ピューで、G20大阪での習近平主席との会談はあると思うし、
話し合えば一定の合意に到達することは可能であるとしたものの
会談が実現しない場合について、次のように述べています。
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もし月内の米中首脳会談が実現しなければ、中国からの全輸入
品に関税を課す「第4弾」を直ちに実施する。これが行われると
中国には一大事だが、米国は他国から製品を買えるので、問題で
はない。 ──2019年6月11日付、日本経済新聞夕刊
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トランプ大統領のこの発言は、6月10日時点で、首脳会談に
ついて中国から何のメッセージもないことを示していて、少しイ
ライラしており、会談開催を中国側に呼び掛け、催促したものと
思われます。しかし、本日、14日になっても、中国は首脳会談
について何も米側にいってきていないのです。C20大阪まで、
あと2週間しかないにもかかわらずです。
習近平主席は、そもそもこの米中貿易摩擦について、どのよう
な戦略を考えていたのでしょうか。この習近平主席のハラのなか
について、石平氏は、次のように述べています。
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いま習主席が考えているのは戦略ではない。今回の貿易戦争を
何とか軟着陸させないと、アメリカの関税の引き上げを止めない
と、自分の目の前で中国経済が潰れる。潰れたら自分は終わり。
だから、いまの習主席は延命策しか考えていません。
危機から逃れるために、できるだけアメリカの関税の引き上げ
実施時期を延ばす。あるいは終わらせる。そのためには、アメリ
カが突き付けてくる要求をとりあえず呑んでいく。だが、呑んで
いくとしても、すべて実行するつもりなど毛頭ない。これが中国
の一貫したやり方、常套手段です。
──石平×渡邊哲也著/ビジネス社刊
『習近平がゾンビ中国経済にトドメを刺すとき/
日本市場は14億市場をいますぐ「損切り」せよ!』
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習近平主席は、この考え方で、昨年12月1日の首脳会談を受
け入れ、「第3弾」の関税引き上げを5月10日まで5ヶ月間延
期させたのです。なぜ、会談が決裂したかというと、米国は、中
国が約束ごとを履行しない場合のさまざまな懲罰的措置を合意文
書に盛り込ませようとしたからです。
現在、トランプ大統領は、「第3弾」の関税引き上げを実施し
た上で、「第4弾」の実施を振りかざして、6月末のG20大阪
での米中首脳会談の実施を迫っているのですが、今のところ中国
に動きはありません。
現在、中国は米国からの輸入品の約70%に報復関税をかけて
おり、実際に中国が今やれることは、次の2つぐらいしかないと
いわれています。
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1.希土類(レアアース)の輸出管理規制
2. 為替相場を人民元安に誘導する
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「1」についてはまだ行われていませんが、「2」については
既にはじまっています。中国が米国に輸出する場合、輸出品のド
ル建ての販売価格は関税分跳ね上がりますが、この場合、人民元
が安くなれば、それだけ販売価格を下げる余地が生まれ、関税引
き上げ効果が緩和されます。中国はこれを狙っているのです。
2019年6月12日付の日本経済新聞は、次の見出しをつけ
て、関連記事を掲載しています。
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◎中国危うい「元安カード」/G20にらみ米と神経戦
1ドル7元試す展開に
【上海=張勇祥】中国が人民元安を対米カードに再び使い始め
た。中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁による元安容認発言を
を受けて、元の対ドル相場は1ドル=7元を試す展開となってい
る。米政権の制裁関税拡大をけん制する狙いがあるが、元安は資
本流出にもつながりかねない。6月末の20ヶ国・地域首脳会議
(G20大阪サミット)に向けて米中の神経戦が続きそうだ。
──2019年6月12日付、日本経済新聞
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4月の終わりまでは「1ドル=6・7元」で推移していたので
す。このラインよりも人民元が上がると「元安」になります。そ
して、5月5日に、トランプ大統領が「制裁関税」を引き上げる
といった時点から「6・8元」という元安水準になり、5月19
日に、人民銀行潘副総裁が「人民元は合理的な水準で安定してい
る」と発言すると、元はさらに安くなり、「6・9元」の水準を
突破しています。そして、6月7日の人民銀行易総裁の「具体的
な為替の数字がより重要と思っていない」という元安容認発言が
飛び出したのです。
こういう状況を分析してゴールドマン・サックスは、今後3ヶ
月で「1ドル=7・05元」までの元安進行を予想しており、こ
れを見る限り、中国は為替を操作することによって、米国との対
立長期化に備えていると思われます。
この人民銀行易総裁とムニューシン米財務長官は、G20中央
銀行総裁会議のため訪れている福岡市で9日に会談を行い、「お
互いに関心のあるテーマについて率直に意見交換をした」とだけ
述べていますが、会談内容については不明です。
理屈のうえでは、10%の関税引き上げは、10%の通貨安で
相殺できるのです。中国があからさまにこれをやると、米国は中
国を「為替操作国」に指定することは確実です。これは、きわめ
て危険なチキンゲームであり、これによって中国経済が破綻し、
金融危機が起きる可能性もありうるのです。
──[中国経済の真実/025]
≪画像および関連情報≫
●くすぶる「資本流出→人民元安」のリスク/唐鎌大輔氏
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あまり話題にはなっていないが、国際通貨基金(IMF)
は、2019年4月に発表した春季世界経済見通しの中で、
中国の経常収支が2022年には66億ドルの赤字になると
予想している。金融危機発生から10年あまりで、一時は世
界最大だった黒字が完全になくなってしまうという変化の大
きさには驚きを覚える。
同期間に一貫して高水準の黒字を維持し、世界最大の経常
黒字国としての地位を確立したドイツとは対照的である。ア
メリカのトランプ政権は通商政策上、中国を目の敵にしてい
るが、これは貿易黒字(正確には対米黒字)の大きさを捉え
たものである。しかし、貿易収支を含むより幅広な概念であ
る中国の経常収支は黒字が激減しており、今や赤字化を展望
するに至っているというのが現状なのである。
中国の経常黒字がはっきりと減少し始めたのは2016年
後半以降だ。背景には、貿易収支の黒字が頭打ちになる一方
サービス収支の赤字が着実に増えてきたという構図がある。
こうした流れの中、2018年は1〜3月期の経常収支が
341億ドルの赤字となり、2001年4〜6月期以来の赤
字を記録したことが話題となった。2011年以降、サービ
ス収支赤字がじわじわ増えている一方、例年1〜3月期は春
節(旧正月。中国の企業は一斉に長い休みに入る)の影響で
貿易黒字が縮小するため、遂に、前者が後者を超える規模に
至ったのである。 https://bit.ly/2WxerNj
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中国人民銀行易綱総裁