2019年08月16日

●「トランプ政権内の2つのグループ」(EJ第5069号)

 トランプ大統領が孟晩舟ファーウェイ副会長の逮捕を直前まで
知らなかったという事実は、トランプ政権内には、考え方の異な
る2つのグループがあることを意味します。既出の近藤大介氏は
トランプ政権を次の2つに分けています。
─────────────────────────────
          1.「通商」強硬派
          2.「軍事」強硬派
─────────────────────────────
 1の「通商」強硬派とはどういうグループでしょうか。
 貿易不均衡や雇用を是正することが重要であると考える一派で
す。スティーブン・ムニューシン財務長官やジャレット・クシュ
ナー大統領上級顧問らがこのグループに属しています。彼らは、
中国を敵ではなく、ビジネスの対象として捉えようとします。ト
ランプ大統領は、このグループを代表しています。
 2の「軍事」強硬派とはどういうグループでしょうか。
 市場主義経済のなかで台頭する中国という社会主義国自体を敵
と捉える一派です。かつての米国がそうであったように、自由、
民主、人権という「理念外交」を世界に推進すべきであるとする
グループです。
 マイク・ペンス副大統領がその代表格であり、マイク・ポンペ
オ国務長官、ボルトン大統領安保担当補佐官、ピーター・ナヴァ
ロ国家通商会議議長などがこのグループに属しています。それに
辞任したものの、ジェームズ・マティス前国防長官、スティーブ
ン・バノン元大統領首席戦略官兼上級顧問も、この一派に属して
います。トランプ大統領は、今でも困ったことがあると、バノン
氏に電話して意見を聞くといわれています。
 トランプ大統領は、「通商」強硬派の代表ですが、「軍事」強
硬派の意見も聞かざるを得ないのです。なぜなら、米議会は、共
和党はもちろんのこと、民主党もそのかなりの議員が、こと中国
に対しては、「軍事」強硬派が圧倒的に多いからです。かつて、
民主党は、クリントン夫妻をはじめとして、いわゆる「パンダハ
ガー」(親中派)と呼ばれる人が多かったのですが、現在はほん
の一握りになってしまっているといわれます。
 もっとも次の大統領選に出馬する意欲を見せているバイデン前
副大統領はパンダハガーで、リベラルメディアのCNNは、トラ
ンプ氏を叩いて、バイデン氏を持ち上げる記事を書いています。
CNNは、「チャイニーズ・ニュース・ネットワーク」といわれ
るぐらい、中国寄りです。しかし、現在の情勢ではバイデン氏は
民主党代表候補になれそうもありません。問題は、中国は何らか
の手を使って、バイデン氏をサポートする可能性があります。
 それでは、米中貿易交渉を推し進める、ロバート・ライトハイ
ザーUSTR代表はどちらのグループに属するのでしょうか。ラ
イトハイザー氏は、両派の中間に属する存在であり、両派からの
支持を取り付けている貴重な存在です。
 ところで、「軍事」強硬派は中国の何を警戒しているのでしょ
うか。近藤大介氏は、これについて次のように述べています。
─────────────────────────────
 社会主義国は国家ぐるみで、自国の先端企業に多額の補助金を
出すなどして、育成を図っている。中国が2015年5月に発布
した『中国製造2025』は、2025年の国家目標を明確に定
めていた。これらは、既存のWTO(世界貿易機関)の秩序から
完全に逸脱しているというのが、「軍事強硬派」の主張だった。
2018年3月に、中国が全国人民代表大会で国家主席の任期を
撤廃する憲法改正を行うと、彼らは「習近平は長期独裁政権を目
指している」と非難した。
 第2次世界大戦後の冷戦、すなわち「アメリカ式資本主義」と
「ソ連式社会主義」の角逐は、周知のように20世紀末にソ連が
崩壊して、アメリカ側が勝利した。だが21世紀に入ると、今度
は「中国式社会主義」が台頭してきた。ソ連式社会主義のシステ
ムは、社会主義計画経済だったが、中国式社会主義のシステムは
社会主義市場経済である。政治的には旧ソ連式の共産党一党支配
を維持するが、経済的にはアメリカ式の市場経済を実践していく
という、旧ソ連式とアメリカ式のいいとこ取り″だ。中国では
これを「習近平新時代の中国の特色ある社会主義」もしくは「中
国模式」(チャイニーズ・スタンダード)などと呼んでいる。
                      ──近藤大介著
      『ファーウェイと米中5G戦争』/講談社+α新書
─────────────────────────────
 近藤大介氏が、本の中で書いていますが、彼はトランプ氏のツ
イッターのフォロワーになって、その内容をつねに分析している
そうです。5月15日(米国時間)にトランプ大統領は非常事態
宣言をし、「情報通信技術とサービスのサプライチェーンの保護
に係る大統領令」に署名していますが、近藤氏は、これについて
トランプ氏がどのようにツイートしているか調べてみたところ、
意外にも何もつぶやいていなかったことが判明。これによると、
彼がファーウェイの問題に対しては、さほど強い関心を持ってい
ないことがわかります。それは極めて戦略的にして技術的なこと
であり、大統領が十分理解できていないフシもあります。
 もちろんトランプ大統領は、口では「ファーウェイを使うな」
といっていますが、それは、ペンス副大統領やポンペオ国務長官
やボルトン大統領補佐官らの軍事強硬派にいわれていっているの
です。だから、中国が農産品を多く買ってくれるのなら、ファー
ウェイへの制約を一部解除してもいいといったりするのです。こ
れは通商強硬派たるトランプ大統領の本音です。軍事強硬派とは
考え方が異なります。
 しかし、米国によるファーウェイの封じ込めは、本当に成功す
るのでしょうか。それにしても、なぜ、米国は、ファーウェイを
これほどまでに恐れるのでしょうか。こういうことについても、
真実をしっかり検証する必要があります。
              ──[中国経済の真実/068]

≪画像および関連情報≫
 ●米国激怒! 習近平が突然「喧嘩腰」になったワケ
  ───────────────────────────
   米中貿易戦争はやはり激化せざるをえない、ということが
  今さらながらに分かった。双方とも合意を求めるつもりはな
  いのかもしれない。
   劉鶴副首相率いる中国側の交渉チームは5月にワシントン
  に赴いたが、物別れに終わり、米国は追加関税、そして中国
  も報復関税を発表。協議後の記者会見で劉鶴は異様に語気強
  く中国の立場を主張した。だが、交渉は継続するという。
   4月ごろまでは、5月の11回目のハイレベル協議で米中
  間の貿易問題は一応の妥結に至り、6月の米中首脳会談で合
  意文書を発表、とりあえず米中貿易戦争はいったん収束とい
  うシナリオが流れていた。それが5月にはいって「ちゃぶ台
  返し」になったのは、サウスチャイナ・モーニング・ポスト
  の報道が正しければ、習近平の決断らしい。習近平はこの決
  断のすべての「責任」を引き受ける覚悟という。
   では習近平はなぜそこまで覚悟を決めて、態度を急に反転
  させたのだろうか。第11回目の米中通商協議ハイレベル協
  議に劉鶴が出発する直前の5月5日、トランプはツイッター
  で「米国は2000億ドル分の中国製輸入品に対して今週金
  曜(10日)から、関税を現行の10%から25%に引き上
  げる」と宣言。さらに「現在無関税の3250億ドル分の輸
  入品についても間もなく、25%の関税をかける」と発信し
  た。この発言に、一時、予定されていた劉鶴チームの訪米が
  キャンセルされるのではないか、という憶測も流れた。
                  https://bit.ly/33weGwL
  ───────────────────────────

ボルトン安全保障担当大統領補佐官.jpg
ボルトン安全保障担当大統領補佐官
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]