2007年07月06日

●バランスシート不況下では税収はどうなるか(EJ第2117号)

 EJ第2115号で、時価会計制度の導入についてお話ししま
した。日本はこの制度を資産価値が大暴落中の2001年3月に
導入しています。
 これによって企業は巨額の資産の評価損を計上しなければなら
なくなったのですが、どうせ計上するなら売却して実現損を出し
た方が税法上のメリットがあると大半の企業は判断し、一斉に売
却をはじめたのです。
 この実現損は巨額に達したので、当然のことながら企業はそれ
を繰り延べたのです。企業がこういう行動を取ることは政府とし
ては十分予測できたはずなのに、なぜか時価会計制度の導入を決
めてしまったのです。森政権から小泉政権へ政権交代のはざまで
あり、あまり注目されていなかったのです。
 しかし、税収という観点に立つと、これは、税収が長期間にわ
たって落ち込む原因になったのです。多くの企業は景気や企業収
益が回復してキャッシュフローが活性化しても、それを借金返済
に回してしまい、なおかつ税金を払わずに済んだからです。ちょ
うど昨今の銀行が大幅な利益を上げているにもかかわらず、ほと
んど税金を払っていないのと同じです。
 さらに小泉政権は国債発行枠30兆円を公約として打ち出し、
不況をいたずらに長引かせてしまったのです。しかし、経済政策
は数学のようにそれが正しかったのか間違っていたのかという白
黒がつけられないので、客観的に見て明らかに違っている政策で
もあえて「正しい」といい続けると、そのまま通ってしまうこと
が多いのです。つまり、間違えても反省をしないから、いつまで
も誤りに気がつかないのです。
 2003年に財務省が財政制度等審議会に提出した財政の見通
しによると、2005年度の財政赤字は43〜44兆円になって
います。それでは実際はどうだったのでしょうか。
 実際は31.3兆円なのです。実に12兆円も違っているので
す。2003年度に2005年度を見通すのですから、12兆円
も狂うのは明らかに異常です。財務省はなぜこんなミスをやった
のでしょうか。
 この計算の狂いは実は重大なのです。2003年において、2
年後の2005年度の財政赤字が43兆円になると予測して政策
を打ち出すのと、31兆円になると予測して政策を組むのとでは
大きく結果が違ってくるからです。
 もし、43〜44兆円になることを危惧して財政再建――例え
ば国債発行を意識的に抑制したり、増税に走っていたらどうなっ
たでしょうか。
 それは1997年の橋本政権の財政再建のときを上回るデフレ
スパイラルに陥っていたはずです。しかし、幸いにも小泉首相は
2003年の時点で国債発行枠30兆円という公約を事実上放棄
していたので、財政のオートマチック・スタビライザー機能が働
いて、景気回復と税収増をもたらしたのです。考えてやったので
はなく、結果としてそうなったのです。
 財務省が予測を間違えた理由についてごく簡単にいうと、財務
省は、2003年当時の税収をベースにして以前から使われてい
る「税収弾性値――1.1」をGDP予測に当てはめて税収の推
計を求めているのです。この「税収弾性値――1.1」というの
は次のことを意味しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
   名目GDPが1%伸びれば、税収は1.1%伸びる
―――――――――――――――――――――――――――――
 予測が違った理由は、財務省がバランスシート不況の存在を知
らなかったからですが、企業が損失を繰り延べられるのは最長で
7年であることも見落としていたのではないかと思われます。
 つまり、繰り延べ期間が過ぎた頃――ちょうどそれは企業の借
金返済がそろそろ終る時期とも一致するのですが、その時点から
の税収の伸びは、GDP成長率をはるかに超えるペースで拡大す
るのです。
 添付ファイルを見ていただきたいのです。これはリチャード・
クー氏作成によるイメージ図です。もし、経済活動の動向が一番
上のような動きであったとすると、税収はその下の点線のように
推移します。エコノミストが通常予測するのは、この点線の推移
なのです。
 しかし、バランスシート不況の場合は、経済活動の落ち込みと
資産価値の下落が重なるので、税収は上から3番目の実線のよう
な推移になり、大幅に落ち込んでしまうのです。バランスシート
不況を知らないエコノミストにとっては予想もつかない落ち込み
ということになります。
 クー氏は期間を(A)(B)(C)に分けていますが、(A)
の左の先端は、企業が時価会計制度に対応して資産を売却して、
実現損を出した時期になります。小泉政権の発足時です。
 (B)は、企業がその損失を繰り延べした期間です。これは最
長で7年になります。この間企業は税金を支払わないので、税収
は落ち込んだままです。
 (C)は企業の借金返済が終わり、損失の繰り延べ期間が過ぎ
た期間です。ここではGDPの成長率よりも、税収は高く伸びる
のです。2005年時点の数値を当てはめてみると、税収につい
ては7.6%で伸びているのにGDPは1.8%の伸びにとどま
っている――これは税収のGDP弾性値が4.2という極めて高
い数値になっていることを意味しているのです。
 現在の日本のGDPはバブルのピークであった1990年に比
べ13%増、企業収益は金融と保険を除くと、1990年に比べ
て48%増なのです。しかるに税収は1990年の60兆円に対
して49兆円――クー氏の理論が正しいとすると、今後政府・日
銀の政策に間違いがなければ、税収は60兆円に向けて大きく伸
びていくと予想できます。政府はすぐ改革、改革といいますが、
今は税収を何とか1990年の水準に戻す努力をすべきときであ
ると思います。       ――[日本経済回復の謎/26]


≪画像および関連情報≫
 ・税収弾性値に関する議論より
  ―――――――――――――――――――――――――――
  とにかく奇妙な発言が続いている。まず「財政再建なくして
  は日本の将来はない」「国や地方の借金孫子の代に残すな」
  などがあった。周知の通りこれらの意見を念頭に置いた「財
  政改革路線」の政策により、景気の落ち込みに拍車がかかり
  結果的には景気対策費用がかさみ、かえって財政の悪化を招
  いているのである。日本の累進的な税構造から税収のGDP
  に対する弾性値は「1」を大きく越えると考えられる。つま
  りGDPが1%伸びることによって税収は1%以上伸びるの
  である。このことは反対にGDPが1%減少すると税収は1
  %以上減少することを意味する。つまり間違った緊縮財政の
  結果、GDPが減少するケースにおいて、弾性値が極めて大
  きい場合には、かえって財政を悪化させることが有り得るの
  である。            ――経済コラムマガジン
           http://www.adpweb.com/eco/eco96.html
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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