年ぶりに「為替操作国」に指定しました。米中の戦いは、貿易摩
擦、ハイテク覇権に加えて、遂に為替金融の問題まで、拡大する
ことになったのです。このニュースは、4日の正午頃、外出中の
私のスマホに速報として飛び込んできました。中国が「1ドル=
7人民元」突破を容認したとトランプ政権は判断したのです。
さて、かつてのCOCOM──共産圏への軍事技術や戦略物資
の輸出を禁止した委員会は、東西冷戦の終結に伴い、有名無実化
したのですが、通常兵器や関連技術の第三国への過度な売却やテ
ロリストに渡ることを防ぐ一種の紳士協定としてのみ残ることに
なったのです。それが「ワッセナーアレンジメント」です。
これまで米国では、軍事転用が可能な品目の輸出に関しては、
商務省産業安全保障局(BIS)がEAR(輸出管理規則)とい
うルールにしたがって管理していたのです。これをかつてのCO
COMのように管理を厳しくしたのが、エクラ/ECRA(米国
輸出管理改革法)です。2018年8月13日に、2019年会
計年度の国防授権法に盛り込まれるかたちで成立しています。こ
れはまさに新COCOMです。この法律の内容を見ると、トラン
プ政権の本気度がわかります。
ECRAは、次の2層構造になっています。
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◎ECRA(米国輸出管理改革法)
1層目:先端技術やインフラ、ハイテクなどの14分野
2層目:武器輸出禁止国に対する輸出管理を徹底させる
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1層目の先端技術、インフラ、ハイテクなどの14分野は、中
国の「中国製造2025」にほぼ重なるのです。参考までにこの
14分野を以下に示します。これを見ると、現在の先端技術が具
体的に何であるかがわかります。
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@バイオテクノロジー
AAI・機械学習
B測位技術
Cマイクロプロセッサ
D先進コンピューティング
Eデータ分析
F量子情報・量子センシング技術
G輸送関連技術
H付加製造技術(3Dプリンタなど)
Iロボティクス
Jプレインコンピュータインターフェース
K極超音速
L先端材料
M先進セキュリティ技術
──渡邊哲也著/徳間書店
『「中国大崩壊」入門/何が起きているのか?/
これからどうなるか?/どう対応すべきか?』
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このECRAでは、270日以内に武器輸出禁止国に対する許
可条件を見直さなければならない決まりになっています。武器輸
出禁止国とは中国やイランですが、具体的には中国を指していま
す。そして、先端技術はどんどん進化するので、270日ごとに
その見直しを行うことになっているのです。
ECRAが成立したのが2018年8月、施行されたのが10
月ですから、それから270日というと、今年の5月16日にな
りますが、トランプ大統領は、国家非常事態宣言を行い、「情報
通信技術とサービスのサプライチェーン(供給網)の保護に係る
大統領令」に署名しています。
ここで知っておくべき米国のもうひとつの法律があります。そ
れは「国際緊急経済権限法/IEEPA」です。これは、国家非
常事態宣言を受けて発動されます。これについて、渡邊哲也氏は
次のように解説しています。
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IEEPAは安全保障・外交政策・経済に対する異例かつ重大
な脅威に対し、非常事態宣言後、金融制裁にて、その脅威に対処
するものだ。具体的には、攻撃をたくらむ外国の組織もしくは外
国人の資産没収(米国の司法権の対象となる資産)、外国為替取
引・通貨および有価証券の輸出入の規制・禁止ができるものであ
り、安全保障の“伝家の宝刀”ともいえるものである。
──渡邊哲也著の前掲書より
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現在、IEEPAが適用されているのは、イラン、シリア、北
朝鮮の3ヶ国に、ウクライナ問題によってロシアもIEEPAを
適用しています。実は、これは、きわめて強力にして、される方
としては、きわめてシビアな法律といえます。
これによって米国商務省は、ファーウェイおよびその関連会社
69社を禁輸措置対象の「エンティティ・リスト/EL」に入れ
米国の技術および製品の輸出を禁止したのです。米国企業がEL
に入っている企業に技術や製品を輸出する場合、BIS、商務省
産業安全保障局(BIS)の許可が必要になりますが、実際に許
可が出ることはないのです。
この場合、ある製品の部品や技術において、米国製の割合が、
25%以上の場合、輸出禁止商品になります。つまり、日本製の
製品であっても、米国製部品が25%を超える製品をELリスト
に記載されている中国企業に輸出すると、その日本企業は、この
米国商務省のDPL(取引禁止顧客リスト)に掲載され、米国企
業との取引や他国からの米国原産技術を含む商品の取引が停止さ
れることになります。なお、テロリストなどに関しては25%で
はなく、10%でDPLに掲載されます。
──[中国経済の真実/064]
≪画像および関連情報≫
●ファーウェイへの米制裁に要警戒/渡邊哲也氏
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米半導体大手のクアルコムは技術社員に対して、華為の社
員と接触するのを禁じた。また、第三者を通じて技術や製品
が渡ることを防止する規定があるため、最終利用者に注意を
払う必要がある(エンドユース=用途確認)。
万が一、違反した場合、取引禁止顧客リスト(DPL)に
掲載され、包括的輸出許可を失い、取引先や銀行などから取
引停止を宣告される可能性もある。企業は、存続の危機に陥
る。米グーグルをはじめ世界中の華為取引先企業が、関係の
見直しと情報遮断を始めたのはこのためだ。
当然、日本企業もこの対象になる。日本独自の技術や製品
は対象にならないが、米国の技術や製品が含まれていた場合
日本企業も制裁を受ける可能性がある。
一部のメディアでは、これがトランプ大統領の一存で行わ
れているように報じられているが、これは米議会が昨年成立
させた2019年の国防権限法(NDAA)と輸出管理改革
法(ECRA)によるもので、トランプ大統領は議会の指示
に従っているにすぎない。
現在のところ、商務省による輸出規制だけであるが、今後
財務省外国資産管理室(OFAC)が金融制裁の対象を公示
する「SDNリスト」に掲載する可能性もある。既に中国軍
装備発展部が掲載されている。 https://bit.ly/2ZHU2HA
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ワシントンDCの商務省の建物