2019年04月15日

●「中国/量子もつれ個数の世界記録」(EJ第4988号)

 ここで中国とオーストリア間で、量子通信衛星「墨子号」を介
して実施されたとされる「量子暗号通信」のメカニズムを確認し
ておくことにします。
 量子通信衛星が発信するのは「量子暗号」です。この量子暗号
は「0」と「1」が重ね合わされた状態──いわゆる「量子のも
つれ」の状態で発信されます。
 既に述べているように、原子の先の量子の世界では、「0」と
「1」の他に、「0」と「1」の両方の状態を取ることができる
のです。この「量子のもつれ」を暗号の「鍵」として使うのが量
子暗号通信です。
 さて、宇宙空間を回っている墨子号から「量子のもつれ」の状
態で量子暗号が発信され、この暗号を使って地球上のAという地
点と、Bという地点で通信が行われたとします。この場合、もし
この通信がハッキングされたとすると、量子のもつれは破綻して
通信できなくなります。通信中のA地点とB地点もハッキングに
気がつくので、別の量子(光子ともいう)のペアが発信され、通
信を続けることができます。
 量子暗号通信衛星は、詳しいことは不明ですが、おそらく複数
の量子(光子)のペアを発信し、その1つのペアが「鍵」として
選択され通信しますが、ハッキングされると自動的に別の「鍵」
が選択され、通信をシームレスに続けることができるのではない
かと考えられます。この中国とオーストリアの量子暗号通信につ
いて、遠藤誉氏は次のように述べています。
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 2017年9月29日、中国科学院の白春礼院長とオーストリ
ア科学アカデミーのツァイリンガ一院長は、量子暗号を用いた世
界初の大陸横断ビデオ会議を行った。地上と衛星との間で量子暗
号を用いた世界初の大陸横断ビデオ会議を行った。地上と衛星と
の間で、量子暗号を用いて量子通信をしただけでなく、地上にお
ける大陸間横断を実施したわけだ。
 実験において、墨子号は河北省興隆市とオーストリア・グラー
ツの地上基地で、衛星地上間量子「鍵」配送を実施した。指令制
御衛星を中継とし、興隆地上基地とグラーツ地上基地間の鍵共有
を実現した。
 実験中の鍵共有量は、約800キロバイト。鍵共有に基づき、
ワンタイムパッドの暗号化を採用し、共同チームは北京とウィー
ンの間でも画像暗号化伝送を行った。共同チームは高級暗号化標
準「AES−128」と結びつけ、シードを1秒毎に更新し、北
京からウィーンに至る暗号化動画通信システムを構築した。さら
にこれを利用し、75分間にわたる中国科学院とオーストリア科
学院の大陸間量子機密ビデオ会議を行った。両国のアカデミーの
院長が、史上初めての量子暗号を用いた機密会議を行ったのであ
る。 ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
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 これによると、量子暗号通信をするには、複数の量子(光子)
のもつれを作り出す必要があります。この技術は絶望的に難しい
といわれています。
 ここにもう一人のキーマンが登場します。それは、1982年
に中国の浙江省で生まれた陸朝陽という人物です。また37歳と
いう若さですが、「量子の父」といわれる潘建偉氏の弟子であり
「量子の鬼才」と呼ばれています。
 陸朝陽氏は、中国科技大学物理学系に入学し、2004年に卒
業することになっていたのですが、偶然オーストリアから帰国し
た潘建偉教授の話を聞き、魅了されてしまったといいます。彼は
迷うことなく、マイクロ・スケール物理科学国家実験室量子物理
・量子情報研究科の修士課程に進み、潘建偉研究室で光子のもつ
れと量子コンピュータの研究に従事しています。
 2011年には、英国の奨学金を得て、ケンブリッジ大学のキ
ャンペンディッシュ研究所で博士学位を取得し、同時にケンブリ
ッジ大学チャーチル学院のフェローに選ばれています。その確率
は1%という難関を突破してのフェロー就任です。
 この陸朝陽氏を含む潘建偉チームは、この絶望的に困難な技術
の突破口を開くのです。これについて2018年7月3日の「人
民日報」は、次のように伝えています。
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 複数の粒子もつれの操作は、量子計算が超越できない技術的難
題として、世界の競争の中心になっている。播建偉のチームは、
2016年末に、10個の光子ビットと10個の超伝導量子ビッ
トのもつれを実現し、この2つの「世界記録」を更新し維持して
きた。長年にわたる模索と技術の難関突破により、研究チームは
18個の光量子ビットのもつれの実験と厳格な複数体もつれの検
証を実現し、すべての物理体系におけるもつれ数の世界記録を更
新した。同成果は大スケール・高効率量子情報技術に応用可能で
あり、同時に中国が世界の複数体もつれの研究をけん引し続けて
いることの証となっている。
          ──2018年7月3日付、「人民日報」
─────────────────────────────
 これによると、中国は既に18個の光量子ビットのもつれを作
り出すことに成功しているのです。それは、6つの光子の次の3
つの自由度を調節することで、世界ではじめて、18個の光量子
ビットのもつれの作り出しに成功し、すべての物理体系における
「もつれ数の世界記録」を達成しているのです。
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        1.         偏光
        2.ルート(光の進む経路)
        3.     軌道角運動量
                 ──遠藤誉著の前掲書より
─────────────────────────────
           ──[米中ロ覇権争いの行方/069]

≪画像および関連情報≫
 ●「量子のもつれ」が相対論を脅かす/「日経サイエンス」
  ───────────────────────────
   私たちが経験から知っているように,この宇宙で私たちが
  直接に影響を及ぼすことのできる物体は直接触れているもの
  だけだ。しかし量子力学によると、「量子もつれ」という性
  質がもたらす遠隔作用が存在し、2つの粒子が何の媒介もな
  しに同期して振る舞う。この非局所効果は単に直観に反して
  いるだけではない。アインシュタインの特殊相対性理論に深
  刻な問題を投げかけ,物理学の根底を揺るがす。
   量子もつれとなる特性はいろいろある。例えば,それぞれ
  の自転の向きがはっきり決まっていないにもかかわらず,反
  対向きに自転していることは確実な2個の粒子がありうる。
  量子もつれは,粒子がどこに存在するかによらず,粒子が何
  であるかによらず,互いにどんな力を及ぼし合っているかに
  よらずに,2つの粒子を関連づける。原理的には,銀河の両
  サイドに遠く離れた電子と中性子が量子もつれになっている
  例も考えられる。
   一方で、子もつれは「非局所性」という非常に気味悪く
  徹底的に直観に反する現象を引き起こす。対象に触れず、そ
  こまでつながったどんな実体の連鎖にも触れることなく、物
  理的影響が及ぶ可能性が生じるのだ。
   非局所性の最大の問題は,その圧倒的な奇妙さを別とする
  と、特殊相対性理論に重大な脅威をもたらすという点だ。こ
  こ数年で,この昔からの問題がついに物理学の真剣な議論の
  対象となった。議論の行方によって,物理学の基盤は最終的
  には崩れるか,歪められるか,再創造されるか,確固たるも
  のになるか,あるいは腐敗のタネがまかれることになるだろ
  う。              https://bit.ly/2KCPFKZ
  ───────────────────────────
 ●添付フィル解説 https://bit.ly/2v5srmd

箱の中の猫.jpg

 箱の中の猫 
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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