2019年08月28日

●「奉陪到底/最後まで付合ってやる」(EJ第5077号)

 話を米中貿易戦争に戻します。このテーマも今回が76回目で
あり、そろそろ締めくくる必要があります。さて、次は、米中の
貿易戦争に通暁しているある中国人の言葉です。
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 5月以降、中国国内で完全に潮目が変わった。それまではトラ
ンプ政権にある程度、花を持たせてやれば解決は可能と考えてい
た。ところがもうわが方の堪忍袋の緒が切れたのだ。外交部の報
道官も「奉陪到底」と強調しだしたではないか。──近藤大介著
      『ファーウェイと米中5G戦争』/講談社+α新書
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 「奉陪到底」は、前に一度説明したことがあります。この言葉
は、中国では次のように発音します。
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      「奉陪到底」/フェンペイ・タオディ
            最後まで付き合ってやる
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 これは、2011年に中国で公開された任侠映画のタイトルで
す。2018年3月にトランプ大統領が貿易戦争の宣戦布告をし
たさい、その対応策を議論する幹部会議の席で、習近平主席がこ
の言葉を使ったとして、有名になったといわれています。
 潮目が変わる5月に何があったかを探ってみると、米中閣僚会
議の決裂とファーウェイのEL(エンティティ・リスト)入りで
す。これで習近平国家主席は、ハラをくくったのです。「とこと
ん、アメリカと付き合ってやる!」と。
 米国は、既に対中輸入額の2500億ドル分について,25%
の関税をかけています。第1弾340億ドル、第2弾160億ド
ル、第3弾2000億ドル、計2500億ドルです。
 これに対して中国は、第1弾と第2弾は同額分の報復関税をか
けて対抗しましたが、第3弾に関しては600億ドル分しか報復
関税をかけることができなかったのです。対米輸入額がそんなに
なかったからです。
 ところが、トランプ政権は、9月1日に1100億ドル、12
月15日に1600億ドル──これで対中輸入額のほとんど全額
になりますが、これらに対して10%の関税を第4弾としてかけ
ると宣言します。これに対して、中国が人民元安で対抗しようと
すると、8月5日に米国は中国を「為替操作国」に指定するなど
対立はますます激しくなっていきます。
 そこで8月23日に中国が動きます。中国は、米国のいう9月
1日と12月15日の2回に分けて、対米輸入額5078品目、
758億ドル(約8兆円)分の米国製品に5%か10%の追加関
税をかけると公表したのです。これによって、米農家の関心の高
い大豆は、追加関税率が現行の25%から9月から30%に跳ね
上がることになります。これにトランプ大統領は激怒し、次のツ
イートを投稿しています。
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 われわれに中国は必要ない。率直に言えば、中国がいない方
 が、状況はマシだろう        ──トランプ大統領
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 そして、既に25%の関税のかかっている、第1弾〜第3弾の
2500億ドル分の税率を30%に引き上げ、10%をかけると
いっていた第4弾の2700億ドルに対しては、5%引き上げて
15%にする──このように、米通商代表部(USTR)は即日
発表したのです。
 目には目を、歯には歯をの報復合戦です。米国と中国がこれを
繰り返して行くと何が起きるのでしょうか。近藤大介氏によると
中国は次の4段階に分けて考えているといいます。分かりやすい
ように言葉の表現を一部をいい換えています。
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     第1段階「関税合戦」
         ・米中の関税の掛け合い
     第2段階「覇権争い」
         ・5Gハイテク覇権争い
     第3段階「経済戦争」
         ・経済のブロック化進行
     第4段階「軍事衝突」
         ・台湾をめぐる局地戦闘
                ──近藤大介著の前掲書より
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 まず、第1段階の「関税合戦」は、2018年7月に米国が開
戦し、これまで全面的に拡大しています。それと同時に、ファー
ウェイをめぐるハイテク(5G)覇権争いが起きています。これ
については、2018年8月にトランプ政権は国防権限法を制定
して開戦し、今年の5月にファーウェイをEL(エンティティリ
スト)に入れたことによって、その戦線は、世界中に拡大しつつ
あります。第3段階の「経済のブロック化」は、第1段階と第2
段階が重なった結果、生ずるものです。経済のブロック化の兆候
について、近藤大介氏は次のように述べています。
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 米中貿易額は1979年の国交正常化以降、2018年の40
周年に至るまで、25億ドルから6335億ドル(約69・7兆
円)へと253倍も増えた。だが、中国側の統計によると、20
19年第1四半期の貿易額は8158億元(約13・6兆円)で
輸出で3・7%、輸入で28・3%も、前年同期比で減少してい
る。また投資額も、2018年の米中相互の直接投資額の合計は
180億ドルで前年比60%も減少した。内訳は、中国からアメ
リカへの投資額が50億ドルで83%減少、アメリカから中国へ
の投資が、130億ドルで、7・1%の減少だ。特に中国からア
メリカへの投資の減少が顕著だ。 ──近藤大介著の前掲書より
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              ──[中国経済の真実/076]

≪画像および関連情報≫
 ●米中覇権争いで進む「世界経済ブロック化」
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   米政権は中国が技術を盗み出し個人のデータ情報を国民監
  視や治安維持の道具に使っていると非難。中国からの輸入品
  への高関税付加や、中国企業の米IT企業買収を阻止してい
  る。中国側は「グーグルなど米国企業もブラックボックスで
  あり、膨大なデータを米政府も活用している」と応酬してい
  る。米中の対立は次代の覇権争いの様相を呈し、厳しい攻防
  が続いており、世界経済の低迷に拍車をかけている。特に懸
  念されるのは「世界経済のブロック化」だ。保護主義の蔓延
  が誘導するブロック化の危険性は歴史が証明している。
   1929年に米国に端を発した世界大恐慌を受けて米国が
  30年代に実施した貿易戦争により、全世界の貿易は66%
  萎縮。米国が関税率を引き上げ他の国も対抗、全世界の貿易
  コストが10%上昇した。さらに主要国は相次いで「ブロッ
  ク経済」政策を採用。英国によるポンド圏、フランスによる
  フラン圏、さらに米国のドル圏などの、貿易の「囲い込み」
  現象が出現した。世界経済がブロックに分割されたことによ
  り、ドイツやイタリア、日本など植民地を持たないか少ない
  国は不況の影響をより深刻に受けることになった。その結果
  イタリアやドイツではファシスト、ナチス、日本では軍部な
  ど、「世界秩序の変更」を求める勢力が台頭し、第2次世界
  大戦の引き金になった。戦後の自由貿易体制の構築は、「ブ
  ロック経済への反省」の結果実現した。ブロック化が進行す
  れば、特に資源が乏しく貿易投資立国の日本は大きな影響を
  受ける。            http://exci.to/2PfSowo
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G20大阪での米中首脳会談.jpg
G20大阪での米中首脳会談
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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