2019年07月10日

●「北朝鮮が求める『体制保証』とは」(EJ第5044号)

 北朝鮮の金委員長が盛んにミサイルを飛ばし、複数の核実験を
行っていたとき、まだ大統領になっていないトランプ氏は「私が
大統領になれたら、彼と会う用意がある」といっていたのを覚え
ています。これについて、副島隆彦氏は自著で、次のように書い
ています。
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 米大統領選で、共和党候補指名を確実にしたドナルド・トラン
プ氏は、5月17日(2016年)、ロイターとのインタビュー
に応じた。トランプ氏は、北朝鮮の核開発を阻止するため金正恩
朝鮮労働党委員長と会談することに前向きな姿勢を示した。(中
略)トランプ氏は北朝鮮対策については詳細には触れなかった。
だが、金氏と会談すれば、米国の北朝政策が大きく転換すること
になると強調。
 「私は、彼(金正恩氏)と話をするだろう。彼と話すことに何
の異存もない」と述べた。その上で、「同時に中国に強い圧力を
かける。米国は経済的に、中国に対して大きな影響力を持ってい
るのだから」と語った。           ──副島隆彦著
     『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社刊
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 トランプ大統領は、この約束をきちんと果しています。しかも
既に3回会って、首脳会談を行っています。4回目に会うときは
何かが決まる可能性があります。トランプ氏は、根っからのビジ
ネスパースンであり、会って話すことによって、その人物につい
て深く知ることができると考えています。
 「この男はバカか利口か。話し合う価値があるか。決断できる
男かどうか」は、会って話せばわかるとトランプ氏はいいます。
長年にわたって大勢の人を雇い、使ってきたトランプ氏らしいポ
リシーです。人は会って話してみないとわからない。これはいつ
も「戦略的忍耐」を口にして、金委員長と会おうとせず、結局何
もしなかった、いやできなかった、オバマ前大統領と大きな違い
です。その点、トランプ大統領は有言実行しています。
 トランプ大統領は、金正恩委員長とシンガポールとハノイで会
談し、金正恩を“できる男”と判断したものと考えます。そして
トランプ大統領は、事態を打開するために、米国として、何らか
の提案を金委員長にしたと思われます。それが、トランプ大統領
から金正恩委員長への親書に書かれていたと思います。
 そして、その親書を読んだ金委員長は、「大変興味深い提案で
ある」とコメントし、わざわざ親書を読む金委員長の写真まで付
けて、北朝鮮の労働新聞は伝えています。親書の内容が、単に板
門店で会いたいというものだけでなかったことは確かです。
 北朝鮮のミサイル技術と核開発は、軍事国家になろうとして開
発されたものはではないはずです。なぜなら、この程度のレベル
なら、仮に北朝鮮が一発でも核ミサイルを他国に向けて発射した
ら、あっという間にレベルの違う量の核攻撃を受けて、北朝鮮は
消滅してしまうからです。そんなことは、賢明な金正恩委員長は
十分わかっているはずです。
 したがって、北朝鮮の核ミサイル技術は、それがどんなに優れ
ていたものであっても、あくまで交渉のためのカードに過ぎない
のです。実際にそういう技術を持っていたからこそ、敵方である
米国の大統領が3回も会ってくれたのです。そういう意味で核開
発は北朝鮮にとって無駄ではなかったのです。
 金正恩委員長が非核化の条件として譲れないのは、自国の「体
制保証」です。この体制保証について、具体的に何を望んでいる
のか、北朝鮮は明らかにしていませんが、考えられることは、次
のようなものです。
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    1.          米韓軍事演習の中止
    2.        休戦中の朝鮮戦争の終結
    3.米国による北朝鮮への敵視政策を中止する
    4.上記により米国と北朝鮮との平和条約締結
    5.                その他
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 このうち、「1」については、トランプ大統領の決断により、
既に実現しています。2〜4についても、本当に「非核化」が実
現され、米朝双方がそれを望めば実現されるはずです。しかし、
問題は、それが北朝鮮の体制保証になるかといえば、そうではな
いと思います。確かに米国からの脅威はなくなるでしょうが、周
辺には、米国と並ぶ核大国である中国もロシアも存在します。
 「核を持つ」というのは、他国から攻められる脅威をなくすた
めです。日本も米国の核の傘に守られています。
 この問題については、昨日のEJでご紹介した7月5日の「プ
ライムニュース」のビデオのうち、後編の鈴置高史氏の発言が参
考になるので、視聴していただきたいと思います。
 トランプ大統領も、金委員長も、「非核化」という場合、「朝
鮮半島の非核化」という言葉を使っています。北朝鮮の立場から
考えて、もし本当に非核化してしまうと、北朝鮮はどこかの核の
傘に入らないと、国防が危なくなります。現在、韓国は米国の同
盟国であるので、米国の傘に入っています。
 北朝鮮が中国の核の傘に入るという選択肢もありますが、北朝
鮮は、本音のところでは関係性がよくなく、この選択肢をとらな
いでしょう。それは、北朝鮮としては、中国をとるか、米国をと
るかの選択であり、どちらをとってもリスクがあります。
 朝鮮は、古く、中国の同盟国だったのです。日清戦争の下関条
約(1895年)で、朝鮮は、はじめて中国から独立することが
できたのです。政治評論家の鈴木棟一氏は、日本に対して「恨み
百年」なら、中国に対しては「恨み千年」である──こういって
います。北朝鮮は、果して米国を選ぶのか、中国を選ぶのか、こ
のあたりのことも分析する必要があります。今回ばかりは、ウソ
をいって米国を騙すことは困難であろうと考えます。
              ──[中国経済の真実/043]

≪画像および関連情報≫
 ●金正恩が米朝会談後に「中国属国化」の道を選んだ理由
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   世界が注目した米朝首脳会談(シンガポール)から半月が
  たった。この間、金正恩はまたもや習近平を訪問した。今年
  3度目である。北朝鮮は本当に非核化に向かっているのか?
  この疑問を検証する前に、少し復習しておこう。
   6月12日にシンガポールで行われた米朝首脳会談。共同
  声明の最重要ポイントは、「トランプ大統領は北朝鮮に安全
  の保証を与えることを約束し、金委員長は朝鮮半島の完全非
  核化への確固で揺るぎのない約束を再確認した」という部分
  だ。もっと簡潔に言うと、「米国は北朝鮮の体制を保証し、
  北朝鮮は完全非核化すると約束した」。これが、ディールの
  核心である。
   この米朝首脳会談、日本でも世界でも「大失敗だ」という
  意見が大半を占めている。しかし筆者は、「大成功だった」
  と考えている。「会談は失敗だった」と主張する人は、「共
  同声明文にCVID──完全かつ検証可能で不可逆的な核廃
  棄の文字がないではないか」と憤る。「完全な非核化」とい
  う表現だけでは、不十分であり、金正恩の思うツボだという
  のだ。そもそも、なぜ「CVID」という言葉が出てきたの
  だろうか?米国は、北朝鮮がウソをつくこと、すなわち「非
  核化の約束だけをして制裁を解除させ、経済支援を受け、体
  制も保証させ、しかし核兵器は保有し続ける」という状況に
  なるのを恐れたのだ。      https://bit.ly/2S23nal
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トランプ大統領からの親書を読む金正恩党委員長.jpg

トランプ大統領からの親書を読む金正恩党委員長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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