2019年07月29日

●「オーストラリアはなぜ変貌したか」(EJ第5056号)

 「一帯一路」のことを「BRI」とか「OBOR」と呼ぶこと
があります。「一帯一路」の英語表記を示しておきます。
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   ◎「一帯一路」・・・
     BRI  The Belt and Road Initiative
    OBOR One Belt, One Road Initiative
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 さて、2018年11月のことです。18日と19日の2日間
にわたって、パプアニューギニアにおいて、APEC首脳会議が
開かれたのです。そのAPECについて、日本経済新聞は次のよ
うに伝えています。
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【ポートモレスビー=辻隆史】日米中など21ヶ国・地域が参加
して、パプアニューギニアで開かれたアジア太平洋経済協力会議
(APEC)首脳会議が、18日、2日間の協議を終えて閉幕し
た。米国と中国が互いの通商政策をめぐり対立。議長国のパプア
が首脳宣言の採択を断念する異例の事態となった。首脳宣言を断
念するのは1993年の第1回会議以来、初めて。
               https://s.nikkei.com/2YoEUlb ─────────────────────────────
 この会議で米国と中国は激突したのです。宣言の原案の「保護
主義と対抗する」という表現に米国が猛反発し、中国はトランプ
政権を念頭に「一国主義と対抗する」との文言を盛るよう求め、
米国が削除を強く要求するという具合です。
 加えて米国は中国を念頭に不公正な貿易慣行の撤廃を求める表
現を盛り込むよう主張し、中国が反発するというように、米国と
中国の主張が激突し、結局、首脳宣言の採択を断念せざるを得な
くなったのです。
 その背景には、中国が南太平洋を「一帯一路」の投資対象国に
算入したことにあります。これによって、中国は、米、英、仏、
豪、ニュージーランド(NZ)の利害と直接対峙することになっ
たのです。実際にこの地域における中国の投資は、オーストラリ
アを抜き去っています。2018年10月現在、南太平洋全域で
中国が推進中のプロジェクトは218件、金額は17億8120
万ドルに達しています。金額が大きい順に並べると、次のように
なります。
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  ◎南太平洋における中国の投資状況
   パプアニューギニア ・・・ 6億3250万ドル
   フィジー      ・・・ 3億5900万ドル
   バヌアツ      ・・・ 2億4250万ドル
   東ティモール    ・・・   5216万ドル
   クック諸島(NZ) ・・・   4986万ドル
   サモア       ・・・   2301万ドル
   トンガ       ・・・   1720万ドル
   ニウエ島(NZ)  ・・・     70万ドル
              ──2018年10月現在
               ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機が始まる』
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 これを見ると、飛び抜けて中国からの投資が大きいのが、昨年
APECの会場になったポート・モレスビーを首都に持つパプア
ニューギニアであることがわかります。ちなみに、この地域は、
太平洋戦争中、日本の多くの艦船が沈没し、多くの犠牲者を出し
た場所であり、なかでも激戦地といわれたラバウルとガダルカナ
ルもこの海域に含まれます。
 これらの国がもし中国による「債務の罠」に嵌ったら、大変な
ことになります。こういう状況を許したのは、かつての親中国国
家オーストラリアです。評論家の宮崎正弘氏は、オーストラリア
の中国傾斜ぶりについて、次のように述べています。
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 従来は中国の投資歓迎、シドニーは50万人もの中国人が住み
巨大なチャイナタウンが拡がって華僑の大活躍がなされてきた。
シドニーだけで、発行されている華字紙は5種、いずれもカラー
印刷で100ページ近く、求人や弁護士事務所、留学方法の広告
で埋め尽くされている。怪しげなマッサージパーラーの広告もあ
る。チャイナタウンのコミユニティ紙である。筆者もシドニーで
全部の華字紙を購入したが、日本で言えば全国紙5紙の正月特大
版を持つほどの重み。ずしりとその重量を感じたものだった。
 オーストラリアは鉄鉱石、石炭などに恵まれた資源王国だから
資源鉱区には次々とチャイナマネーが入り、鉄鉱石も石炭も中国
が買うので、資源関連企業はウハウハだった。そのうち軍港ダー
ウィンの埠頭を、オーストラリアは99年の貸与を中国企業に認
めたほど、親中路線だったのだ。 ──宮崎正弘著の前掲書より
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 このように、オーストラリアは親中政権だったのです。なぜ、
過去形なのかというと、現在は中国に対して要警戒に変貌を遂げ
ているからです。これについて理解するには、2015年以降の
オーストラリアの政権について知る必要があります。
 現在のオーストラリアの首相は、スコット・モリソン氏ですが
その前任者はマルコム・ターンブル氏です。2人とも、保守系の
オーストラリア自由党の議員ですが、このターンブル氏こそ「中
国はオーストラリアと抗日で戦った最も長い同盟国」であるとし
最大の貿易相手国である中国を最重視する政権だったのです。そ
して、中国によるダーウィン港の99年租借を認めたのも、ター
ンブル前首相なのです。
 そのターンブル氏の後任者が現在のスコット・モリソン首相で
す。この首相になってはじめて中国の危険性に気付くのです。し
かし、今年の5月の選挙において、モリソン首相は政権維持が危
なかったのです。      ──[中国経済の真実/055]

≪画像および関連情報≫
 ●「一帯一路」で南シナ海から中東で影響力行使
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   中国は、空母打撃群の展開を通じて、南シナ海からインド
  洋、中東沖など広範囲の沿岸諸国への影響力行使を狙ってい
  る。また現段階で中国初の国産空母が米軍の直接的な脅威と
  なる可能性は低いが、長期的には、太平洋で米軍を排除する
  「接近阻止・領域拒否」戦略の実現に向けた足がかりとする
  構えだ。中国が掲げる現代版シルクロード経済圏構想「一帯
  一路」で、中東はその要衝にあたる。
   ただ、地域大国のサウジアラビアは米国の同盟国であり、
  イランはロシアが影響力を保持。中国が現在、アフリカ東部
  ジブチで中国海軍の「補給施設」を建設しているのは、海外
  基地として中東への軍事プレゼンスを高める狙いもある。
   一帯一路のうち「海上シルクロード」と呼ばれる東南アジ
  アから南アジア、中東沖につながるルートで空母を展開させ
  ることで、「沿岸諸国に影響力を行使できるプレーヤーとし
  て、米露に中国が加わる可能性」(東京財団の小原凡司研究
  員)も指摘されている。
   また、今後いずれかの国産空母が南シナ海を管轄する南海
  艦隊に配属される見通しで、領有権争いを抱える沿岸国への
  軍事的圧力も高まりそうだ。一方、中国にとっては太平洋で
  制海権を握ることも長期的な野望だ。中国初の空母「遼寧」
  は昨年12月、九州や沖縄、台湾などを結ぶ「第1列島線」
  を初めて越え西太平洋に進出した。https://bit.ly/2Mi5XrZ
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オーストラリアのターンブル前首相.jpg
オーストラリアのターンブル前首相

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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