2006年8月のことですが、2007年12月に文科省は、そ
のための研究支援の「総合戦略」を策定しています。きわめて早
い対応ですが、これには第1次安倍政権が関わっています。第1
次安倍政権は2006年9月26日にスタートし、2007年8
月27日に終っています。
第1次安倍政権で首相補佐官を務めたのは安倍首相のオトモダ
チの世耕弘成氏、世耕氏は、山中伸弥氏と、大阪教育大学付属天
王寺中学・高校の同級生で、中学3年のときは世耕氏が生徒会長
山中氏が副会長だったことがあり、仲がよかったそうです。その
縁もあって、山中氏から安定的な研究資金を求められ、世耕氏は
官邸として、財務省との調整を行ったというのです。
こういう経緯でiPS細胞による再生医療関連のプロジェクト
には、京大、理研、慶大、東大の4拠点に、5年間で総額217
億円が投じられ、2013年からの第2次安倍政権では、10月
に山中教授がノーベル賞を受賞したこともあって、研究費支援は
さらに加速することになります。
現在のiPS研究支援の中心は、国立研究開発法人日本医療研
究開発機構(AMED)ですが、その2019年度予算は147
億円です。それに加えて、山中伸弥教授の率いる京大iPS細胞
研究所は、年間25億円の予算が付いています。まさに大盤振る
舞です。この金額がどれほど巨額であるかは、米国のiPS関連
研究年間予算(2014〜2019年平均)が3・8億円に過ぎ
ないことを知れば十分でしょう。しかも、この予算は2021年
以降は打ち切られることになっています。米国は、再生医療がま
だ臨床応用に程遠いと考えているからです。
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日本:147億円 VS 米国:3・8億円
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山中教授だけではないのです。岡野・慶大教授、澤・阪大教授
高橋・京大教授、高橋・理研プロジェクトリーダーらの進める研
究に関しては、年間4億円程度の予算が付いています。しかし、
彼らの研究について『選択』は、次のようにかなり厳しいトーン
で批判しています。
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iPS細胞を臨床応用するに際し、最大の課題は安全性の担保
だ。未熟な技術で作製したiPS細胞を大量に備蓄したり、疾患
ごとに臨床試験を組んだりすることではない。先行して集中すべ
きは、大型動物を使った大規模かつ長期的な動物実験である。確
かに澤・阪大教授や高橋・京大教授はブタやサルなどの大型動物
を使った実験をして、安全性は担保されたと主張しているが、い
ずれの研究も小規模で、観察期間は2ヶ月〜2年間と短い。日本
が推し進めているiPS細胞の臨床研究は、有効性も安全性も未
確認の「人体実験」と言っても過言ではないのだ。
──「幻想」のiPS再生医療」
『選択』/2019年4月号より
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「人体実験と言っても過言でない」とは大変過激な意見である
といえます。具体的にいうと、2018年後半以降に走っている
4つのiPS臨床研究──京大のパーキンソン病、慶応の脊髄損
傷、阪大の角膜疾患、そして同じ阪大の心臓病の臨床研究が「人
体実験に等しい」といっているのですから。
彼らの研究は、いずれも京大が備蓄を進めている他人のiPS
細胞を使うというものです。メディアは「備蓄細胞は遺伝子変異
が少ないことを確認している」と報道していますが、これについ
て米国在住の研究者は「素人を騙している」として、次のように
批判しています。
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自己細胞だろうが、他人の細胞だろうが、体外で培養すれば遺
伝子変異は起こる。全ての異常が事前の検査で判明するわけでは
ない。また他人の細胞を移植する場合、拒絶反応を抑えるために
免疫抑制剤の投与が欠かせない。発がんのリスクが高まるが、こ
の不都合な真実は議論されないのだ。
がん免疫を研究する医師は「がん化が想定されるiPS細胞を
移植した患者を免疫抑制状態に置くなど、倫理的に許されない」
と批判する。 ──『選択』/2019年4月号より
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ここで「再生医療」の歴史を簡単に振り返る必要があります。
そもそも再生医療の概念は、「ES細胞」の登場から出てきたも
のです。ES細胞(胚性幹細胞)は、受精卵の胚を万能細胞とし
て使うものです。しかし、受精卵は「命」そのものであり、生命
科学の分野では、禁断の研究という扱いを受けたのです。
次に登場したのが「iPS細胞」です。山中伸弥教授は、人工
的な遺伝子操作で、体細胞を万能細胞に戻すことに成功したこと
によって、ノーベル賞を受賞したのです。そのため、iPSとは
「人工多能性幹細胞」というのです。
ここで「人工的」というのは、体の細胞、たとえば皮膚細胞に
3〜4個の遺伝子(山中ファクター)を加えることで、2〜3週
間培養することを意味します。ES細胞の最大の難点を克服した
といわれています。しかし、iPS細胞には必然的にがん化がつ
いて回るのです。
ところがです。同じ体の細胞(最初はリンパ球)を使いながら
それを弱酸性の溶液に25分程度浸し、その結果得た細胞を3日
間培養して万能細胞を作る「STAP細胞」が登場したのです。
これは細胞自体には、一切手を加えないので、がん化の危険性は
ない夢の細胞です。
しかし、これは、何だかわけのわからないうちに、利害の関係
のある輩が、大勢で寄ってたかって、潰してしまったのです。案
外これこそ本命だったのではないかというわけです。
──[米中ロ覇権争いの行方/076]
≪画像および関連情報≫
●iPS細胞はこうして生まれた/ES細胞に残された課題
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2012年10月。細胞の運命に関する常識を変えたとし
て、山中伸弥さんが、英国のJ・ガードン教授とともにノー
ベル医学・生理学賞を受賞しました。
皮膚の細胞にたった4つの遺伝子を入れるだけで、からだ
中のほぼ全種類の細胞になれる能力「多能性」を持つiPS
細胞をつくれるというのです。いったい何が、彼を大発見へ
と導いたのでしょうか。
私たちのからだは、1個の受精卵が分裂をくり返し、皮膚
や心臓などさまざまな細胞へ分化することでつくられます。
ある細胞がからだ中のほぼ全種類の細胞になれる能力を多能
性と呼び、発生のごく初期段階の個体である「胚」の内部に
ある内部細胞塊がこの性質を持っています。
内部細胞塊を取り出してつくられた細胞を「ES細胞」と
いいます。ES細胞には多能性があり、さまざまな細胞にな
れるので、失われた臓器をよみがえらせる再生医療へつなが
ると期待されていました。
しかし、ES細胞は、つくるときに胚を壊す必要があり、
命を犠牲にするとも考えられるという「倫理」の問題と、他
人の細胞であるES細胞を移植しても、免疫によって排除さ
れてしまうという「拒絶」の問題を抱えており、どうしても
実用化できずにいました。 https://bit.ly/2IP2QGi
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山中伸弥教授/ノーベル賞