も大量に入り込
んでいて、一朝ことが起きると、台湾軍にまかせるには不安が多
いといわれます。とにかく中国の「ハニートラップ」に、ひっか
かっている者が多いそうです。そこで台湾有事のさいには、前衛
部隊として台湾軍には活動させるものの、自衛隊が協力するかた
ちで、作戦本部は米軍が仕切る体制をとると思われます。
 台湾には、不安な要素がもうひとつあります。それは、中国の
軍事力が増強している点です。これによって、米軍と中国の間に
局地戦が起きる恐れがあります。福島香織氏は、その懸念につい
て、次のように述べています。
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 台湾で不安な要素は、アメリカ国防情報局(DIA)が、20
19年年初に発表した「中国軍事カレポート」で、中国の兵器シ
ステムの一部の領域がすでに世界最先端水準になっていると論じ
られていたことです。
 人民解放軍は自軍の戦闘能力に自信を深めており、最終的には
中国指導部に局地戦争を発動する冒険を犯させうるという分析を
出しています。そのレポート自体には「台湾」という言葉は出て
こなかったと思いますが、このレポートをまとめた関係者がAF
Pに対して、「最大の心配事として、中国が自分たち解放軍の実
力が相当高くなったと自信を深めたとき、中国の国内問題が一つ
の臨界点に達したら、軍事力の使用で地域の衝突問題を解決しよ
うとすることがありうる」とコメントしているのです。「その自
信の度合いによっては、軍事力による台湾統一という選択肢を中
国指導部に取らせる可能性もある」というところまでコメントし
ている。             ──渡邊哲也/福島香織著
     『中国大自滅/世界から排除される「ウソと略奪」の
                中華帝国の末路』/徳間書店
─────────────────────────────
 実は、米軍が「航行の自由作戦」を継続して行っているのは、
このためなのです。前号で、「瀬取り」監視活動の背景について
詳しく述べたのは、一つは「韓国が参加していないこと」を指摘
するためであり、もうひとつの理由は、南シナ海での有事のさい
直ちに対応がとれる体制の確保です。
 現在、北朝鮮制裁のための「瀬取り」の監視名目で、日本、米
国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、フラン
スの7ヶ国が東シナ海に入ってきていますが、もし、南シナ海で
何かが起きたとき、これらの軍は、すぐにも南シナ海に入ること
ができます。つまり、「瀬取り」監視目的と「航行の自由作戦」
が連動しているわけです。これには中国は手も足も出ません。
 日本と英国の安全保障声明では、2012年に完成予定の英国
の新鋭空母「クイーン・エリザベス」を南シナ海に派遣すること
が決まっています。また、この地域に駐留させる計画もあるとい
います。この「航行の自由作戦」について、渡邊哲也氏は、次の
ようにコメントしています。
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 中国と軍事対立のあるインドも、これまでのインド洋からヨー
ロッパに向けての海洋戦略を大胆に変更し、南シナ海から太平洋
への展開を拡大する「アクト・イースト」に舵を切り替え始めて
いるのです。そして、アメリカ軍、自衛隊、オーストラリア軍、
フランス軍など、太平洋を守る部隊との合同軍事訓練を拡大して
います。南シナ海は一種の内海であり、上下の海域を閉鎖されれ
ば、中国は外洋には出られなくなる。これを熟知する海洋大国が
軍事作戦で威嚇しているわけです。中国の肩を持つふりをしてい
るロシアですが、歴史的にも中国とロシアは同床異夢であり、ア
メリカ優勢とみれば、中国を裏切る可能性も高い。そうなれば、
中国は一気に劣勢に転じるわけです。
           ──渡邊哲也/福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/096]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ米政権、南シナ海での中国のミサイル実験を憂慮
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   【ワシントン=黒瀬悦成】トランプ米政権は、南シナ海で
  中国が最近、対艦弾道ミサイルとみられるミサイル発射実験
  を行ったことに対して警戒を強めている。米軍関係者はミサ
  イル発射について、南シナ海の軍事拠点化を進める中国が、
  西太平洋からの、米海軍の排除を図る「接近阻止・領域拒否
  (A2/AD)戦略」を本格化させている兆候とみており、
  米政権は南シナ海での「航行の自由」作戦をさらに活発化さ
  せるなどして中国の覇権的行動を牽制していく考えだ。
   米国防総省のイーストバーン報道官は7月2日、「中国が
  南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島付近の人工構
  造物から、ミサイルを発射したことを承知している」と確認
  した。報道官はその上で、ミサイル発射は中国の習近平国家
  主席が2015年9月に訪米した際、ホワイトハウスでの米
  中首脳会談後の声明で南シナ海に造成した人工島を軍事拠点
  化しないとする声明を発表したにもかかわらず、今回の行動
  は声明と真っ向から矛盾するとして、「真に憂慮すべき事態
  だ」と懸念を表明した。
   さらに、「中国の行動は、地域に平和をもたらしたいとす
  る主張に反し、南シナ海の領有権を主張する他の関係国に対
  する威嚇を狙った強圧的行動だ」と非難した。米海軍は今年
  に入り、南シナ海にある中国の人工島の12カイリ(約22
  キロ)内に艦船を派遣する航行の自由作戦を頻繁に実施。ま
  た、台湾海峡でも1カ月に1回の割合で艦船を通過させ、中
  国に対抗する姿勢を鮮明にしてきた。中国による今回のミサ
  イル発射は米海軍による一連の動きに、警告を発する狙いが
  あった可能性がある。      https://bit.ly/2lUkBdZ
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「航行の自由作戦」/米国.jpg
「航行の自由作戦」/米国
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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