2019年09月19日

●「香港デモの介入への3つのリスク」(EJ第5092号)

 もし、米議会で、「香港人権法案」が成立すると、どうなるの
でしょうか。
 香港人権法案には、米国が香港に付与した特別待遇を悪用して
いないかどうかを監督・監査する権限があることに加えて、香港
の自治権が毀損されていないかどうかについても審査し、毀損が
認められた場合、米国は香港に付与してきた特別待遇を打ち切る
ことができます。
 さらに、香港の人権や民主・自治を侵害した者に対しては、米
国における資産を凍結したり、米国への入国を拒否するなどの制
裁を課すことが可能になります。もし、デモ隊に対して、当局側
が武力を用いて制圧するようなことがあると、それらに関係する
当局者たちが制裁の対象者にされる可能性があります。
 この法案審議に関して、中国は当然のことながら、反発を強め
ています。中国は香港デモのバックには、必ず米国がいると感じ
ているからです。といっても、言葉では、「とんでもない内政干
渉である」と語気を強めていますが、米議会の法案の審議のこと
ですから、中国としては、どうすることもできないのです。トラ
ンプ大統領も中国に、香港デモを貿易交渉に関連させて、次の発
言をし、プレッシャーをかけています。
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 第二の天安門事件となれば、対処が非常に難しくなる。中国が
香港で何らかの暴力を行使すれば、中国との貿易交渉で合意する
ことは非常に難しくなる。私は、中国の習主席がこの問題を解決
できると信じており、習主席が抗議に参加している人々と会談す
れば解決するはずだ。         ──トランプ米大統領
                  https://bit.ly/2maVLX4
─────────────────────────────
 実際に中国としても、香港から数10キロの深せんに武装警察
を集結させており、その訓練シーンが報道させるなど、香港に強
いプレッシャーをかけています。もし、ゴーサインが出れば、数
時間のうちに装甲車を含めて香港中心部に突入が可能であるとい
います。しかし、ゴーサインを出すには、香港政府が「香港基本
法第14条」に基づき、中国政府に対して協力を求めるか、中国
政府が「駐軍法第6条」に基づき、独自に判断を下すか、どちら
かになります。
 しかし、どちらにせよ、中国の武装警察が鎮圧に乗り出すとな
ると、天安門事件並みの大混乱になることは確実であり、中国と
しては容易にはできない重い決断になります。なぜなら、この決
断には、次の3つのリスクが伴うからです。
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 1.金融・貿易都市としての香港を実質的に失うことに等し
   く、経済的リスクが大きい。・・・・「第1のリスク」
 2.中国の国家統一にかかわる香港・台湾問題において、政
   策の見直しが不可欠になる。・・・・「第2のリスク」
 3.「武力で民衆のデモを鎮圧」とネガティブに報道され、
   マイナスのイメージになる。・・・・「第3のリスク」
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 「1」のリスクについて考察します。
 中国にとって香港の存在は、米中貿易摩擦の激化によって、中
国がドルなどの外貨不足に陥ったときの備えとして、きわめて重
要な位置を占めています。
 現状でも、中国への海外からの直接投資は、その半分以上が香
港経由であり、しかも、香港に拠点をおく海外企業は膨大な数で
あり、多くが直接・間接に中国とのビジネスを行っています。も
し、それらの海外企業が一斉に香港から逃げ出せば、香港の経済
価値は一挙に失われることになります。これによって、膨大な資
産価値を蓄えている香港の不動産・証券市場もクラッシュし、そ
の影響は中国経済に波及することは確実です。
 「2」のリスクについて考察します。
 もし、武装警察にせよ、中国が香港に介入すると、それは「一
国二制度」が名実ともに失敗であったと国際社会によって認定さ
れることになります。その代価は、単に香港のみならず、中国が
国家統一の目標に掲げる台湾問題で払うことになります。目下、
経済の失政を問われて支持率が下がっている台湾の蔡英文総統は
香港デモの長期化によって、日々香港問題に同情的になる台湾世
論の後押しを受けて、リードされていた国民党の韓国瑜候補に追
いつきつつあります。これは、中国にとって大問題です。
 「3」のリスクについて考察します。
 これは、真実がそのまま世界中に報道されるリスクです。香港
デモに対して、明確なかたちで中国政府が介入すると、それは確
実にネガティブに報道されることになります。なぜなら、香港は
北京ではないからです。天安門事件のときのように、情報の封鎖
は不可能であり、世界中に詳細な情報が流され、これによって、
大国としての地位を築きつつある中国の国際的な名声は一気に地
に落ちることになります。それは、また、「一帯一路」を国策と
して世界中に展開する中国の大戦略にも深いダメージを及ぼすも
のになることも確実です。
 このように、中国政府にとって香港介入は、切りたくても切れ
ないカードであるといえます。しかし、この見方は、いわゆる西
側の論理に立っての客観的判断です。中国政府の立場に立つと、
上記の「3つのリスク」を冒しても、香港のデモは、中国の手に
よって鎮圧する必要があると考えるはずです。
 もし、香港の解決において、この西側の論理を受け入れると、
それは単に香港や台湾のみならず、国内で押さえ込んでいるウィ
グルやチベットにまで波及し、中国共産党の一党支配そのものが
揺らぐ恐れがあります。そうなると、中国としては、やらざるを
得なくなるものと考えられます。すべては、習近平国家主席の決
断にかかっています。中国が、香港民衆の要求をすべて飲んで、
デモを終息させるとはとても思えない状況です。
              ──[中国経済の真実/091]

≪画像および関連情報≫
 ●「第2の天安門」の懸念が消えない香港デモ
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   8月8日付の英エコノミスト誌は、天安門事件のようなこ
  とにならないようにとの希望、期待を表明し、そういうこと
  になった場合、「中国の安定も繁栄も」悪影響を受けると中
  国に警告している。しかし、中国の共産党指導部がどう考え
  るか、予断を許さない状況である。
   ここで思い出される事件は、1968年のソ連軍のチェコ
  侵攻である。まさかソ連がそこまで乱暴なことはしないであ
  ろうと考えていたが、間違いであった。8月21日、タス通
  信が「ソ連はチェコ人民に友好的援助を提供することにした
  その援助には軍事的手段によるものも含まれる」と報じ、ソ
  連軍は、チェコに軍事侵攻した。実は、この侵攻の前に、赤
  軍とワルシャワ条約機構の軍隊がチェコ周辺で演習をしてい
  たことが、あとから分かった。
   今回も香港に近い深せんで人民解放軍が演習をしている。
  部隊が集結している。それを踏まえて、トランプ大統領は、
  中国に自制を求め、習近平主席に香港のデモの代表者らと対
  話することを訴えているが、習近平がそれに応じる気配は今
  の所ない。人民解放軍は、香港自治政府の要請があれば、い
  つでも出動する用意があるとしており、国務院の香港担当部
  局は、我々の自制を弱さと受け取ってはならないと警告を発
  している。           https://bit.ly/2kj2gXk
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「第2の天安門事件の懸念が消えない香港デモ」.jpg
「第2の天安門事件の懸念が消えない香港デモ」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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