2019年05月08日

●「中国の野心を抑制する日本核武装」(EJ第4999号)

 昨日のEJで取り上げた米国における中国への対応に対する2
つの考え方を以下に再現します。
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        1.中国の強化を奨励する一派
              キッシンジャー派
     ⇒  2.中国の進出を警戒する一派
              ブレジンスキー派
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 第2の「中国の進出を警戒する一派」について考えます。第1
についての検討は、昨日のEJで既に終っています。
 ズビグネフ・ブレジンスキー氏は、その実績から、ヘンリー・
キッシンジャー元国務長官と並ぶ戦略思想家といわれています。
とくにブレジンスキー氏は、地政学的観点を取り入れた考察をす
る優れた政治学者として知られています。リンドン・ジョンソン
大統領の大統領顧問を務め、1977年から1981年までカー
ター政権時の第10代国家安全保障問題担当大統領補佐官を務め
たことでも知られています。
 ブレジンスキー氏は、多くの著作を遺していますが、次の著作
はとくに注目すべきです。
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        ズビグネフ・ブレジンスキー著/山岡洋一訳
           『ブレジンスキーの世界はこう動く/
      21世紀の地政戦略ゲーム』/日本経済新聞社刊
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 ブレジンスキー氏は、22年前の1997年に上梓したこの著
作のなかで、中国の行動を極度に危険視し、正確に今日の事態を
予測しているのです。
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 中国が大国として登場してきたことで、地政戦略上きわめて重
要な課題が生まれている。民主国家になり、自由主義経済になっ
た中国を、アジアの協力の枠組みのなかに取り込むことができれ
ば最高の結果だといえる。しかし、民主主義の道を歩まないまま
経済力と軍事力が増大していけば、どうなるだろう。近隣諸国が
なにを望み、どう考えようとも、「大中華圏」が登場し、それを
防ごうとすれば、中国との対立が激化するだろう。そうなれば、
日米関係も緊張する。日本政府がアジアにおける日本の役割につ
いての考え方を大転換させかねず、最悪の場合には、米国が東ア
ジアから撤退せざるを得なくなる。
       ──ズビグネフ・ブレジンスキー著の前掲書より
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 上記のなかで、「日米関係も緊張する」とは、具体的にいうと
「米国が中国の封じ込めを進めたとき、これまでのように、日本
がそれに従うとは限らない」という意味になります。
 つまり、このまま中国が、軍事、経済の両面において、米国と
拮抗し、上回る存在になってきたとき、米国にとって最も従順な
同盟国であるはずの日本が、米国についてくるとは限らないと、
ブレジンスキー氏は警告しているのです。それは、中国が日本の
隣国であるからです。つまり、これは日本人が真剣に考えるべき
日本の問題であり、現在米国と日本が置かれている立場を、正確
に予言しているといえます。
 ウォルター・ラッセル・ミードという、米国の政治学者がいま
す。バード大学教授で、専門はアメリカ外交政策、ハドソン研究
所の上級研究員です。ミード氏は、トランプ政権誕生以来、きわ
めてユニークなトランプ観察を行っていますが、2017年9月
5日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙に「トランプは日
本の核武装を欲しているか」というタイトルのレポートを投稿し
ています。そこには、次のように書かれています。
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 注意深い観察者は、かなり前から、北朝鮮の好戦性と核保有に
よって日本は核兵器に目を向けるようになることを知っている。
世界で日本ほど核能力を取得しやすい立場にいる国はない。決定
から核保有までの時間が数ヶ月であることは大方の専門家が知っ
ている。それに伴う混乱の中で韓国と台湾がおそらくそれになら
い、少なくとも台湾は日本からそっと援助を受けるだろう。日本
のエリートの意見は核の選択賛成論にかなり傾いている。
                 ──2017年9月5日付
          ウォール・ストリート・ジャーナル紙より
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 「日本の核武装論」──トランプ政権を支えるスタッフは、今
のところ、現状維持を望んでおり、トランプ大統領も選挙前に言
及していた日本の核武装に関する発言は、大統領になってからは
控えています。しかし、米中交渉がこじれ(必ずこじれる)、米
朝関係も進展しない場合は、トランプ大統領は再び日本に核武装
を促してくる可能性は十分あると思います。これについて、ミー
ド氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 大統領もその一人だろうが、彼らは東アジアの核武装化は米外
交の敗北ではなく、勝利と見るだろう。中国の地政学的野心は、
日本、韓国、それにおそらく、台湾の核武装化で封じ込められよ
う。ワシントンは、在韓米軍を引き揚げ、国防費を削減しつつ、
中国を抑える費用を同盟国に負担させることができる。
              ──「選択」/2019年5月号
─────────────────────────────
 地政学的にみて、日本の核武装が、いかに必要不可欠な状態に
なっても、日本の国内事情から考えても、核武装が実現するとは
思えませんが、地政学的には中国の台頭を止めるには、そういう
方法しか考えられないということであると思われます。
 かつて在日米軍は、日本を守るために駐留しているのではなく
日本に核武装化させないための「ビンの蓋」であるといわれてい
たのです。      ──[米中ロ覇権争いの行方/080]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ米国が中国に貿易戦争を仕掛けたか
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   2018年3月に、米国の通商法301条に基づく対中制
  裁措置の発動が発表されたことをきっかけに、米中貿易摩擦
  はエスカレートし、その後に起こった双方の間の関税引き上
  げ合戦に象徴されるように、貿易戦争の域に達している。こ
  れまでの米中関係は、いろいろな問題を抱えながらも、特定
  の分野における摩擦にとどまり、今回のような貿易戦争に発
  展することがなかった。貿易戦争は、相手だけでなく、自国
  にも大きなダメージを与える。米国がなぜ大きな代償を覚悟
  しながら、貿易戦争を仕掛けたのかを巡って「中国異質論」
  を展開する米国側と、米国における「中国脅威論」を批判す
  る中国側の主張が対立しているように見えるが、どちらも一
  面で真実を捉えているように思われる。
   中国が欧米と異なる政治経済体制──いわゆる「中国モデ
  ル」を維持しながら、経済大国として台頭してきたことを背
  景に、米国は対中政策を「関与」から「抑止」に転換した。
  中国に対する自国の優位性を維持するために、中国への市場
  開放圧力を強め、中国を対象とする技術移転への制限を強化
  し、WTOをはじめとする国際貿易体制の再構築を目指して
  いる。中国では、米国が仕掛けた貿易戦争に対してどう対応
  すべきかを巡って、徹底抗戦を主張する「タカ派」と、でき
  るだけ米国の要求を受け入れ、問題の早期解決を望む「ハト
  派」の間で意見が分かれている。 https://bit.ly/2LxWqhs
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ズビグネフ・ブレジンスキー氏.jpg
ズビグネフ・ブレジンスキー氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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