2019年07月26日

●「スリランカとモルディブのケース」(EJ第5055号)

 「一帯一路」構想は、イタリアの加盟で、一見すると、中国の
思うように進んでいるように見えますが、必ずしもそういうこと
ではないのです。「一帯一路」に加盟して、その関連プロジェク
トの進行──高速鉄道や高速道路などの工事の進捗は、けっして
芳しいものではないからです。
 中国は、日本のように十分な調査に基づいて工事全体の設計を
していないので、その結果、工事が難航して遅延し、未完成の状
態で政権交代が起きると、前政権と中国の癒着が、必ずといって
よいほど発覚するのです。マレーシアのナジブ政権しかり、モル
ディブのヤミーン政権しかり、スリランカのラジャパクサ政権し
かり、パキスタンのシャリフ政権しかりです。これらはほんの一
部に過ぎず、まだたくさんあります。
 それにしても、モルディブとスリランカといえば、インドに近
い海の要衝です。まだあります。パキスタン、ヤンマーもそうで
す。もし、これらの国がすべて中国化すると、インドは安全保障
上深刻な事態になります。中国は、そういう場所をピンポイント
で選んで、「一帯一路」を仕掛けているわけです。
 スリランカは、ラジャパクサ大統領時代に「一帯一路」に参加
したものの、資金不足になって「債務の罠」に落ち、ハンバント
タ港を中国に99年間租借せざるを得なくなっています。これに
ついて、宮崎正弘氏は次のように述べています。
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 スリランカの対外債務は、531億ドル(2018年9月末時
点)。翌19年に償還期限が来る負債額は49億ドル。さらに、
2020年までにあと150億ドル。パキスタンと同様に、スリ
ランカがIMF管理になるのは時間の問題かもしれない。99年
の租借を飲まされ、ハンバントタ港を中国に明け渡す無惨な結果
を招いたのは、ラジャバクサ前大統領の強気の読みと中国との親
密なコネクションからだったが、結局は返済できず「借金の罠」
に落ちた。番狂わせで彼は落選し、無名のシリセナがスリランカ
大統領となった。
 コロンボからスリランカの名勝地キャンディに至るハイウエー
は、途中悪路、崖や河沿いを縫うように車で4時間近くかかる。
鉄道もあるが、1日2本程度で、しかも外国人観光客でほぼ満員
だ。この区間にハイウェーを通すのはスリランカの政治家なら誰
もが魅力と思うだろう。ましてや票に繋がる美味しいプロジェク
トと考えられた。ところが資金不足に陥り、現場労働者の日当が
支払えず、あちこちで工事が中断した状況になっていた。
               ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機が始まる』
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 モルディブでも、スリランカと同じようなことが起きているの
です。当事者はヤミーン前大統領です。2019年2月18日、
ヤミーン氏に対して、マネーロンダリング容疑で正式起訴するた
めの予審が開かれ、検察側はヤミーン氏が証人の証言を妨害しよ
うとしたと主張。結局、証人に賄賂を渡して偽証するよう要請し
た容疑で逮捕されています。
 モルディブに中国はどのようにかかわっているのかについて、
宮崎正弘氏の本から引用します。
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 モルディブ政府は現在、ヤミーン前政権が、中国からいったい
幾ら借りたのか、借金は全体で幾らあるのかを精査している。こ
の財務精査の過程で、ヤミーン時代の面妖な取引、その送金ルー
トの明細や不明瞭な使途などが明るみに出た。あたかもマレーシ
アの1MBDファンドから大金を横領していたナジブ前首相の経
済犯罪と似ているが、少額の汚職なので、世界の金融界は喋って
いるだけである。中国は空港と首都マーレを繋いだ海上橋梁を請
け負い、2018年9月の大統領選挙直前の8月31日に完成さ
せた。空港の拡張工事も中国が請け負っていた。インドはあたか
も下腹にナイフを突きつけられたような要衝にあるモルディブの
動向に神経を尖らせ、軍港に転用される可能性を監視してきた。
また新政権発足と同時にモルディブ重視に傾き、当面の金融シス
テムの安定、信用回復のために14億ドルの信用枠を供与した。
                ──宮崎正弘著の前掲書より
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 添付ファイルに、インドとモルディブ、スリランカの位置関係
を示す地図をつけています。宮崎氏の「インドはあたかも下腹に
ナイフを突きつけられたような要衝」と表現していますが、これ
ら2つの国は、まさにそういう位置にあります。中国は明らかに
場所を選んで「一帯一路」に引き入れ、「債務の罠」を仕掛けて
重要港を事実上手に入れようとしています。
 「一帯一路」によるインフラ建設は、中国は人も資材もすべて
中国から持ってくるのです。中国にとって「一帯一路」は、国有
企業に仕事を与える手段なので、現地では、まったく雇用を生ま
ないのです。これも「一帯一路」加盟国にとって、大きな不満に
なっています。
 そのため、現地では、中国語と英語の看板のみで、現地の言語
は全く使われていないのです。売り出しマンションの価格も人民
元で表示されています。これでは、現地が中国に占領されている
のと同じです。スリランカでは、シンハリ語とタミール語の表示
がないのは、ローカルランゲージ法に違反するとして、中国に改
善を求めたといいます。
 それに加えて、環境破壊がひどいのです。そのため、現地では
嫌中意識がすこぶる高まっており、中国人襲撃事件も多発してい
ます。これでは世界中に嫌中主義が拡大する一方ですが、中国人
はまったく歯牙にもかけないのです。あくまで中国の利益優先で
すから、「一帯一路」計画は、「新植民地主義」といわれていま
す。そういうことをある程度理解した上でのイタリアの「一帯一
路」加盟には、世界中が懸念を表明しています。
              ──[中国経済の真実/054]

≪画像および関連情報≫
 ●自爆テロのスリランカはインド洋に浮かぶ真珠
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   「分割して統治せよ」。英仏が採用した植民地支配の原則
  だ。この政策では、植民地の多数派が排除され、少数派が優
  遇される。支配者にとって都合がいいからだ。
   少し脇道に入るが、イラク(イギリスが領土を決めて19
  22年にイラク王国を建国)では、人口の60%を占めるア
  ラブ人シーア派が権力から排除され、人口の20%を占める
  少数派のアラブ人スンニ派がサダム政権を経て、2003年
  のイラク戦争まで支配権を握る。またシリア(フランスが植
  民地にした)では、人口の12%のアラウィー派が軍隊で重
  用され、バアス党革命で権力を握り、苛烈なシリア内戦を経
  て、現在もアサド政権が続く。
   スリランカの場合、イギリスがシンハリ人よりも重用した
  のが、少数派のタミル人だ。タミル人は英語を積極的に受け
  入れる。多くのタミル人が植民地時代に官僚や法律家という
  公職に就いた。だが、スリランカ独立後は、多数派であるシ
  ンハリ人と仏教の巻き返しの時代に入る。
   シンハラ語のみを公用語とし、仏教に対し国教に準じた地
  位を与えたシンハリ人政権の政策によって、タミル人との対
  立は決定的になる。1983年に始まり、2009年にタミ
  ル人の敗北宣言で終わる内戦では、死者10万人で難民30
  万人という惨禍を招く。タミル人は、「タミール・イーラム
  解放のトラ」(LTTE)という武装組織を立ち上げ、政府
  に応戦したものの、大勢を覆せなかった。
                  https://bit.ly/2JNYyyN
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スリランカとモルディブの位置関係.jpg
スリランカとモルディブの位置関係
















posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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