2019年07月04日

●「米中貿易戦争は価値観の衝突なり」(EJ第5040号)

 中国人民大学の向松祚教授は、米中貿易戦争について、次のよ
うにいっています。
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 米中貿易戦争は、貿易戦争でも経済戦争でもない。価値観の
 衝突である。              ──向松祚教授
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 価値観とは何でしょうか。
 ここでいう価値観とは、民主や法治、自由、人権など、全ての
先進国が共有している価値観であり、「普遍的価値観」のことで
す。しかし、普遍的価値観は、産業革命以降世界制覇を行った西
欧・米国の価値観であり、そのため、かならずしも「普遍的」で
はなく、世界には多様な価値観があります。
 しかし、中国がWTOに加盟し、自由主義貿易を展開する以上
国際的なルールにしたがう必要があります。WTOに加盟すると
いうことは、それらのルールを守ることが前提だからです。確か
に、はじめのうちこそ中国は、ルールにしたがっていたのです。
それがケ小平の「韜光養晦」の教えです。
 「韜光養晦」(とうこうようかい)は、中華人民共和国の国際
社会に対する態度を示す言葉であり、ケ小平の演説が根拠となっ
ているといわれます。これは、中国のなかでも聞き慣れない言葉
であり、中国人でも説明されないと、その意味を理解できない難
しい言葉です。
 「韜光」の本来の意味は、名声や才覚を覆い隠すことであり、
「養晦」の本来の意味は隠居することを意味します。この2つを
あわせると、爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術という
ことになります。
 習近平氏が政権を引き継いだとき、中国はまだ「韜光養晦」の
考え方を守っていたのです。しかし、習近平主席は現在では「韜
光養晦」の衣をかなぐり捨てています。それが明らかになったの
は、習政権が「中国製造2025」を発表したときです。
 普遍的価値観について、習近平主席は、就任直後の2013年
に「七不講」(チ−ブザン)という通達を大学や地方政府に出し
て、言論統制を行っています。「七不講」とは、口にしてはいけ
ない7つの言葉という意味であり、具体的には次の言葉です。
─────────────────────────────
        1.人類の普遍的価値
        2.報道の自由
        3.公民社会
        4.公民の権利
        5.党の歴史的錯誤
        6.権貴(特権)資産階級
        7.司法の独立
       ──2013年5月18日付、「産経ニュース」
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 まず、言葉から封じて行くというのが中国のやり方です。要す
るに、この「七不講」は、西側メディアのいう普遍的価値につい
て、語ってはならないというものです。そのうえで、中華思想を
徹底させようとしているのです。
 「中華」というのは、世界の中心にあって、花が咲き誇ってい
る国という意味です。その周辺には異民族がいますが、中華は中
央にあって、それに優越するものと考えています。そして、周辺
の異民族のことを次のように表現します。
─────────────────────────────
    東夷   (とうい) 中国では日本人も東夷
    南蛮  (なんばん) 日本ではポルトガル人
    西戒 (せいじゅう) 槍を使うのがうまい人
    北夷  (ほくてき) 北方異民族を意味する
─────────────────────────────
 よく考えてみると、「一帯一路」も「米中貿易戦争」も、いま
起きているのは、中国のイデオロギー、中華思想(華夷思想)と
西側の既存のスタンダード、主に米国の思想・価値観とのせめぎ
合い、ヘゲモニーの争いであるといえます。つまり、価値観の衝
突、文明の衝突といってもいいと思います。これについて、福島
香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 習近平は2018年の秋ぐらいから何かと言うと、「100年
なかった末曽有の大変局に世界が直面している」と、ものすごく
重要なフレーズを繰り返し言っている。つまり、これから世界の
支配者が代わりつつあるところで、その変わっていく新しい秩序
・ルールをつくるのが中国でなければならない。しかもその中国
がつくろうとしているこのルールは、西側の三権分立でも司法独
立でもない。中国共産党の秩序、中国共産党が支配するルールな
んだ、ということを暗に言っているわけです。
                 ──渡邊哲也/福島香織著
     『中国大自滅/世界から排除される「ウソと略奪」の
                中華帝国の末路』/徳間書店
─────────────────────────────
 習近平主席は、世界の支配者が代りつつある現在、その変わっ
ていく世界において、覇権、ヘゲモニーを握るのは中国であり、
そのさい新しい秩序やルールを作るのは、当然中国でなければな
らない──こういっているのです。まさに中華思想です。
 中国がハーグの仲裁裁判所での裁定や、国際法を無視する横暴
極まる振る舞いは、それが過去の時代において、米国を中心とす
る西側諸国が作り上げたルールであって、中国は、そのようなも
のにしたがう必要はないという考え方です。きわめて自分本位の
身勝手な考え方ですが、来るべき新時代において、そのようなル
ールや秩序を作るのは、世界の覇権を握るであろう中国、いや、
中国共産党であって、世界はそれにしたがわなければならなくな
ると恐るべきこといっているのです。
              ──[中国経済の真実/039]

≪画像および関連情報≫
 ●中国人の尊大さ
  ───────────────────────────
  ◎古来、中国人は自らを「華人」と称してきた。「華人」と
   は「文明人」という意味である。「中華」とは世界唯一の
   文明という宣明である。こんな言葉を国名にした国がいっ
   たいどこにあろうか。(谷沢栄一)
  ◎「みなさん、下に見えるのが、偉大なる祖国の首都北京で
   す」。中国の旅客機が北京に近づくと、こんな放送が流れ
   てくる。(上村幸治)
  ◎古来、支那人の中華思想は世界に類例を見ないほど尊大で
   あった。フランスの中華思想は単に欧州の中心という意識
   にとどまるのだが、支那人は昔から支那の統率者とは考え
   ず、宇宙の支配者であると位置づけた。即ち、漢人の文化
   は世界最高の域に達した究極の文明なのである。故に漢の
   文物を生んだ中原の地を取り巻く周辺を僻陬の地と貶価し
   て「南蛮北狄東夷西戎」と呼ぶ。
    「蛮」=蛇の種族、「狄」=犬の種族「夷」=礼儀知ら
   ず「戎」=野蛮人異民族…これらに属する人物の名前を正
   史に記す場合、意識的に汚れを示す文字を当てる。(谷沢
   栄一)
  ◎過去を振り返ってみても、中国という国は、対等のパート
   ナーを持ったことなどありはしない。せいぜい上下関係、
   あるいは他国を併合してしまうことばかりだ。このことを
   我々は肝に銘ずべきだ。(石原慎太郎)
  ◎「中国人は外交の天才だ」と思っているが、それは大きな
   誤解である。実際、中国の外交はだいたい失敗の連続であ
   る。そもそも中国人が外交上手なら、19世紀末から20
   世紀にかけてあれだけ欧米から好き勝手に領土をむしり取
   られたりするわけがない。(日下公人)
                  https://bit.ly/2xsBEGg
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中華思想の図解
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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