2019年08月14日

●「大統領が非常事態宣言をした理由」(EJ第5067号)

 トランプ政権が発足して以来、トランプ大統領が何でもやりた
い放題やっていると感じている人が多いと思います。なかでも中
国に対するトランプ大統領の怒りはすさまじく、中国としては当
初、トランプ大統領の訪中のさいの雰囲気からすると、態度一変
というように感じたといわれます。
 実は、トランプ大統領は、自説も展開しますが、基本的には、
議会の意向に沿って、法律に従い、実施しているだけなのです。
やりたい放題に見えるのは、彼が毎日のように発信するツイート
の内容が、全世界に公開され、世界中の人がそれを読んでいるの
で、そう見えるのです。
 もっともトランプ大統領は、歴代の米国の大統領とは、その外
交姿勢において、本質的な違いがあります。これまでの米国の大
統領は、トルーマンからオバマ大統領まで、自由、民主、人権と
という米国の理念を世界に拡大させる「理念外交」であったのに
対し、トランプ大統領のそれは、短期的な損得を追及する「実利
外交」です。つまり、トランプ大統領は、「外交」というものを
「商談」の延長と捉えているのです。
 しかし、こと中国に関しては、トランプ氏よりも、議会の方が
強硬姿勢です。これは、共和党だけでなく、民主党もほぼ同じ考
え方であるといえます。これについて、渡邊哲也氏は次のように
述べています。
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 むしろ(トランプ大統領よりも)議会のほうがかなり強硬なの
だ。とくに、上院国防委員会などは、マルコ・ルビオなど、タカ
派が引っ張っており、トランプの対応が甘いと批判しているくら
いだ。下院も上院も、共和党に関しては90%以上が中国制裁を
評価している。民主党も3分の2以上の議員が中国制裁の強化を
支持している。議会全体として8割強が中国制裁に賛成している
ため、トランプがもしも大統領を辞任するようなことがあっても
中国制裁の流れが大きく変わることはないだろう。
                 ──渡邊哲也著/徳間書店
       『「中国大崩壊」入門/何が起きているのか?/
        これからどうなるか?/どう対応すべきか?』
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 2019年5月15日(日本時間16日)、トランプ大統領は
国家非常事態宣言を行っています。「国家非常事態法」という法
律に基づく大統領の宣言であり、非常事態というと、おおごとで
すが、米国大統領はよくこの宣言を行います。トランプ大統領は
これまで3回宣言しており、直近では、2018年11月、政権
が反政府デモを武力で弾圧した中米ニカラグアの混乱を、トラン
プ大統領は、米国の安全保障への脅威とみなし、治安や民主主義
を損なう人物の資産を凍結しています。
 ややこしいのは、今年5月の国家非常事態宣言には2つの意味
があることです。米国の大統領にとってこの非常事態宣言は、平
時では制限されている権力、たとえば、使途の決まっていない議
会の予算を使えるメリットなどがあります。5月に行われた非常
事態宣言には、次の2つの目的があったのです。
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    1.メキシコとの壁建設の予算を獲得すること
    2.IEEPA法発動の必要条件を満たすこと
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 目的の「1」は、議会が民主党を中心として反対しているメキ
シコの壁建設の資金を議会の承認なしに、国防費から転用するた
めのものです。これについては、裁判になり、一審、二審とも否
決されていましたが、米連邦最高裁は7月26日、議会の承認な
しに国防費を転用する政権の計画を認める判断を下しています。
トランプ大統領は大喜びです。このように、最高裁まで行けば、
勝てる裁判官の布陣になっているのです。
 問題は目的の「2」です。これは、IEEPA法(国際金融経
済権限法)を発動させるためです。これは、おそらくペンス副大
統領をはじめとする大統領のスタッフが、大統領に進言し、次の
大統領令にサインさせたものと思われます。
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  情報通信技術とサービスのサプライチェーンの保護に係る
  大統領令
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 おそらくトランプ大統領は、この大統領令が何を意味するか、
よくわかっていなかったはずです。しかし、スタッフがいうので
サインしたのでしょう。ただ、それが、ファーウェイを絞め上げ
るものであることは知っていたと思われます。
 トランプ大統領にとって、メキシコの壁建設は、公約であり、
何としても実現させる強い意思を持ってしましたが、ファーウェ
イについては、スタッフとはかなり温度差があったようです。
 これについて、面白い見方をする人がいます。中国研究家であ
る近藤大介氏の意見です。トランプ大統領が、非常事態宣言の直
後の5月18日から令和最初の国賓として来日したとき、安倍首
相にこう漏らしていたといわれます。
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 アメリカにとって中国とは、叩き潰す相手ではなくて、儲ける
“道具”だ。これまで、歴史的にそうだったし、これからもそう
だ。だから極端にいじめる必要なんかない。だが強硬な部下たち
が言うことを聞かなかった。       ──トランプ大統領
                      ──近藤大介著
      『ファーウェイと米中5G戦争』/講談社+α新書
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 6月のG20大阪のさいの米中会談で、トランプ大統領がファ
ーウェイに関しては、取り引きしだいだと緩和を匂わせたのは、
この考え方に基づいているようです。しかし、交渉自体が行われ
るかどうか、怪しくなってきているので、部下たちに説得された
ものと思われます。     ──[中国経済の真実/066]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ氏のメキシコ関税、大統領権限は正当か
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  [6月31日 ロイター]不法移民への対応不足を理由にメ
  キシコからの輸入品にすべてに関税を課すというトランプ米
  大統領の提案は、司法の場で争われる可能性が高い。そこで
  は、緊急事態に大統領が権限を行使できる範囲が問われるこ
  とになるだろう。
   トランプ氏は、中米諸国での暴力から逃れようとする人々
  など、亡命希望者の波を食い止めるために、6月10日以降
  メキシコからの輸入品に課税し、移民の流入が止まるまで関
  税率を段階的に引き上げると表明した。
   金融市場は動揺し、米国とメキシコ双方の企業経営者らも
  不意を突かれた。大統領が過去に1度も関税導入のために適
  用されたことのない法律を使うことを阻止すべく、法的手段
  に訴えようという議論も生じている。
   通商法が専門のジョージタウン大学ロースクールのジェニ
  ファー・ヒルマン教授は、トランプ氏が30日の発表で「国
  際経済緊急権限法(IEEPA)」を根拠としたことに疑問
  を呈した。世界貿易機関(WTO)で判事を務めたヒルマン
  教授は、「IEEPAの条文を読めば分かるが、大統領は金
  融取引を停止するために国家緊急事態を宣言することができ
  る、というのが同法の趣旨だ」と語る。IEEPAはイラン
  やスーダンなどの国に制裁を科すために歴代大統領が用いて
  きたが、司法専門家によれば、トランプ大統領が提案してい
  る新たな用途は、これまでに裁判所において議論されたこと
  がないという。         https://bit.ly/2H1SjG5
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大統領令に署名するトランプ大統領.jpg
大統領令に署名するトランプ大統領
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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