P細胞の正体』(花伝社)において著者は、現在のiPS再生医
療を車に例えて、非常に分かりやすく説明しています。
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わかりやすい例が、自動車だ。アクセルとブレーキ。最低でも
この二大制御装置がなければ、存在すらおぼつかない。生命体は
なおさらだ。あらゆる生体には、ホメオスタシス(生体恒常性維
持機能)が備わっている。それは生体が正常に戻ろうとする“働
き″なのだ。それが病気や怪我のときに発揮される現象を、我々
は「自然治癒力」と呼んでいる。セルサイクルにおける細胞増殖
抑制酵素というブレーキの存在も、このホメオスタシスの一環で
あることが、よく理解できる。こうして生命体は調和とバランス
を保って存続し続けるのである。
しかし、iPS細胞という最新鋭モデルカーはそうではない。
アクセルはあるが、ブレーキがない!そんな最新型の自動車をあ
なたは、見たことがあるか?試乗する気になるか?
──船瀬俊介著『STAP細胞の正体/「再生医療は幻想だ」
復活!千島・森下学説』/花伝社刊
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これまで安倍政権は、成長戦略の一環として、iPS再生医療
に1000億円以上の資金を注ぎ込んできています。それでいて
成果は上がっていないのです。『選択』4月号では、「安倍政権
の最大の罪は、iPS細胞研究の実用化促進というお題目の下、
日本の再生医療の治験体制を骨抜きにしてしまった点に尽きる」
と厳しく指摘しています。これは、どういうことかというと、少
しでも早く成果を出せるよう、2013年11月に次の2つの法
律を成立ないし改正させていることです。そんな法律が成立した
り、改正されたことはほとんどの人は知らないはずです。
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1.再生医療等安全性確保法
2. 薬事法改正
https://bit.ly/2L1DuaL
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これらの法律は、再生医療に用いる製品はついては、少ない数
例の治験で安全性を確認し、その有効性が「推定」できれば、条
件付きで承認できるようになったのです。つまり、治験を甘くし
たわけです。だから、「人体実験」と批判されるのです。
薬事法の改正については、これまでの医薬品の承認には、次の
3つの厳しい試験が必要ですが、再生医療関連の医薬品には、3
つ目の試験である「第三相試験」は求めず、有効性は市販後に検
証されることになったのです。
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◎第一相試験
・動物実験の結果をうけてヒトに適用する最初のステップで、
安全性を検討する上で重要なプロセスである。
◎第二相試験
・第一相の結果をうけて、比較的軽度な少数例の患者を対象に
有効性・安全性などの検討を行う試験である。
◎第三相試験
・実際にその医薬品を使用するであろう患者に対し、有効性の
検証や安全性などの検討を大規模に実施する。
https://bit.ly/1CpKcrf
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実際にこれらの法改正によって何が起きたかについて、2つの
ケースをお知らせします。
第1のケースです。2015年9月に、医療機器の製造・販売
の国内最大手であるテルモ社は、虚血性心疾患治療製品「ハート
シート」の承認を受けたのです。承認申請に用いた治験データは
12年から国内の3つの医療機関で実施した7例のみであり、主
導したのは、澤大阪大学教授です。治験データはあまりにも少な
いですが、法律には適合しているのです。
これについて、「ネイチャー」は、有効性を評価できるだけの
十分なエビデンスに欠けているとして,「効くかどうかも定かで
はない治療を患者に売りつけるのか?」と疑問を呈する記事を掲
載したのです。
第2のケースです。岡野慶大教授が創業したバイオベンチャー
「サンバイオ社」が大日本住友製薬と共同開発をしている再生細
胞医薬品「SB623」のケースです。2016年6月に発表さ
れた第二相試験(前期)では18人の患者が登録され、良好な結
果が出たので、株価は急上昇し、1万2000円に跳ね上がった
のです。しかし、1019年1月29日の第二相試験(後期)で
は、思うような結果がです。そのショックで、株価は2401円
まで下落したのです。株の乱高下です。
岡野研究室の関係者によると、「iPS細胞から分化させて、
形態は神経に見えるものの、機能はいまひとつ。無理矢理刺激し
て論文を書いてしまった」と明かしています。承認基準の甘さが
こんなところに影響を与えているのです。これがiPS研究の実
態なのです。
『選択』4月号掲載の「『幻想』のiPS再生医療」はレポー
トを次の言葉でしめくくっています。
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山中氏の業績が偉大であることは、論を俟たない。だが、安倍
政権が、人気取りのために飛びつき、巨額の血税を注いだ結果、
iPS研究は隘路にはまり込んだ。揚げ句の果てには、国際標準
のルールまで変える反則技も繰り出す。気がつけば、iPS細胞
は巨大公共事業と化し、利権にまみれた腐敗が横行している。日
本の先端医療を弄んだ安倍政権の罪は大きい。
──船瀬俊介著の前掲書より
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──[米中ロ覇権争いの行方/078]
≪画像および関連情報≫
●再生医療製品の早期承認制度は果たして得策か/ネイチャー
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日本は、再生医療の研究と臨床応用で最先端の地位を守る
ことに無我夢中で取り組んでいる。患者の成熟細胞を再プロ
グラム化して体内のさまざまな組織に分化できるようにした
人工多能性幹(iPS)細胞の研究に数十億円の予算が計上
され、薬事法の改正により医薬品や医療機器とは別に「再生
医療等製品」という分類が新設され、当該製品の迅速な実用
化のための条件および期限付きの「早期承認制度」が創設さ
れた。この戦略はある程度奏功している。
2015年9月には改正法の下で最初の再生治療製品が複
数承認された。日本国内で再生医療関連事業を強気に展開す
る会社によれば、早期承認制度こそが患者のニーズに最も迅
速に応える方法であり、これがなければ、再生治療製品の開
発は数年にわたって数百億円の費用を要する第T〜W相の臨
床試験で行き詰まるという。しかし、早期承認制度が患者に
恩恵をもたらすものか、あるいは日本の医療制度の過大な負
担の軽減に役立つものかは、現時点では明らかではない。
この新制度によって承認を受けた再生治療製品の1つであ
る「ハートシート」(テルモ株式会社製)は、患者の大腿部
から採取した骨格筋に含まれる筋芽細胞(未分化で単核の筋
細胞)を培養してシート状にした製品で、重症の心不全患者
の心臓表面に移植される。このハートシートは、第U相臨床
試験で7人の患者について安全性と有効性が示唆されたとこ
ろで、薬事当局が製造販売の「条件付き承認」とした。
https://go.nature.com/2TJ4T5f
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テルモ「ハートシート」