2019年09月20日

●「習近平主席の台湾政策『習五条』」(EJ第5093号)

 このテーマの連載は、9月30日まで継続しますが、中国問題
を取り上げている以上、台湾問題に言及する必要があります。い
うまでもなく、台湾問題は日本に直接影響する問題だからです。
 中国の歴代トップは、任期中のどこかの時点で、台湾について
の方針というか、政策というか、メッセージを発表しています。
それは、次のように呼ばれています。
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      1.「葉九条」/葉剣英/1981年
      2.「ケ六条」/ケ小平/1983年
      3.「江八点」/江沢民/1995年
      4.「胡六点」/胡錦濤/2008年
      5.「習五条」/習近平/2019年
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 あらかじめ知っておくべきことがあります。それは「台湾同胞
に告げる書」の存在です。これは、1979年元旦に全国人民代
表大会常務委員会によって発表された声明です。その内容は、祖
国の平和統一に取り組む政治運営方針を宣言し、軍事対峙状態の
打ち切り、両岸同胞の自由な往来、航路・郵便・商業経路の開通
および経済文化交流の展開などの重要な主張を提唱したものであ
り、両岸関係(中国と台湾)の発展に、新たなチャンスをもたら
した歴史的文書であるといえます。
 その後、葉剣英、ケ小平、江沢民、胡錦濤の歴代4主席が、そ
れぞれ台湾に関する政策を発表していますが、それらが、上記の
「葉九条」以下の政策です。そして、現在の習近平主席は、20
19年1月2日に「台湾同胞に告げる書40周年記念行事」の席
上において、「習五条」と呼ばれる台湾政策を発表しています。
 これらの中国国家主席の台湾政策のなかで、「武力統一を排除
しない」ということを明確に述べているのは、「江八点」と「習
五条」だけです。この2つについて考えていきます。
 最初は「江八点」について考えます。
 江沢民主席による「江八点」は、台湾に対して、統一のために
は武力行使も辞さない強硬姿勢を打ち出しています。これには実
は伏線があります。というのは、1996年には台湾で総統選挙
が行われ、李登輝氏が立候補したのです。そのとき、李登輝候補
は、両岸の政治分離の現実や、民主化促進を含む中国が絶対に容
認できない6つの主張を盛り込んだ「李六点」を発表し、選挙を
戦っていたのです。
 李登輝候補の優勢が伝えられると、江沢民主席は、中国人民解
放軍に命じて、選挙への恫喝として軍事演習を強行し、台湾に近
い基隆沖海域にミサイルを撃ち込むなど、威嚇行為を行ったので
す。しかし、これに対して米国のクリントン政権は、ベトナム戦
争以来の最大級の軍事力を行使して反応したのです。ニミッツを
中心とした二つの航空母艦群や第7航空母艦群、インディペンデ
ンスを中心にした第5航空母艦群が台湾海峡に入ったのです。こ
れには、中国は成す術もなく、海軍を引き上げています。第3次
台湾海峡危機です。江沢民政権の大失敗です。
 江沢民政権の後を継いだ胡錦濤政権は、江沢民政権の対台湾政
策の失敗を見て、あくまで両岸の平和的発展に重点を置き、対話
や融和政策を呼びかける「胡六点」を打ち出しています。そこで
は「台湾統一」というスローガンを封印し、経済に重点を置き、
ウィンウィンの関係を目指したのです。いま考えると、この胡錦
濤政権のこうした台湾政策は比較的うまくいき、親中派の国民党
馬英九政権を誕生させています。経済政策に重点を置き、中国の
巨大市場を開き、両岸のビジネスを大きく発展させています。福
島香織氏は、この胡錦濤政権時代が、台湾人民の心を中国にしっ
かりと引き寄せ、一番中台統一に現実味が出てきた時期であった
といっています。
 しかし、習近平主席は、胡錦濤主席の台湾政策を引き継がず、
胡錦濤政権では封印した「台湾統一」を再び持ち出し、馬英九政
権に貿易のサービス協定の調印や施行を迫るなど、その経済的な
併合を急ぐ姿勢を露骨に見せるようになったのです。
 これに台湾の若者が危機感を覚えるようになり、そして起きた
のが「ひまわり学生運動」です。2014年3月18日、台湾の
学生と市民らが、立法院(日本の国会議事堂にあたる)を占拠し
たのです。3月18日に起きたことから、「318学運」とも呼
ばれています。
 これは、習近平台湾政策の明らかな失敗であり、これが原因で
国民党が敗れ、蔡英文・民進党政権が誕生するのです。2016
年5月20日のことです。
 台湾での蔡英文政権の誕生は、習近平主席を焦らせ、これが、
2019年1月2日の「習五条」の内容に影響しています。その
内容は次の通りです。そこでは「中国人は中国人を攻撃しない。
だが武力行使放棄は約束しない」と恫喝しています。
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 @平和統一の実現が目標。台湾同胞はみな正々堂々とした中国
  人で、ともに「中国の夢」を共有できる。台湾問題は民族の
  弱さが生んだもので「民族復興」によって終結する。
 A一国二制度の台湾版を模索。「92年コンセンサス」と台湾
  独立反対という共同の政治基礎の上で、各政党各界の代表者
  と話し合いたい。
 B一つの中国原則を堅持。中国人は中国人を攻撃しない。だが
  武力行使放棄は約束しない。外部勢力の干渉と少数の台湾独
  立派に対しては一切の必要な選択肢を留保する。
 C経済融合を加速させる。両岸共同の市場、インフラ融合を進
  める。特に馬祖・金門島のインフラ一体化を推進。
 D台湾同胞との心の絆を強化。台湾青年が祖国で夢を追い実現
  することを熱烈歓迎。          ──福島香織著
   『習近平の敗北/紅い中国・中国の危機』/ワニブックス
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              ──[中国経済の真実/092]

≪画像および関連情報≫
 ●習近平の台湾政策演説に拒否反応を示した台湾
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   2019年1月2日、中国の習近平国家主席は、台湾政策
  について包括的な演説を行い、その中で、台湾統一は「一国
  二制度」によるという方式を打ち出した。「一国二制度」は
  香港が中国に返還された際に中国が50年間の香港統治のた
  めの方式として約束したものである。
   蔡英文総統は、同発言に対し、直ちに「台湾の大多数の民
  意が『一国二制度』を受け入れることは絶対にない」と断言
  した。さらに、野党国民党支持者などで受け入れる人の多い
  「92年コンセンサス」(「一つの中国」の内容は中台それ
  ぞれが解釈する。台湾にとっては「一つの中国」は「中華民
  国」を意味する)に関しては、北京当局によって「一国二制
  度」と実質的に同じものと定義されたため、これまで期待さ
  れていた同床異夢の曖昧さがなくなったとして、もうこれを
  口にするはやめるべきだと訴えた。
   「一国二制度」は、かつてケ小平によって台湾統治の方式
  として検討されたことはあったが、実際には香港統治に利用
  された。今日の民主化した台湾の人たちが受け入れる余地の
  ほとんどない方式であり、今日の状況下でこのような方式を
  打ち出したこと自体、中国がいかに台湾の現状を知らないか
  の証左と見られても不思議ではない。
                  https://bit.ly/2GA4DOj
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「習五条」を発表する習近平主席.jpg
「習五条」を発表する習近平主席
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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