2019年07月23日

●「借金地獄を止められない鉄道建設」(EJ第5052号)

 中国は、米中貿易摩擦では、米国と正面から向き合うというよ
りも、「持久戦」の構えに入っているように見えます。最近では
ニュースにもならない状況です。しかし、現在中国は、さまざま
な問題で、苦境に陥っています。
 何よりも国有企業の資金繰りができなくなり、失業者が街に溢
れ、物価は上昇し、中央政府への不満が高まりつつあります。こ
れは、中国にとって危険な状況です。何よりも国内の不況対策に
早急に力を入れざるを得ない状況にあります。それには、大きな
問題を抱える公共事業を続行せざるを得ないのです。
 それには、中国の新幹線の延長工事を2019年も拡大させる
ことにし、日本円で13兆円を投入することになっています。こ
の13兆円という金額は、日本の公共事業の総額の2倍に当りま
すが、この巨額の資金を、新幹線の延長工事だけに投入すること
になるのです。途方もない話です。
 中国がはじめて新幹線を走らせたのは、2006年の「北京〜
天津」間です。それから13年間でその営業距離は2万5000
キロを超えています。これに対し日本は、半世紀もの年月をかけ
て、たったの3000キロです。中国はそれをさらに延長しよう
としているのです。
 しかも、日本のJR東海も、JR東日本も、黒字の経営をして
いるのに対し、中国の新幹線の赤字は天文学的になっています。
中国の新幹線の毎年の収入は約9兆円、そこから維持費、人件費
保全費、電力などのコストを差し引くと、天文学的な赤字になっ
てしまうのです。
 どうしてそうなるのかというと、中国新幹線の黒字区間は次の
2区間だけで、あとはすべて赤字だからです。
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          「北京〜上海」区間
          「北京〜広州」区間
─────────────────────────────
 費用対効果で見ると、最も黒字区間は「北京〜上海」区間で、
その乗客はキロ当たり4800万人、最も赤字区間は、万里の長
城の最西端から新疆ウイグルをつなぐ「蘭州〜ウルムチ」で、キ
ロ当たり230万人です。これに対して、日本の新幹線は平均で
キロ当り3400万人となっています。
 その結果、中国新幹線の累積赤字額について、2019年1月
29日、北京交通大学都市化研究センターは、次のように発表し
ています。
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 中国新幹線(高速鉄道)は、借金も「高速増殖」で、その累積
債務は707億ドル(約78兆円)に達している。
            ──北京交通大学都市化研究センター
─────────────────────────────
 78兆円といえば、日本の旧国鉄の累積赤字24兆円の約3倍
強になりますが、これがさらに積み重なると、恐ろしい近未来が
見えてきます。なぜ、このような赤字体質をさらに肥大化させる
愚劣なプロジェクトを中国は続けようとするのでしょうか。これ
について、中国に詳しい評論家の宮崎正弘氏は、次の3つの理由
を上げています。
─────────────────────────────
 1.国有企業の救済のため、景気浮揚のためのプロジェクトの
   継続という至上命令がある。
 2.海外の新幹線工事受注が必ずしもうまくいっていないので
   内需でしのぐしかないこと。
 3.国有企業の宿痾ともいうべき余剰生産と失業対策であり、
   事業の継続が不可避である。
               ──宮崎正弘著/ビジネス社刊
 『余命半年の中国・韓国経済/制御不能の金融危機が始まる』
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 まず、「1」について考えます。
 中国新幹線の工事を担う産業構造はピラミッド型になっていて
インフラ建設だけでも十数社があります。そのすべてが国有企業
です。これらの国有企業に従事する労働者、設計技師、エンジニ
ア、電気工事、運搬、発電事業など、中国経済の中枢を担ってい
ます。彼らに仕事を与えるためには、たとえコストパフォーマン
スが悪くても、仕事を与える必要があるのです。
 続いて「2」について考えます。
 そのためには、どうしても海外で新幹線受注を獲得する必要が
あります。しかし、海外で新幹線受注を競り落としても、親中派
の政権が変わると、事業が途中で頓挫してしまうこと多くなって
います。これについては改めて述べますが、いくつか取り上げる
と、ベネズエラは正式に中止、マレーシアは20%で中断、イン
ドネシアは用地買収ができず着工不能、タイは青写真のままであ
り、ベトナムはそっぽを向いてしまう、というように、トラブル
のオンパレードなのです。
 最後は「3」について考えます。
 これについては、宮崎正弘氏の著書から引用します。
─────────────────────────────
 中国の鉄道は、もともと軍の利権であり、守旧派が堅持する部
局でもあり、鉄道建設、下請け系列と傍系、さらには付随する研
究所や大学、高専など運転手予備軍を育ててきた。レール、電力
設備、砂利、セメント、ジャッキそのほか、あらゆる産業の裾野
が拡がる産業でもあり、プロジェクトをやめると、大量の失業者
が出るからだ。
 それにしても赤字を肥大化させる一方の事業を継続しなければ
ならないという、小学生が考えても分かるような明らかな矛盾を
全体主義国家では誰も咎めないのである。
                ──宮崎正弘著の前掲書より
─────────────────────────────
              ──[中国経済の真実/051]

≪画像および関連情報≫
 ●中国が突き進む「一帯一路」とユーラシア鉄道網の思惑
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   海外の鉄道ニュース記事をチェックすると「一帯一路」と
  いうキーワードをよく見かける。これは中国が進める広域経
  済圏構想で、中国国内にとどまる話ではなく、ユーラシア大
  陸全体に及ぶ構想だ。そのなかで、鉄道貨物輸送「中欧班列
  (チャイナ・レールウェイ・エクスプレス)」が交通インフ
  ラとして存在感を高めている。
   数年前まで、中国の鉄道の話題といえば高速鉄道網の延伸
  だった。日本の新幹線技術も取り入れた中国版新幹線は20
  08年に北京と天津を結ぶ京津城路として開業した。路線距
  離は約117キロ、最高速度は時速350キロだ。その後、
  既存路線の高速化や新路線の建設を着々と進めた。
   中国高速鉄道といえば、11年に起きた温州市の脱線衝突
  事故の記憶が残る。しかし、その後大きな事故は報じられて
  いない。安全対策と信頼の回復が適切に行われたようだ。結
  果、航空機より低価格で市民に支持された。中国高速鉄道は
  中国国土の東半分に網の目のような路線網を形成し、10年
  間で2万9000キロに達した。全てが同じ設計速度ではな
  く、時速200キロ、250キロ、300キロ、350キロ
  の4区分となっている。これとは別格の存在として上海リニ
  アモーターカーがあり、最高速度は時速430キロだ。ただ
  し、ドイツのトランスラピッド方式を採用したリニアモータ
  ーカー路線は、運行費用とドイツからの技術移転の交渉がま
  とまらず、中国大陸の高速鉄道の主流にはなれなかった。
                  https://bit.ly/2W663E5
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中国の高速鉄道車両.jpg
中国の高速鉄道車両
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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