2019年08月22日

●「EUからの華為技術排除は可能か」(EJ第5073号)

 米中貿易戦争が一段と激しさを増してきています。米商務省は
8月19日、ファーウェイに対する禁輸強化を一段と強める措置
を発表しています。何をやったのか整理します。
 米商務省は、5月に、ファーウェイ本体と関連会社68社をE
L(禁輸リスト)に加えています。今回やったのは、新たに中国
本土の研究所やヨーロッパの販売会社46社を制裁対象に指定し
たことです。これは、それらの会社を経由して米国製品が渡るこ
とを完全に防ぐためです。
 しかし、米商務省は、ファーウェイが既存のネットワークや携
帯電話の安全性を保つため、保守に必要な部材やソフトウェアに
限っては輸出を許可してきましたが、これについては11月18
日まで延長すると発表しています。おそらくそうしないと、米国
内の企業に大きな影響を与えるからです。
 このような米国によるファーウェイへの締め付け強化に対して
ファーウェイが一番頭を悩ましているのは、OSを含むアプリの
提供です。一番深刻なのは、スマホOSの「アンドロイド」や、
グーグルの「アプリストア」が使えなくなることです。アンドロ
イドは、世界のスマホ向けOSで、70%以上の圧倒的なシェア
を占めているからです。
 ファーウェイは、それに備えて「鴻蒙/ハーモニー」という独
自OSを既に開発していますが、これに切り換えると、中国国内
はともかくとして、利用者離れは避けられなくなります。そのた
め、ファーウェイは、あくまでアンドロイドの利用を優先化させ
るといっています。
 問題はヨーロッパ(EU)がどうなるかです。ファーウェイの
息の根を止めるには、EUからファーウェイを駆逐する必要があ
ると考えています。これについては、2019年2月以降、ポン
ペオ国務長官とペンス副大統領は、EU市場からファーウェイを
排除すべく、ヨーロッパ各地に乗り込んで、ファーウェイを使わ
ないよう説得工作を行っています。これについて、情勢を把握し
ておく必要があります。
 ポンペオ国務長官は、2019年2月11日から15日まで、
ハンガリー、スロヴァキア、ポーランドを歴訪しています。とく
に注目されるのは、2月11日のハンガリーでのシーヤールトー
・ペーテル外務貿易相との会談であり、その後の記者会見での両
者のコメントです。
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ポンベオ長官:アメリカが長年、東欧諸国から遠ざかっているう
 ちに、価値観を共有しない人たち(中国)が、その隙間を埋め
 てしまった。ファーウェイの通信ネットワークが及ぼすリスク
 に対する知見を、今後われわれは共有していかねばならない。
 そうでないと、アメリカが(ヨーロッパの)各国と協力しにく
 くなる」
シーヤールトー外相:わが国が中国といかに協力しょうと、それ
 がアメリカとのパートナシップを危うくすることはない。中国
 について誤ったことを行うのはよくない。それに、ファーウェ
 イのヨーロッパでの大口取引先は、ハンガリーではなくドイツ
 とイギリスだ。              ──近藤大介著
      『ファーウェイと米中5G戦争』/講談社+α新書
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 ハンガリーは完全に中国寄りです。それは、中欧と東欧諸国の
共通スタンスです。中欧と東欧諸国16ヶ国は、「一帯一路」の
重要な拠点になっており、「16+1」の会議(中国+中欧・東
欧首脳会議)を2012年から開いています。今年の4月からは
ギリシャもそれに加わって、「17+1」になっています。
 これとある意味において対照的であるのはポーランドです。2
月13日に、ペンス副大統領とポーランドのドゥダ大統領との会
談後の共同記者会見では、ペンス副大統領は、1月8日にポーラ
ンドが、ファーウェイ現地社員ら2人を逮捕したことを賞賛して
次のように述べています。
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 (ファーウェイ社員2人の)逮捕は素晴らしい行動だった。
 アメリカは、ポーランドの軍事パートナーであることを嬉し
 く思う。             ──ペンス米副大統領
                ──近藤大介著の前掲書より
─────────────────────────────
 ポーランドは、ロシアの脅威に直面している国であり、米軍基
地の誘致を熱心に求めているほどです。そういう意味において、
トランプ政権にとってポーランドは、ヨーロッパの模範国家であ
り、これを受けて、米国から新型ロケット砲システムの供与が行
われています。これに対して、最も中国寄りなのはポルトガルで
す。ポルトガルといえば、マカオを植民地にしていた国ですが、
その返還を巡って、中国のパワーを嫌というほど、思い知らされ
ていたのです。2018年12月5日、国内最大のポルトガルテ
レコムが、ファーウェイと5G設備及びサービスについての覚書
を交わしています。その4日前にファーウェイの孟晩舟副会長が
カナダで逮捕されていることを考えると、いかに中国に傾斜して
いるかが、理解できます。
 肝心の英国もフランスもドイツも、米国の求めるファーウェイ
排除には積極的ではないといえます。そうかといって、米国と徹
底的に対立することはできないというスタンスです。EUは、米
国とNATO(北大西洋条約機構)という軍事同盟を結んでおり
共通の敵であるロシアと対峙しています。したがって、米軍は絶
対に必要なのです。
 その一方で、ドイツやフランスをはじめとする多くの国におい
て、最大の貿易相手国は中国です。したがって、軍事は米国に頼
り、経済は中国に頼りたいという立場なのです。これは、日本を
はじめとするアジア諸国と近いスタンスです。そういう意味で、
EUは、難しい対応を迫られているといえます。
              ──[中国経済の真実/072]

≪画像および関連情報≫
 ●対ファーウェイで米欧に溝、EU、対中警戒は解かず
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  【ブリュッセル=森本学】次世代通信規格「5G」の通信網
  構築で、華為技術(ファーウェイ)など中国企業の製品を排
  除するかを巡って、米欧の溝が目立ってきた。欧州委員会が
  26日、加盟国に示した「勧告」では、米国が強く求めてき
  た同社製品の全面排除を見送った。米政府は同社製品の採用
  は同盟国間の軍事協力に影響するとけん制しており、通商問
  題などで対立する米欧の新たな火種となりそうだ。
   「加盟国は国家安全保障上の理由から企業を排除する権利
  を持つ」。勧告はファーウェイ製品の採用の判断を各国政府
  に委ねる姿勢を鮮明にした。背景にはファーウェイへの対応
  を巡る加盟国間の温度差がある。
   ドイツは特定の企業を排除しない方針を示したほか、イタ
  リアは同社との連携に前向きな姿勢をみせている。ポルトガ
  ルでは2018年12月、5Gを巡って大手通信会社がファ
  ーウェイとの覚書の署名に踏み切った。
   一方、トランプ政権との関係強化を目指すポーランドは同
  社の現地法人の男をスパイ容疑で逮捕するなど強硬姿勢を示
  している。加盟国間で同社への対応は大きく異なっており、
  EUとして共通の対処方針をまとめきれない事情があった。
  一方、勧告では5Gのセキュリティー対策強化が「欧州の戦
  略的な独立性を確保するうえで決定的に重要だ」と指摘。E
  U一体で監視を強化することも呼び掛けた。名指しは、しな
  かったものの、中国企業への警戒がにじむ内容となった。
               https://s.nikkei.com/2HjNRCq
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ハンガリーSアVメリカ外相会談.jpg
ハンガリーSVアメリカ外相会談
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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