2007年07月05日

●バランスシート不況と金融政策(EJ第2116号)

 経済学の教科書には、政府は財政政策と金融政策の2つを使っ
て、景気をコントロールすると出ています。このうち財政政策は
政府が行うが、金融政策を担うのは日本銀行なのです。
 1970年代以降の景気変動は、どこの国でも金融政策が前面
に出て対応してきています。したがって、景気が減退し、それが
長期化すると、政府はしきりに日本銀行はもっと機能を発揮すべ
きであるとプレッシャーをかけるのがつねとなっています。
 小泉政権下での竹中大臣などはとくに激しく日銀の役割を要求
していた一人です。それだけではなく、内外の経済学者たちから
も、「日銀がもっとしっかり金融政策をやれば不況は回避できた
はずである」という意見がひっきりなしに出ているのです。
 このあたりのことを理解するために、2005年2月28日に
行われた日銀福井総裁の講演において、福井総裁と当時政府・経
済財政諮問会議の民間委員をしていた本間正明大阪大学教授との
質疑応答を取り上げます。本間教授の質問は次の通りです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 財政再建の流れの中で、金融政策の役割はますます高まってい
 る。今の低金利政策を解消しながら正常化をし、賃金配分機能
 の強化をする流れの中で、われわれが抱える財政のマイナスを
 吸収する民の需要の喚起という観点で、金融政策の役割をどう
 考えているか。         ――本間正明大阪大学教授
―――――――――――――――――――――――――――――
 本間教授は要するに、これから政府は財政再建を進めていくわ
けであるが、その影響で景気が悪くなるときは日銀はしっかりと
金融政策をとっていただけますねという確認をしているのです。
この場合、本間教授が日銀に求めているのは金融緩和――マネー
サプライを増やせという要求なのです。
 福井が日銀総裁になったのは、2003年3月20日のことで
あり、その時点で既に前任の速水総裁が相当の金融緩和を実施し
てきていたのです。本間教授の質問はそのさらなる継続を求めた
ものと思われます。
 これに対して福井総裁は次のように答えているのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府と中央銀行の関係は、何か片方が引き締めたから、そろば
 んを置いて差し引き計算で差額は日本銀行が緩和するという単
 純な話ではない。(一部略)民間部門の資金需要はまだ弱い。
 この先、今は経済は踊り場だが、再び経済が立ち上がり、民間
 の資金需要がより強く出るという段階と政府措置とが整合性が
 とれていくようであれば、それはあまり大きな問題じゃなくて
 済む可能性がある。そこのところをよく見極めて欲しいという
 ことだ。                ――福井日銀総裁
―――――――――――――――――――――――――――――
 福井総裁は慎重に言葉を選んでいますが、本間提案を厳しく批
判していると思います。政府側が財政再建をやると景気が後退す
るので、そのときは日銀はきちんと対応措置を取れというが、政
府と日銀の関係はそういうものではない。お互いが目指す安定化
に向けて、政府と日銀が、どれだけ呼吸が合っているかの問題で
ある――このようにばっさりと本間提案を切り捨てています。
 問題は後半の発言が何を意味しているかです。まず、福井総裁
は「民間部門の資金需要はまだ弱い」ことを前提として述べ、そ
れと政府措置――財政再建が整合性がとれていないのではないか
と指摘しているのです。つまり、財政再建は時期尚早であること
を暗にほのめかしているフシがあります。
 これについて、リチャード・クー氏はとても分かり易い解説を
しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 例えば、2006年度の民間の資金需要、つまり企業がおカネ
 を借りたいという金額が、2005年度に比べて5兆円増える
 のであれば、政府はその5兆円分だけ増税または歳出カットを
 やってもいい。しかし、2006年度の民間の資金需要が前年
 比5兆円しか増えないのに、政府が2006年度に10兆円の
 財政再建、例えば増税、歳出カットをやったとしたら、これは
 大きな問題になりますよという意味である。
                  ――リチャード・クー著
     『「陰」と「陽」の経済学』 ――東洋経済新報社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 何回も取り上げているモデルでいうと、今までは企業に資金需
要がないので回っていない貯蓄部分の100円を、政府(民間)
が借りて使っているかから経済が回っているのです。
 ところが企業(民間)が、100円のうち50円を借りて使う
ようになったので、政府は借り手としての役割を50円分だけ撤
退してもいいのです。その場合は50円分の増税なり、歳出カッ
トをやることはできるのです。
 しかし、企業(民間)が50円しか借りないのに、例えば80
円の財政再建をやってはいけない――そんなことをすれば30円
分のデフレギャップが生じ、それは確実に景気の足を引っ張るこ
とになる――福井総裁はこういっているのです。
 ここでクー氏は大事なことをいっています。それはバランスシ
ート不況下では金融政策は効かないということです。それはわれ
われが今まで体験してきたことでもあります。
 80年代後半の資産価格のバブルは、公定歩合が2.5%のと
きに発生しています。このときは、株価や地価は急上昇して、景
気も物凄く良くなったのです。しかし、それからわずか数年後の
1993年2月に公定歩合は同じ2.5%なのに何も起こってい
ないのです。そこからさらに金利を下げて行ってゼロになったが
それでも何も起こらないのです。
 これは日本がバランスシート不況下にあったからで、そういう
ときに金融政策は何も効かないことがわかるはずです。それを金
融政策を重視する経済学者やエコノミストは果たして知っている
のでしょうか。       ――[日本経済回復の謎/25]


≪画像および関連情報≫
 ・金融政策について
  ―――――――――――――――――――――――――――
  金融政策は、中央銀行が行う金融面からの経済政策のこと。
  財政政策とならぶ経済政策の柱である。物価や通貨価値の安
  定、さらに景気対策の一環として、金融引き締め、金融緩和
  を行う。手段は基準割引率および基準貸付利率(公定歩合)
  や預金準備率(準備預金制度)を変更したり、公開市場操作
  を行ったりする。また、操作の目標として金利かマネーサプ
  ライ、その結果としての為替レートなどが上げられる。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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