見ても、表現はそれぞれ違うものの、習近平氏は無能であること
を指摘しています。つまり、中国のような大国を率いる指導者と
しては適していないという意味です。
問題はそういう人がトップになった場合、何が起きるかです。
何よりも自分の地位を奪われることを心配します。とくに優秀な
人間を毛嫌いし、周りには自分に逆らわないイエスマンばかりを
集めるようになります。そして言論を統制します。猜疑心が強く
なり、内部にいる敵を排除しようとします。企業にもこういう上
司は存在しますが、一国のトップということになると、国の浮沈
に関わってきます。
今から考えると、習近平以前の政権では、言論統制はそんなに
厳しいものではなく、食事などで仲間が集まれば、平気で共産党
の悪口をいっていたものです。しかし、習近平政権では、そうい
うことは絶対に許されなくなったのです。
ケ小平は、政治体制、官僚組織、軍に関しては、共産党がしっ
かりと指導するが、それ以外のこと、とくに金儲けに関して、一
般市民の蓄財やビジネスに関しては、自由を解放したのです。つ
まり、そんなに息苦しくはなかったのです。しかし習近平政権に
なると事態は一変します。「改毛超ケ」を打ち出したからです。
これについて福島香織氏は次のように解説しています。
─────────────────────────────
習近平は政権の座に就くと、アンチケ小平路線を打ち出した。
それはいわば「毛沢東のやり方を改造して、ケ小平を超える(改
毛超ケ)」というものでした。要するに、共産党員はみんな規律
正しく、素晴らしい行動をしなくてはならないと、共産党員に対
する言動・行動・思想、その他、日々の生活すべてを党中央がよ
り厳しく統制するようになりました。
さらに民営企業も国営企業も外資企業も、共産党がきちんと指
導しなくてはならない。株式市場も為替も共産党がコントロール
する。一般庶民の日々生活・娯楽・思想・世論も、すべてきちん
と共産党が指導、コントロールする、となったわけです。
──渡邊哲也/福島香織著
『中国大自滅/世界から排除される「ウソと略奪」の
中華帝国の末路』/徳間書店
─────────────────────────────
言論封殺──これは国家として、絶対にやってはならないこと
です。かつてのソ連、中国、北朝鮮などの共産党国家では、これ
が平然と行われています。習近平政権の場合はそれが極端に徹底
して行われています。「庶民が何か行動を起こすのではないか」
と日々怯えているのです。
2019年1月に、習近平政権は、次のような通達を出してい
ますが、どういう意味かわかるでしょうか。
─────────────────────────────
いかなる方式の低級紅や高級黒もやってはならず、党中央に面
従腹背の人間を決して許さず、どちらにもいい顔をする両面派も
許さず、偽忠誠を決して許さない。 ──2019年1月の通達
──渡邊哲也/福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
ちんぷんかんぷんです。「低級紅」「高級黒」とは一体何のこ
とでしょうか。
これは、最近の中国の流行語です。習近平政権のあまりの言論
統制の結果、庶民の批判というか、反発がこめられた言葉である
といえます。正確に書くと、次のようになります。
─────────────────────────────
高級黒 ガオジーヘイ
低級紅 ディージーホン
─────────────────────────────
露骨に政権を褒めて、逆に風刺・皮肉を込めてこき下ろすのが
「高級黒」であり、低級の褒め称え方、いわゆる、ゴマスリのこ
とを「低級紅」といいます。そのどちらもやってはいかんという
のが1月の通達の内容です。これは、異常そのものです。こんな
細かいことまで、中国共産党は「指導」しているのです。
あまりにも厳しいルールを定められると、それに不満であって
も、一応表面上はしたがう、いわゆる「面従腹背」を人間はとき
としてするものです。、習政権下ではそれもやってはいけない、
さらにあからさまなゴマスリもダメというのです。そんな人間の
行為にまで国家が統制を加えようとしているのです。
かつての中国は、トップが交代すると、その後すさまじい権力
闘争が起きたのです。ケ小平は、それを身をもって体験してきて
いるので、政権交代のルールを定めたのです。そのルールの最初
の総書記/国家主席は、江択民氏であり、任期の2期10年で、
ルール通りに胡錦濤氏に政権交代が行われています。そこに大き
な権力闘争は起きていないので、ケ小平ルールは、一応成功して
いるといえます。
このような権力抗争なき政権交代には、もうひとつ良い面があ
ります。それは、総書記/国家主席を務めた長老政治家が一定の
力を保って生き残るという点です。これには良い面と悪い面があ
りますが、現政権が間違った方向に進もうとしたとき、長老たち
のパワーで、コントロールが効くということです。しかし、現政
権が大きな改革をやろうとすると、長老たちの存在は、かえって
邪魔になります。
習近平氏にとって、長老たちの存在は、邪魔以外の何ものでも
なかったのです。そこで、習近平氏は、かつてのトップには手を
つけないが、トップの手足を削ぐ必要があると考えたのです。そ
こで、就任直後からやったのが「腐敗撲滅運動」です。これを徹
底的に強力に行うことで、習近平氏は、総書記、国家主席に加え
て「核心」の地位まで手に入れることができたのです。権力とし
ては磐石そのものになったのです。
──[中国経済の真実/040]
≪画像および関連情報≫
●左右両方の言論統制強化〜「天安門」30年控え緊張高まる
───────────────────────────
中国で民主化を志向する右派とマルクス主義に忠実な左派
の両方の言論に対する統制が強化されている。習近平政権は
国内経済の落ち込みなどの影響で、社会が動揺する事態を懸
念。民主化運動が武力弾圧された天安門事件からちょうど、
30年(6月4日)になるのを前に、政治的緊張が一段と高
まっているようだ。
香港メディアなどは3月下旬、中国トップレベルの名門校
として知られる清華大学(北京)法学院の許章潤教授が停職
処分となったと報じた。言論規制が厳しい同国でも、主要大
学教員の処分は異例だ。許教授は昨年夏以降に発表した幾つ
かの論文で、習近平国家主席の個人崇拝を批判したり、「反
革命」の暴動鎮圧とされた天安門事件の評価見直しを要求し
たりした。
習氏は自分の最高指導者としての権力基盤を固めるため、
昨年3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で憲法を改正
し、2期10年までとされていた国家主席の任期制限を撤廃
した。許氏はこれに公然と反対し、改革・開放路線を守り、
事実上の終身制だった毛沢東の極左路線で、全国が大混乱に
陥った文化大革命(文革)の再現を防ぐため、国家主席の任
期制を復活させるべきだと主張していた。また、その後、重
慶師範大でも文学院副教授だった唐雲氏が「国の名誉を傷つ
ける言論」を理由に教員資格を剥奪された。授業中に共産党
もしくは党指導者に批判的な発言があったとみられる。学生
が当局に密告したという説もある。https://bit.ly/32ijiWS
───────────────────────────
中国ジャーナリスト/福島香織氏