2019年07月19日

●「主役が敬遠した映画『新聞記者』」(EJ第5050号)

 映画『新聞記者』が、結果として、安倍政権を批判する内容に
なったのは、東京新聞社会部記者、望月衣塑子氏の本(『新聞記
者』/角川書店)を原案としているからです。望月記者といえば
菅官房長官の会見の席で、よく通る大きな声で、鋭い質問をする
ことで有名であり、それがきっかけになって、有名になった新聞
記者です。
 官房長官の会見では、菅官房長官の番記者の質問が中心で、な
かなか番記者以外の記者に質問は回ってこないのです。しかし、
望月記者は、そこは巧みに、かなり強引に質問を行います。した
がって、番記者からさまざまな妨害を受けますが、望月記者はい
つも敢然と官房長官に鋭い質問を浴びせます。官房長官としては
もっとも質問して欲しくない問題を臆せず取り上げて質問するの
で、菅官房長官からは露骨に嫌われています。
 望月記者は、2017年3月、森友学園、加計学園の取材チー
ムに参加し、前川喜平文部科学省前事務次官へのインタビュー記
事などを手がけたことや、元TBS記者からの準強姦の被害を訴
えた女性ジャーナリスト伊藤詩織氏へのインタビュー、取材をし
たことで、「告発している2人の勇気を見ているだけでいいのだ
ろうか」と思いたち、2017年6月から、菅官房長官の記者会
見に出席するようになったのです。
 安倍政権の最大の問題点は、メディアを規制して、国民の知る
権利を制限する傾向があることです。官邸はテレビ番組をウオッ
チングし、政府批判をするコメンテーターを慎重に排除したり、
番組そのものを潰したり、政権にとって不利な言説を封じようと
します。基本的には、中国のやっていることと、程度の差こそあ
れ、あまり変わらないひどさです。
 そのため、森友学園にしても、加計学園にしても、それに関連
する文書改ざん事件にしても、真相が明らかにならないまま幕引
きをされ、国民の間には何となくすっきりしない、もやもや感が
残っていることは確かです。映画では、安倍政権で起きたそれら
の問題の裏側で何が行われているのか、新聞記者の立場から迫る
内容になっています。
 映画『新聞記者』では、松坂桃季演じる内閣情報調査室の官僚
杉原と、韓国人女優シム・ウンギョン演じる東都新聞記者吉岡が
ダブル主演を務めています。なぜ、この映画の主演が韓国人なの
かという点については、吉岡のキャスティングが難航したからで
す。当初は、宮崎あおいや満島ひかりを予定して交渉したのです
が、いずれも断られています。なぜなら、この映画に出演すると
内容が内容だけに、「反政府」のイメージがついてしまうことを
恐れたからです。その結果、吉岡エリカ役には、韓国人女優のシ
ム・ウンギョンが抜擢されることになったのです。役柄としては
日本人の父と韓国人の母の間に生まれ、米国育ちという設定に、
なっています。
 それだけ、安倍政権下では、一度政権に睨まれると、ろくなこ
とがないのです。俳優といえども、その後の仕事について、何ら
かの不利益なことが起きる可能性があるからです。いや、実際に
起きているのです。これが現安倍政権の最大の問題点であると、
私は考えています。こんなことがあっては絶対にいけないし、政
権としてやってはならないことです。
 そういう意味において、人気俳優の松坂桃季が、この映画に主
演した意義は大きいとして、ある映画ライターは、次のように述
べています。
─────────────────────────────
 人気俳優の松坂がこの映画の出演をよく承諾したと映画関係者
の間では話題になっています。映画の中でも正義と職務の間で葛
藤する官僚の役柄をみごとに演じている。役者としても一皮むけ
たと思います。            ──ある映画ライター
                  http://exci.to/2XGLsMq
─────────────────────────────
 この映画の監督は藤井道人です。河村プロデューサーは、藤井
監督が、「人間の善悪」をテーマに撮った前作「デイアンドナイ
ト」を見て、「若い感覚でこの映画を撮ったら、きっと受けると
直観的に思ったと」といいます。
 しかし、当の藤井監督は、河村プロデューサーから、この映画
の監督の依頼を受けたとき、すぐに断っています。政治的な問題
ではなく、自分に合わないと考えたからです。藤井監督は次のよ
うに述べています。
─────────────────────────────
 政治も勉強したことがないし、自分で新聞も取ったことが、な
かった。親は新聞を取っていたけど、大学に入って一人暮らしを
始めたときに月4000円も払えないし。自分が「参加していな
い」ってことも自覚はしていた。断るには十分な理由があったん
ですよね。                ──藤井道人監督
                  https://bit.ly/2YdGbM0
─────────────────────────────
 そこからが、河村プロデューサーと藤井監督との話し合いがは
じまったのです。「政治に興味がない」といったとき、河村プロ
デューサーの次の言葉が印象に残ったといいます。
─────────────────────────────
 政治に興味がない、政治から逃げるっていうのは、民主主義を
放棄しているってことだと俺は思う。 ──河村プロデューサー
─────────────────────────────
 この言葉は心に響いたと藤井監督はいっています。新聞を読ん
でいない監督が描く新聞記者の世界──望遠レンズを使って撮る
など、若い監督らしい工夫が満載の作品です。よくぞ制作したと
いう感じです。ジャーナリストの田原総一朗氏は、この映画を次
のように絶賛しています。
 「面白い!!非常にドラマチックかつサスペンスフル!新聞記
者と上層部の関係、官僚機関の構造がよくわかった。ジャーナリ
スト/田原総一朗」     ──[中国経済の真実/049]

≪画像および関連情報≫
 ●内閣調査室が望月記者を調べ始めているという証言あり
  ───────────────────────────
   もうひとつ興味深かったのは、この座談会で東京新聞の望
  月記者も自分が内調に狙われていたことを明かしたことだ。
  「私自身の記憶で言うと、やはり非常にバトルを官房長官と
  やっていたときに、ある内調(の人物)が、非常に仲が良い
  と、私はその議員が誰だか知らないんですけど、その国会議
  員に、内調が『望月さんってどんな人?』という調べる電話
  をかけてきた。この国会議員が非常に仲が良い、あるジャー
  ナリストの人に『望月さんのこと内調が調べ始めたよ』とい
  う話をするんですね。この人から私に『望月、調べられてい
  るから気を付けておけ』っていう」「彼(内調)が知ってい
  る政治家とかジャーナリストを使って、あなたを見ているん
  ですよと、ウォッチングしているんですよ、ということを、
  やっぱり政権を批判的に言ったり厳しめにつっこんでいる私
  とかに対して、間接的な圧力になるように、そういうことを
  やると」
   官房長官会見で質問をおこなうことは、記者として当然の
  行為であり、それに答えるのが官房長官の務めだ。しかし、
  その当然のことをするだけの望月記者に質問妨害をおこなっ
  たり、官邸記者クラブに恫喝文書を叩きつけている官邸。だ
  が、それだけではなく、内調を使ってこんな脅しまで実行し
  ているのだ。いや、内調と官邸による情報操作、マスコミ工
  作は映画で描かれているもの以外でもいくらでもある。
                  https://bit.ly/32qDK7P
  ───────────────────────────

映画『新聞記者』の一シーン.jpg
映画『新聞記者』の一シーン
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]