2019年07月25日

●「イタリア一帯一路加盟とEU分断」(EJ第5054号)

 「一帯一路」とは、かつてのシルクロードの復活であるといわ
れます。ところで、「シルクロード」とは何でしょうか。一般的
には、シルクロードとは、ユーラシア大陸を通る東西の交通路の
総称です。しかし、この概念は漠然としています。具体的には、
次の3つに分けて考えるべきです。
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   1.北方の草原地帯のルート ・・   草原の道
   2.中央の乾燥地帯のルート ・・ オアシスの道
   3.インド南端を通る海の道 ・・    海の道
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 このうち、もっとも古くから利用されていたのが「オアシスの
道」です。中国からローマへは絹、アルタイ山脈から中国へは金
が重要な交易品となっていたことから、「シルクロード」といわ
れるようになったのです。
 このような前提に立って、福島香織氏は、「一帯一路」構想に
ついて、次のように述べています。
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 中国は一時期、海洋覇権を取らなければ世界制覇できない、自
分たちの野望は達成できないという考え方でしたが、おそらくい
ろいろな研究者からのアドバイスなどがあり、長期的なスパンの
中で、海洋国家文明と大陸国家文明の入れ替えが起こるだろうと
考えるようになった。また、宇宙時代がくると、もう海洋覇権の
時代ではないと思い至り、もう一度、陸路の軍事輸送網というも
のを見直すべきだという意見から、「一帯一路」の構想が始まっ
たという話を聞いたことがあります。
 もう一度大陸国家を再編成するとなると、そこで重要になって
くるのは、ロシアはもちろんですが、ヨーロッパです。だから中
国はヨーロッパと組もうとしている。そうなると、海洋国家であ
るイギリス、アメリカ、日本あたりと対立することになるという
イメージで世界を2分割して、新たな世界秩序の支配者となる。
そんなイメージでつくつたのが「一帯一路」構想なのです。
                 ──渡邊哲也/福島香織著
     『中国大自滅/世界から排除される「ウソと略奪」の
                中華帝国の末路』/徳間書店
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 中国には古くから「天命思想」といわれるものがあります。有
徳の天子が天帝から命ぜられて天下を治めるというものです。そ
の天子のいるところが「中華」であり、すなわち、中国であると
いうものです。
 その外側には野蛮な「夷狄(いてき)」の世界があるのですが
それらの野蛮人も中華の徳にふれると、やがては人間になれる、
だから、中華の恩恵を施してやる、というのが、中華思想であり
冊封(さくほう)体制なのです。中国にとっては、日本も米国も
すべて夷狄なのです。
 「一帯一路」というのは、経済政策というよりも、かつてのシ
ルクロードを復活させ、ヨーロッパも含めて新しい冊封体制によ
る世界を作ろうとしているのです。
 それでは、冊封体制とは何でしょうか。
 冊封体制というのは、中国の歴代王朝が、東アジアの国際秩序
を維持するために用いた対外政策のことです。冊封体制について
は、中国史の専門家である西嶋定生氏の解説を引用します。
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 中国の皇帝が周辺諸国の首長を冊封して、これに王・侯の爵位
を授け、その国を外藩国として統属させる体制を私は冊封体制と
呼んでいる。冊封という形式は、本来は国内の王・侯に対する爵
位授与を意味するものであるが、その形式が周辺諸国に対する中
国王朝の統属形式に用いられたのである。そしてこの冊封体制を
基軸として、周辺諸国と中国との政治的・文化的関係が形成され
そこに東アジア世界が出現すると考えるのである。
        ──「世界史の窓」 https://bit.ly/2GnPKO4
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 かつてのシルクロードは、唐の都の長安からローマまで続く道
のりであり、今回、イタリアを一帯一路に加盟させたということ
は、ローマを落としたということで、中国にとって格別な意義が
あります。既に中国は、2017年に打ち出され、現在進行中の
高速鉄道網や高速道路は、ハンガリー、セルビア、そして、ギリ
シャのピレウス港を結ぶかたちで、バルカン半島を押さえつつあ
ります。これにイタリア半島も手に入れると、地中海の玄関を中
国は押さえたことになります。このように、中国は目下ヨーロッ
パを攻めているのです。
 ギリシャ、ハンガリー、セルビアは既に中国の「債務の罠」に
嵌っており、抜け出せなくなっています。それに加えてイタリア
も深入りしそうな情勢です。イタリアのマッタレッラ大統領やコ
ンテ首相は、一帯一路の参加についてかなり前のめりになってい
る感じです。中国としては、イタリアを取り込むことで、G7の
分断を仕掛けているのです。
 もちろん米国は、イタリアに警告を発していますが、イタリア
は、既に聞く耳を持っていないようです。香港英字紙サウスチャ
イナ・モーニング・ポスト(電子版)の伝えるところによると、
「イタリアのジュセッペ・コンテ首相が米国の警告を無視し、中
国が提唱する巨大経済圏構想『一帯一路』との緊密な協力を推進
している。消息筋によると、米国が近隣諸国の間でのイタリアの
声望を損なうと警告する中、コンテ政権は、中国企業にトリエス
テ港へのアクセスを拡大し、両国の大手電力会社間の協力を一層
強化することを計画している。そして、コンテ首相は、『一帯一
路』参加は、イタリアにとってチャンスとなる」と大きな期待を
寄せているのです。
 これでは、イタリアもいずれ「債務の罠」に嵌る危険性が増大
すると思われます。これは、事実上のヨーロッパの分断にもつな
がることになります。    ──[中国経済の真実/053]

≪画像および関連情報≫
 ●EUと中国 〜「新たな冷戦」での立ち位置を模索
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   イタリア北東部のトリエステと聞いて、かつての東西冷戦
  において一つの象徴となった都市だった、と思い浮かべる方
  は、かなりの歴史通だと言えるでしょう。トリエステは、冷
  戦時代に西側陣営と東側陣営とを分断した「鉄のカーテン」
  の南端でした。もっとも、ベルリンの壁と違って、「鉄のカ
  ーテン」は実際に壁のような建造物が敷設されたわけではあ
  りません。1946年にイギリスの首相チャーチルが演説で
  用いた比喩です。いわく、「北はバルト海のシュテッティン
  から南はアドリア海のトリエステまで、鉄のカーテンが大陸
  に降ろされている」とし、その「カーテン」の東側にあるヨ
  ーロッパ諸国はソビエトの影響下にあると説明しました。冷
  戦の到来を予言した演説でした。
   それから長い年月が過ぎ、冷戦も終わりました。しかし、
  今、再びトリエステが注目を集め始めています。アメリカと
  中国の対立が、「新たな冷戦」の様相を呈する中、トリエス
  テが中国の「一帯一路」構想における「海のシルクロード」
  のヨーロッパでの到達地となったためです。従来からのパー
  トナーであるアメリカとの関係を維持しつつ、急速にヨーロ
  ッパにも進出する中国と、どう向き合うのか。EUはその立
  ち位置を模索しています。
         ──国際報道2019キャスター/池畑修平
                  https://bit.ly/2Z9dLjk
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習近平主席とイタリア・コンテ首相.jpg
習近平主席とイタリア・コンテ首相
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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