2019年09月03日

●「華為技術に大衝撃を与えるARM」(EJ第5081号)

 2019年5月16日、米国商務省は、ファーウェイとその関
連会社68社をEL(エンティティリスト)に追加すると発表し
ましたが、これによって米国企業は、政府の許可なしに、ファー
ウェイに対して、製品や部品などを売買することはできなくなっ
ています。
 重要なのは、この制裁措置は米国だけの問題ではなく、米国の
技術や製品を利用した第三国の企業が、ファーウェイと取り引き
した場合にも、再輸出として制裁が適用されることです。たとえ
ば、米国以外のある企業が、米国の部品を一定割合利用した製品
を開発し、その製品をファーウェイに販売した場合にも、制裁が
及ぶという厳しいものです。
 これに違反すると、今度はDPLに掲載されてしまいます。D
PLは「重大違反者リスト」のことで、次の英語の頭文字をとっ
たものです。
─────────────────────────────
        DPL/Denied Persons List
              重大違反者リスト
─────────────────────────────
 DPLに掲載されると、米国市場から締め出され、かつ米国や
海外からの輸出もストップされます。つまり、DPLはサッカー
でいうと、イエローカードを2枚もらったのと同じです。
 それでも違反を重ねると、最後の手段であるSDNリストに入
れられ、金融制裁を受けることになります。これによって、ドル
送金の禁止や在米資産の凍結が行使され、身動きが取れなくなっ
てしまいます。ファーウェイは、今のところまだSDNリストに
は入っていません。SDNについては、8月13日のEJ第50
66号で説明しています。      https://bit.ly/2ORQzFC
 これに素早く対応したのがグーグルです。5月20日、ファー
ウェイの新しいスマホに対し、ハード、ソフト(アンドロイドを
含む)を供給しないと発表したのです。このグーグルの、発表に
よって、世界的に、ファーウェイとの取引きを中止する動きが広
がったのです。ロイターによると、5月22日の時点で、次のよ
うな企業が、ファーウェイとの取引中止を発表しています。
─────────────────────────────
  1.アルファベット
  2.ルメンタム・ホールディングス(光学製品)
  3.コルボ(半導体)
  4.アナログ・デバイシズ(半導体デバイシズ)
  5.インファイ(半導体)
  6.アーム(半導体設計)
  7.シノプシス(半導体設計支援)
  8.パナソニック
  9.米国半導体メーカー各社
    インテル、クアルコム、ザイリンクス、ブロードコム
    各社           ──渡邊哲也著/徳間書店
       『「中国大崩壊」入門/何が起きているのか?/
        これからどうなるか?/どう対応すべきか?』
─────────────────────────────
 こういう動きに対してファーウェイは、表面的には、非常に強
気な対応をしていますが、最も痛手であると思われるのが、半導
体設計の英国の「アーム/ARM」がファーウェイへのライセン
スを停止したことです。アームの正式な名称は、アーム・ホール
ディングス(以下、アーム)といいます。
 ところで、アームとはどういう企業かご存知でしょうか。
 アームについて話す前に、その前提知識を少し知る必要があり
ます。PCのCPUといえばインテルが有名です。「インテル、
入ってる」のあのCMのインテルです。インテルは、マイクロソ
フトと組んで「ウィンテル」時代を作り上げ、CPUといえばイ
ンテル、OSといえばウインドウズといわれるほどになったのは
周知の事実です。
 今でもPCのCPUは、アップルは例外として、インテルか、
その仲間のAMD(アドバンスト・マイクロ・デバイス)が中心
ですが、スマホやタブレットのCPUは違うのです。スマホやタ
ブレットもPCそのものであり、もちろんCPUが搭載されてい
ますが、そのCPUは、ズバリ、アームといっても過言ではない
のです。そのシェアは実に90%以上に達しています。
 それでは、なぜ「アームのCPU」といわないのでしょうか。
それは、CPUの製造は行わず、CPUの設計を行い、いわばそ
の設計図についてのライセンスを供与するという独自のビジネス
モデルによって急成長した企業です。アームのCPUの最大の特
色は、消費電力が少なくて済む設計になって点です。
 2010年(12月期)時点でのアーム・ホールディングスの
概要を示しておきます。
─────────────────────────────
 ◎英国/アーム・ホールディングスの概要
  売上高  ・・・ 4億660万ポンド(約520億円)
  経常利益 ・・・ 1億6740ポンド(約214億円)
  設立   ・・・ 1990年
  所在地  ・・・ 英国ケンブリッジ
─────────────────────────────
 2010年当時のアームの売上高は、わずか日本円で520億
円に過ぎない。それが、2016年の時点では、米アップル、米
グーグル、韓国サムスン電子、ソニー、任天堂など、世界の名だ
たるIT企業にとってアームは必要不可欠な存在であり、ファー
ウェイもアームに大きく依存する事態になっています。
 ファーウェイは、ハイシリコンという半導体制作企業を有して
いますが、そのハイシリコンがアームの半導体設計に大きく依存
しているのです。したがって、今回、アームが手を引いたことは
ファーウェイにとって、大打撃であると思われます。
              ──[中国経済の真実/080]

≪画像および関連情報≫
 ●追い詰められるファーウェイ/世界読み解くニュースサロン
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   中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の任正
  非・最高経営責任者(CEO)は2019年1月20日、中
  国中央テレビ(CCTV)のインタビューで、ファーウェイ
  排除の動きを強めてる米国に対し、こんな発言をしている。
  「買わないなら向こうが損するだけだ」
   ファーウェイの騒動が18年に大きく動いてから、任正非
  CEOやファーウェイは強気の姿勢を崩していない。ただそ
  の一方で、ファーウェイはこんな「顔」ものぞかせている。
  実は最近、同社はメディアに対する「怪しい」PR活動をし
  ていることが暴露されているのだ。
   米ワシントン・ポスト紙は3月12日、「ファーウェイ、
  “お色気攻勢”も意味ないよ」という記事を掲載。この記事
  の筆者であるコラムニストが、「これまで聞いたこともない
  ようなPR企業から、広東省深セン市にあるファーウェイ本
  社のツアーの招待を受けた」と書いている。さらにコラムニ
  ストは、「この申し出によれば、私が同社を訪問し、幹部ら
  と面会し、『同社が米国で直面しているさまざまな課題につ
  いて、オフレコ(秘密)の議論』をする機会があるという。
  ファーウェイはこの視察旅行で全ての費用を支払うつもりだ
  とし、さらにこの提案を公にはしないよう求めてきた」と書
  く。「そこで私は全てのやりとりと、申し出を却下する旨を
  ツイッターで公開した」これは、米国のジャーナリストの感
  覚では買収工作にも近い。    https://bit.ly/2HF0Cro
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ARMのチップ.jpg

ARMのチップ
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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