2019年07月24日

●「なぜ一帯一路計画に加盟したのか」(EJ第5053号)

 2019年3月のことです。21日から23日までの3日間の
日程で、習近平国家主席はイタリアを訪問し、コンテ首相と首脳
会談を行っています。そこで、イタリアは、中国の推進する「一
帯一路」計画に関する覚書に署名しています。これで一帯一路の
署名国は、124ヶ国に達しましたが、G7の署名国はイタリア
がはじめてです。
 イタリアは、ユーロ圏3位の経済大国であるものの、2018
年末から景気後退に苦しんでいるのです。イタリアは、リーマン
ショック後に起きたPIIGS危機で、もっとも大きなダメージ
を受けた国であるといえます。銀行の破綻が相次ぎ、経済が回復
していない。ちなみにPIIGSとは、ポルトガル、イタリア、
アイルランド、ギリシャ、スペインのことで、いずれも財政悪化
が懸念されていたのです。
 実は、EUには、経済の運営上、大きな問題があります。それ
は、EU各国には中央銀行はあるものの、統一通貨ユーロの金融
政策は、欧州中央銀行(ECB)だけが行い、EU参加各国では
独自の金融政策を行うことができないことです。
 景気が悪くなったとき、普通の国では中央銀行が金利を下げて
市中の通貨供給量を増加させると同時に、政府が適宜財政出動を
行うことによって、景気回復の処置が取れるのですが、EUの各
国は、統一通貨ユーロを勝手に刷ることはできないので、なかな
か景気を回復させることができないでいます。
 EUのなかで最も経済がしっかりしているのはドイツですが、
ECBがドイツ主導のEU全体の景気状況に合わせて金利を引き
上げたりすると、景気の悪い国は、さらに景気が後退してしまう
ことになります。イタリアは、まさにそういう状況に陥っている
といえます。したがって、現在、イタリアにとって海外の資金は
どうしても欲しいのです。
 中国は、そういう状況を見抜いたうえで、援助の手を差し伸べ
るのです。その目的は、事実上「港」を取得することです。やは
りPIIGS危機で破綻したギリシャに対して、EU側とIMF
(国際通貨基金)が支援の条件として国有資産の売却を求めたこ
とがあります。それを受けてギリシャ政府は、ピレウス港を運営
する国営会社の67%の株式を中国のコスコ・グループ(中国遠
洋運輸集団)に売却したのです。これは、中国の戦略──「海の
一帯一路計画」のはじまりです。
 これには、IMFが重要な役割を果たすのです。そこで中国は
IMFトップの専務理事に、クリスティーヌ・ラガルド氏を送り
込んだのです。なぜラガルド氏は中国寄りなのかについて、EJ
は、2017年に取り上げたテーマ『米中戦争の可能性』で書い
ているので、ご紹介しておきます。
─────────────────────────────
                2017年06月01日
  EJ第4532号『ラガルド理事はなぜ親中国なのか』
                https://bit.ly/2rlME4q
─────────────────────────────
 クリスティーヌ・ラガルド氏は、9月12日付でIMF専務理
事を退任し、さらに出世して、11月に欧州中央銀行(ECB)
総裁(現マリオ・ドラギ総裁)に就任することになっています。
そうなると、今後、ますます中国寄りの裁定が行われる可能性が
あります。
 そもそも一帯一路は、大航海時代の英国がとった戦略を意識し
ており、各地域の重要港をひとつずつ押さえていく戦略です。し
たがって、中国がイタリアを一帯一路に参加させた狙いは、アド
リア海に面した重要港であるトリエステ港とイタリア最大のジェ
ノバ港を取得する狙いがあると考えられます。
 実際問題として、トリエステ港もジェノバ港も、設備がボロボ
ロになっており、修復が必要なのですが、財政難でそれができな
いのです。2018年8月のことですが、ジェノバで高速道路の
高架橋が崩落して、走行中の車や人や、橋の下の住民を含め43
人の犠牲者を出すという大惨事が起きています。この事故につい
てロイターは次のように伝えています。
─────────────────────────────
 [ジェノバ14日/ロイター]イタリア北部ジェノバで14日
高速道路の高架橋が約80メートルにわたって崩落し、ANSA
通信によると、少なくとも35人が死亡した。現場は激しい雨に
見舞われていたという。崩落した高架橋は高さ約50メートルで
自動車35台が巻き込まれた。がれきは工場や他の建造物の上や
川に落下し、ソーシャルメディアには、がれきの下敷きになった
トラックの写真が投稿された。
 サルビーニ内相は「このような惨事は受け入れがたい」とした
上で、責任の所在を明らかにするつもりだと述べた。高架橋は、
1960年代後半に建設。トニネッリ運輸相は保守点検が行われ
ていなかった可能性があるとした。  https://bit.ly/2GpsKOF ─────────────────────────────
 こうした中国の「港」をひとつずつ押さえて行く戦略に関連し
て、「債務の罠」とか「債務トラップ」という言葉がよく聞かれ
ます。相手の弱みにつけこんで、借金のカタに港の99年間の租
借契約を結ばせるやり方です。「借金の罠」というと、私などは
シェイクスピアの喜劇「ベニスの商人」のシャイロックという高
利貸しを連想します。「中国=シャイロック」という印象を持っ
てしまいます。
 ちなみに、「ベニスの商人」の商人は、シャイロックを指すの
ではなく、アントーニオという商人のことです。いずれにしても
一帯一路の札ビラ外交はあまり良いイメージではなく、中国全体
のイメージダウンにつながってしまいます。それでも習主席は、
米国との貿易戦争さなかの3月にイタリアに行き、一帯一路の覚
書に調印しているのです。一体中国は、何を目的として、この一
帯一路計画を進めているのでしょうか。
              ──[中国経済の真実/052]

≪画像および関連情報≫
 ●イタリアの「一帯一路」参加/のっぴきならないその背景
  ───────────────────────────
   イタリアが中国の一帯一路のプロジェクトに参加すること
  になった。このことについて、欧州連合(EU)そして米国
  は、中国がこれを契機にヨーロッパを支配するようになるの
  ではないかと警戒感を表明している。
   しかし、イタリアにして見れば事情もあるようだ。 例え
  ば、イランとの核問題を発端に米国がロシアに制裁を科し、
  それに協力してEUもロシアに制裁を科した件だ。イタリア
  はそれまで積極的にロシアと貿易取引を伸展させていたのだ
  が、この制裁によって、ご破算になってしまったのだ。また
  EUに対する反感も育ちつつある。ユーロの導入によって、
  イタリアのリラは弱い通貨となり、しかもイタリア政府が輸
  出奨励金を支給していたことなどがユーロの導入で廃止せざ
  るを得なくなってイタリアはそれまで半世紀以上イタリア経
  済を支えて来た輸出立国から後退してしまった。現在長期に
  亘って景気が低迷している事態を前にポピュリズム政府は、
  財政赤字を幾分か増やしても景気回復に政府は公共投資を進
  めて行きたいと望んでいる。ところが、それに対してもEU
  は、財政緊縮策の適用を連立政権のイタリア政府に要求して
  いる。現状のイタリアは失業率10・5%、国の負債はGD
  Pの132%にまで及んでおり、非常に厳しい経済環境にあ
  る。それ故、外国からの投資は是が非でも必要とされている
  のである。           https://bit.ly/2YjZFOU
  ───────────────────────────

イタリア/ジェノバでの高速道路崩落.jpg
イタリア/ジェノバでの高速道路崩落

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]