2019年04月12日

●「中国経済は量子研究に耐えうるか」(EJ第4987号)

 問題は、量子暗号通信の分野で、中国は本当に米国を追い越し
たのかどうかということです。遠藤誉氏は、2016年8月16
日付の「ウォールストリート・ジャーナル」の次の記事を取り上
げています。この記事のタイトルは、なかなか含蓄あるものだっ
たのです。
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China's Latest Leap Forward Isn't Just Great─It's Quantum
   「中国の最近の「大躍進」は、まさに偉大なんじゃないか
    ──それは量子だ」   https://on.wsj.com/2Ub64Wu
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
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 「Great Leap Forward」とは、1958年から1961年にか
けて毛沢東が展開した「大躍進政策」のことです。毛沢東が、党
内の右派との抗争に勝利し、党内の主導権を獲得した高揚感から
「核武装をはじめ、経済的にアメリカ合衆国やイギリスを15年
以内に追い越す」と宣言して実施した農業と工業の大増産政が大
躍進政策です。
 この大躍進政策は、現実を無視した滅茶苦茶な手法によって行
われ、多数の人民を処刑死・拷問死させるなど、権力闘争のため
に中国国内で大混乱が起き、3000万人の餓死者を生むという
悲惨な結果を招いたのです。つまり、「大躍進=大失敗」だった
のです。ウォールストリート・ジャーナルの記事は、この大躍進
政策の失敗を念頭に置き、「過去の大躍進は失敗だったが、最近
の『大躍進』は、まさに本物の『グレイト』じゃないか」と書い
ているのです。そして「それは『クォンタム(量子)だ」と締め
くくっています。
 遠藤氏は、このウォールストリート・ジャーナルの記事をまと
めていますが、そのなかから米国のサイバー・セキュリティ機関
「ニュー・アメリカ」のフェローの発言を引用します。
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 「この分野における中国の投資は、米国のサイバー能力の恐怖
によって一部動かされている」と、サイバーセキュリティに特化
した「ニュー・アメリカ」のフェロー、ジョン・コステロ氏は言
っている。彼は同時に「アメリカが中国のネットワークに深く入
り込んでいる」という2013年の暴露を指摘してもいる(著者
注:スノーデンのことを指しているのか?)。彼はまた、アメリ
カの研究機関が、現在セキュア通信用に世界中で使われているベ
ースの暗号化を打ち砕くことが理論的に可能な、強力な量子コン
ピュータの 構築方法を、中国が研究していると指摘した。「中
国が電子的スパイ活動が可能になるところまで成長していること
を危倶している」と、コステロ氏は述べている。
                 ──遠藤誉著の前掲書より
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 中国は、量子暗号の研究において、はるか先を走っている米国
になぜ追いつくことができたのでしょうか。
 それは「人材戦略」の成果であることは確かですが、それに伴
い、研究開発費も非常に伸びています。遠藤氏の本には、主要国
の研究開発費の推移と2024年までの予測値が出ているので、
それを添付ファイルにしてあります。
 中国が「千人計画」を始めたのは2008年のことですが、そ
の時点の中国の研究開発費は、日本とほぼ同じ規模であり、EU
28ヶ国や米国とは、大きく離されていたのです。しかし、そこ
から、中国の研究開発費は劇的に上昇し、2013年には、EU
28ヶ国と並び、2015年には、中国の研究開発費は米国に次
いで世界第2位になっている──このように国連のユネスコは述
べています。
 そして、2018年には中国は米国と並び、2019年には米
国を追い抜き、「中国製造2025」の到達年度である2025
年には中国の研究開発費は米国をはるかに上回る規模になると予
測しているのです。
 ただ、中国の経済が今後もそれに耐えられるかどうかについて
は疑問があります。米国は、中国の動きには気が付いていて、警
戒を深めており、経済がかぎを握ると考えています。そのため、
オバマ政権の後半からトランプ政権にかけて、中国との経済にお
ける対立を強めています。ボルトン大統領補佐官は、次のように
いっています。
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 中国とは、エンゲージメントを放棄せず、コンテインメントを
維持していく。          ──ボルトン大統領補佐官
─────────────────────────────
 「コンテインメント」とは何でしょうか。
 コンテインメントとは「封じ込める」という意味です。中国と
は、「エンゲージメントは放棄せず、コンテインメントを維持す
る」とは、交渉は粘り強く行うが、経済的に封じ込めるという高
等戦略を意味するのです。
 本来、コンテインメントは、第2次世界大戦後に米国が共産主
義の非共産主義諸国への浸透を防ぐためにアメリカ合衆国がとっ
た政策を意味しています。それをトランプ政権は、これまでのと
ころ、非常に巧妙にコンテインメントを行っているといえます。
 日本の航空自衛隊のF35Aが墜落しましたが、これは誠に深
刻な事態です。日本はF35(A、B、C)を大量導入して、日
本の空の守りを固めようとしています。しかし、中国の軍の関係
者はそれを嘲笑っているそうです。なぜなら、F35はステルス
性が最大の売りの一つですが、中国の量子研究が進み、「量子レ
ーダー」が開発されると、F35は裸にされてしまうからです。
F35のステルス性は、あくまで現在のレーダーを前提としてお
り、量子レーダーの下では、全く役に立たないからです。「量子
を制する者、世界を制す」は本当のことなのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/068]

≪画像および関連情報≫
 ●1年で集積度が驚異的に向上した量子コンピュータ
  ───────────────────────────
   「量子コンピュータ」とは、量子力学の原理を情報処理に
  積極的に利用したコンピュータである。従来のコンピュータ
  (以下「古典コンピュータ」と呼ぶ)における情報の最小単
  位は0と1、すなわち「ビット」である。一方、量子コンピ
  ュータでは、0と1、0と1の重ね合わせ状態である「量子
  ビット」が情報処理の基本単位だ。もし300量子ビットの
  量子コンピュータが存在すれば、2300(2の300乗)
  の重ね合わせが実現できる。この数字は、宇宙を構成する全
  原子数2261個よりも大きいという、天文学的に膨大な数
  である。量子コンピュータにおいては、この重ね合わせ状態
  に対して並列に情報処理を行う。その後、干渉効果を利用し
  て答えが得られる確率を巧みに増幅して、答えを読み出す。
   したがって、量子ビット数が1つ増えると並列度は2倍、
  量子ビットがn個増えると並列度は2n倍、というように、
  指数関数的に増大する。一方古典コンピュータは「32ビッ
  トから64ビット」のようにビット数が2倍になると表現で
  きる情報量が2倍になるだけで並列度は増大しない。このよ
  うにビット(量子ビット)数と性能の関係が、量子コンピュ
  ータと古典コンピュータでは大きく異なる点に注意してほし
  い。それでは、量子コンピュータは、古典コンピュータの性
  能を圧倒的に上回る「夢のコンピュータ」なのだろうか?
   実は、そう言い切ってしまうのはあまり正確ではない。古
  典コンピュータに対して量子コンピュータが指数関数的に高
  速になることが証明されている数学的問題はわずか60個程
  度である。           https://bit.ly/2v1d1iW
   ───────────────────────

研究開発費の推移(予測).jpg

研究開発費の推移(予測)
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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