2019年06月20日

●「林長官の事実上の『廃案』の宣言」(EJ第5030号)

 6月18日、「逃亡犯条例」改正案反対を訴えるデモは200
万人という空前の規模に達し、林鄭月娥香港行政長官は再び会見
を開き、謝罪しましたが、あくまで「無期限延期」を主張し、最
後まで「撤回」を口にしませんでした。林長官としては、自分の
意思で、撤回も辞任もできないのです。なぜなら、この改正案を
プッシュしたのは、中国政府であるからです。
 しかし、これ以上、改正案をゴリ押しすることは、中国政府は
今のところ考えていないと思われます。それは、林行政長官と記
者とのやりとりによくあらわれています。
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 記者:なぜ、「撤回」ではなく、「無期限の延期」なのか。
 長官:改正案の審理はもはや困難であり、事実上の「廃案」
    と同じである。
 記者:そこまでいうなら、なぜ「撤回」と明言できないか。
 長官:言葉の問題はもう繰り返したくない。どうか理解して
    ほしい。
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 改正案に対する抗議の声は経済界を巻き込み、デモの規模は中
国側の予想をはるかに超えるものだったからです。それに加えて
6月末には習主席も出席するG20大阪サミットがあり、中国政
府としては、香港騒動が争点化するのを避けるため、早期に幕引
きを急ぐ必要があったのです。したがってこの改正案は「事実上
の廃案」です。林行政長官は、中国政府のパペット(操り人形)
であり、これ以上の発言に踏みこむことはできないのです。
 それにしても、なぜこの時期に香港政府は、「逃亡犯条例」改
正案をゴリ押ししようとしたのでしょうか。
 中国政府に政策提言をする研究機関の研究員は、この改正案に
ついて次のように述べています。
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 中央政府は、香港が反体制派の基地になることを警戒し、国家
国家安全上の「穴」をふさごうとした。
           ──2019年6月19日付、朝日新聞
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 この林鄭月娥という人物は、第1次習近平政権で香港を主管す
る中国政府の最高機関である「中央香港マカオ工作協調小組」の
当時トップの張徳江氏が推して、2017年3月に任命し、7月
に就任させたのです。張徳江氏は、当時中国共産党序列第3位の
大物です。
 もともと香港マカオ工作は、江沢民元国家主席派の曾慶江元国
家副主席が担ってきたのですが、習近平政権になって、張徳江氏
が引き継ぎ、現在の第2次習近平政権では、韓正筆頭副首相(序
列7位)がその地位にあります。林長官の「事実上の廃案」宣言
は、韓正副首相が出させたものと考えられます。
 しかし、習近平氏は、もともと江沢民派に属していたのですが
習近平氏は権力を握ると、態度を豹変させます。いわゆる「トラ
もハエも」の掛け声とともに、腐敗防止運動と称して、江沢民一
派の利権や資産を根こそぎ奪取し、江沢民派の幹部らを汚職で逮
捕・摘発してきているだけに、香港とマカオは習近平政権にとっ
て「危険地帯」になっているのです。
 したがって、今や権力絶大の習近平国家主席でも、最大限の警
戒レベルをひかないと、香港入りできないのです。習近平主席は
2017年6月に香港入りしていますが、保安当局や警察当局は
安全保障レベルでは最高級の「反テロ厳戒態勢」をとり、加えて
中国本土からも事前に人民解放軍や武装警察が大量投入されて警
戒にあたったのです。習主席は暗殺に怯えているのです。
 香港がこういう状況であるため、外国人も含む反習近平政権勢
力が、中国本土で反政府行為を行い、香港に逃げ込むケースが多
くなっており、香港マカオが反政権の基地になりつつあります。
そこで、それらの逃亡犯を逮捕し、中国政府に引き渡せるように
する「逃亡犯条例」の改正案を、何としても早期に成立させよう
としたのです。
 「逃亡犯条例」が成立すると、別に逃亡犯でなくても香港で逮
捕・起訴された犯罪人についても、何らかの理由をでっち上げて
中国政府に引き渡し、中国の裁判にかけることができることにな
ります。これは「一国二制度」であるのに、事実上香港も中国と
同じになってしまうのです。つまり、今回の改正案は「香港を香
港でなくする」ものといえます。
 それにしても上述のように今回の香港デモの規模は、中国政府
の予想をはるかに超えるものです。200万人というと、香港市
民の4分の1が参加したことになり、習近平政権にとって大きな
衝撃です。改正案の無期限延期は、事実上これに屈してしまった
ことを意味し、政権にとっては大打撃といえます。しかもデモは
まだ収まっていないのです。中国政府は、これをどのようにして
収めるつもりなのでしょうか。
 中国政府は、水面下で香港の経済界などへ説得工作を行い、デ
モの収束を図ると思われますが、それでデモが収まる保障は何も
ありません。彼らは、林行政長官の辞任も求めているので、デモ
を収めるのは容易なことではないといえます。
 この香港デモの収拾に失敗すると、同じ一国二制度を提案して
いる台湾問題に大きな影響を与えることになり、今年の秋に行わ
れる台湾総統選挙にも大きな影響を与えることになります。習近
平政権にとってアタマの痛い問題です。
 6月18日、トランプ米大統領は、28日〜29日に行われる
G20大阪サミットで、米中首脳会談を行うことになったことを
ツイートしています。ポンペオ米国務長官は、この国際会議の場
で香港問題を正式議題として取り上げると宣言していましたが、
首脳会談が行われることで、それはなくなると思われます。取り
引きをしたのでしょう。いずれにせよ、今回の香港デモは、習近
平政権の足元を揺さぶる大問題になっています。
              ──[中国経済の真実/029]

≪画像および関連情報≫
 ●米中首脳、G20で会談へ 電話協議で合意
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   【ワシントン=鳳山太成、北京=原田逸策】トランプ米大統
  領は18日、中国の習近平国家主席と電話協議をし、28〜
  29日に大阪で開く20ヶ国・地域首脳会議(G20サミッ
  ト)に合わせて会談することで合意したと明らかにした。米
  中両政府の代表者で事前協議を始めるとも述べた。5月以降
  の対立激化で途絶えていた米中交渉が再開する見通しだが、
  妥協点を見いだせるかは不透明だ。
   トランプ氏はツイッターで「広範囲な会合を開く」と指摘
  し、貿易問題だけでなく、対北朝鮮外交を含む幅広い議題を
  扱う方針を示唆した。中国国営中央テレビも18日、米中が
  首脳会談の開催で合意したと伝えた。習氏は電話協議で「米
  中は対等に対話し、問題を解決すべきだ」と中国の主権への
  配慮を求めた。「米国が中国企業を公平に扱うことを望む」
  とも語り、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)へ
  の米制裁解除も暗に要請した。
   トランプ米政権は制裁関税の対象をほぼすべての中国製品
  に広げる「第4弾」の準備を進めている。トランプ氏は米中
  首脳会談の結果を踏まえて、発動の是非を判断する構えだ。
  中国の産業補助金の扱いなどを巡る意見の隔たりは大きく、
  貿易戦争に歯止めがかかるかは予断を許さない。トランプ氏
  と習氏は2018年12月の首脳会談で貿易問題の打開策を
  探る方針で一致した。   https://s.nikkei.com/2FfDrmf
  ───────────────────────────
G20大阪サミットで米中首脳会談開催で合意.jpg
G20大阪サミットで米中首脳会談開催で合意

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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