2019年06月17日

●「19年の香港デモは前回と異なる」(EJ第5027号)

 この原稿は、6月15日に書いていますが、本日以降どうなる
かわからない中国に関する重要な問題を取り上げます。それは、
香港における「逃亡犯条例」を巡る大規模なデモです。なぜ、こ
れが問題なのかについて分析します。
 香港は「一国二制度」が条件で、1997年に英国から中国に
返還されたのです。この制度は、香港では50年間守られること
になっているので、資本主義など中国本土とは異なる経済・政治
制度が維持されることが約束され、外交と国防をのぞく「高度な
自治」が認められています。
 香港の憲法にあたる香港基本法には、中国本土では制約される
言論・報道・出版の自由、集会やデモの自由、信仰の自由などが
明記され、それが2047年まで守られることになっています。
現在、香港に進出している日本をはじめとする世界各国の企業は
この一国二制度を前提として進出しています。
 この香港基本法は、「必要であれば、2007年以降に修正で
きる」と定められています。香港の民主派は、この年にある制度
変更を行うことを決めていたのです。それは、香港のトップであ
る行政長官を民意で選びたいということです。つまり、香港市民
一人ひとりが投票する「普通選挙」によって決めることです。
 このことはよく誤解があるのですが、実は政府の代表を民意で
選ぶ普通選挙は、英国統治時代からなかったのです。つまり、香
港は、英国統治時代から「法治主義」や「資本主義」はあっても
「民主主義」は最初からなかったのです。中国は、そういう香港
を英国から返還されたのであって、民主主義の香港を引き継いだ
わけではなかったのです。
 もっとも中国としては、50年間、当時の香港の制度を引き継
ぐつもりでなく、時間をかけて、少しずつ、骨抜きにして、なる
べく早く中国本土並みにし、スムーズに中国の一部に編入したい
と計算していたものと思われます。
 しかし、民主派は、制度変更が可能になる2007年に普通選
挙を要求してきたのです。そのとき、中国本部は香港行政長官に
指令を出して、「2007年に変更可能ではなく、2007年以
降に変更可能である」として、このさいは先延ばしすべきである
と時間稼ぎをしたのです。
 そして、さらに7年経った2014年、中国政府は次の新制度
を提案したのです。
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 1.一人一票の投票権を付与する
 2.行政長官候補は指名委員会の過半数の支持が必要である
 3.候補者は2〜3人に限定する
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 これは普通選挙とは程遠い内容です。香港の民主化団体の「学
民思想」などの団体は、指名委員会の多数は親中派で占められる
ため、中央政府の意に沿わない人物の立候補を事実上排除する方
針として、学生を動員して授業のボイコットを開始したのです。
これを契機として、「雨傘運動」は、このような経過で始まった
のです。なぜ、学生たちは雨傘を持っていたかというと、それは
催涙弾を防ぐのが目的であったといわれます。
 しかし、国際金融センター香港の中心部で、9月末に始まり、
79日間にわたって道路を占拠するという不法行為から、香港市
民の支持も失い、デモは失速してしまったのです。その結果、形
式だけの普通選挙すら行われず、1200人の指名委員による間
接選挙により、行政長官が選出されるようになったのです。
 しかし、雨傘運動の本当の原因は、何だったのかというと、日
経電子版開発長の池田信太朗氏は「それはすぐれて経済の闘争で
もあった」ことを指摘しています。
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 香港デモ(雨傘運動)とは何だったのか。もちろんそれは、民
主主義を手にしたいと願う香港市民の政治運動だった。あるいは
英国が、香港を返還した折に約束された「一国二制度」が失われ
つつあることに危機感を覚えた香港市民たちの抵抗だった。
 だが、「政治」の闘争であると同時に、すぐれて「経済」の闘
争でもあったと思う。デモ期間中、私は何度もデモ隊を訪れて話
を聞いた。なぜこの場にいるのか。何を勝ち取ろうとして闘争す
るのか。彼らはもちろん「民主主義」や「普通選挙」を答えに挙
げる。だが重ねて「なぜ民主主義が必要なのか」「なぜ普通選挙
を実現したいのか」と問うと、その答えはいつも経済問題に帰す
る。       ──池田信太朗氏 https://bit.ly/2Zs1Z34
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 この池田信太朗氏のレポートは、雨傘運動の本質をよく捉えて
おり、参考になるので、ご紹介しておきます。なお、タイトル中
の「香港デモ」は、雨傘運動のことです。
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                  池田信太朗著
    『不夜城の陥落、力を失いつつある香港デモ』
              https://bit.ly/2XeHmdf
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 そして、それから5年後の2019年、再び香港において大規
模なデモが起きたのです。池田信太朗氏は、雨傘運動と今回のデ
モの違いを次のように述べています。
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 「いまないものを求めた」のが雨傘革命だった。これに対して
今回のデモは「いまあるものが失われようとしていることを食い
止める」という闘争だ。          ──池田信太朗氏
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 今回の香港デモ「逃亡犯条例」は、もしこれが通ると、香港が
香港でなくなるとの危機感が香港市民には強いのです。それにこ
の条例は、香港市民だけに影響のある条例ではなく、香港に進出
している外国企業や香港への旅行者にも影響する可能性のある条
例といえます。       ──[中国経済の真実/026]

≪画像および関連情報≫
 ●香港デモで懸念される"天安門事件"の再来
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   1989年6月4日の「天安門事件」から30年の節目を
  迎えた。事件後、中国は国民に対する監視の目を強化して言
  論の自由を奪い、共産党による一党独裁体制を貫いた。その
  体制の下で、経済発展を遂げ、世界第2位の経済大国になっ
  た。中国政府は国民に豊かさというアメをなめさせた。その
  結果、国民は監視というムチの痛みに鈍感になった。生活の
  水準の向上を喜び、いまの一党独裁体制を賛美する中国人も
  多い。日本や欧米は経済的に豊かになれば、中国は一党独裁
  体制を改めるとの見通しを立てていた。だが、中国は経済発
  展を遂げても政治改革には乗り出さず、一党独裁体制を堅持
  した。日米欧の見通しは間違っていたのだろうか。沙鴎一歩
  はその見通しが誤っていたのではなく、政治改革を経ていな
  い中国の経済発展がニセモノであると考える。
   中国の市場経済は閉ざされたまま解放されていない。中国
  政府は鉄道、エネルギー、通信、軍事という国の重要な基幹
  産業を握り、巨額の利益を上げる。地方政府も毛細血管のよ
  うに張り巡らされたネットワークで民間部門から富を吸い上
  げている。中国国民が味わっているのは、真の豊かさではな
  い。中国の経済発展には大きなほころびが生じ、中国経済は
  いつ何時、そのバブルがはじけてもおかしくない。
                  https://bit.ly/2RlFlH8
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香港における「雨傘運動」.jpg
香港における「雨傘運動」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中国経済の真実 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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