2019年04月04日

●「量子もつれ現象を通信に活用する」(EJ第4981号)

 1952年生まれの、米アーカンソー出身のジョージ・ジョン
ソン氏という科学ライターがいます。『タイム』であるとか『ワ
イヤード』などに科学記事を執筆している人ですので、かなり名
のある科学ライターであると思います。
 技術の本というのは、著名な科学者自身の書いたものよりも、
ベテランの科学ライターが書いたものの方が分かりやすく、役に
立つことが多いですが、ジョージ・ジョンソン氏による量子コン
ピュータの解説は、まさにそれに該当します。
 私がいくつか購入した量子コンピュータの本のなかでダントツ
に役に立ったのは、ジョンソン氏の本です。それに、ミステリー
小説を多く出版する早川書房から出版されているのも興味深いで
す。ジョンソン氏の本をご紹介しておきます。
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            ジョージ・ジョンソン著/水谷淳訳
 『「数理を愉しむ」シリーズ/量子コンピュータとは何か』
                      /早川書房刊
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 原子レベルを超えて極少化されたチップによる「オン/オフ」
のスイッチには量子力学が姿を現しはじめます。ちょうどコマの
ように、回転軸を上に向けて反時計回りに自転する原子を「0」
と表現し、それをひっくり返し、回転軸が下を向いて時計回りに
自転するようにすれば、その原子は「1」という数字を表現する
ようになります。これはもちろん逆でも同じことです。
 しかし、原子が「0」か「1」のどちらか一つしか取れないと
きは、その原子は従来のチップと何も変わりはないのです。
 しかしさらにチップの極少化が進むと、チップは同時に「1」
と「0」の両方の状態を取ることができるのです。これが量子の
「重ね合わせ」の現象なのです。これについて、ジョージ・ジョ
ンソン氏は、次のように述べています。
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 コンピュータ技術者が、量子レベルにまで小型化を進めると、
チップの中の出来事は、もはや決定論的ではなくなる。1と0を
はっきり区別できなくなるのだ。そして1と0に加えて、Φとい
う状態も取りうるようになる。(ここではこの記号はギリシャ文
字の「ファイ」の意味ではなく、0と1が量子的に重ね合わされ
た状態を表す)。量子はこのようなあいまいさを持っているので
同じ原因が同じ結果を及ぼすとは限らない。不確かさが支配する
のだ。正しい用語ではこれを「量子的不確定性」と言う。
           ──ジョージ・ジョンソン著/水谷淳訳
          『量子コンピュータとは何か』/早川書房
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 はじめの頃、エンジニアたちは、この重ね合わせを「困った事
態」ととらえたのです。そこでエンジニアたちは、いかにしてこ
の量子効果を抑え込んで、「0」と「1」が混ざり合うのを防ぐ
かに知恵を絞ったのです。
 しかし、その間にもコンピュータの部品の極少化は進み、量子
効果の抑え込みが困難になった1980年代になって、米国の2
人の物理学者、リチャード・ファインマン氏とポール・ベニオフ
氏は、むしろ量子的不確定性を活用すれば、かつてない装置を作
れるのではないかと気が付いたのです。それが、人類が量子コン
ピュータへの道をめざすきっかけになったのです。
 この「量子的不確定性」のことを「量子もつれ」とか「量子の
絡み合い」というようになり、英語で次のように表現するように
なったのです。
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  quantum entanglement/カンタム・エンタングルメント
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 この「カンタム・エンタングルメント」について、遠藤誉氏が
とてもわかりやすく解説してくれています。
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 カンタム・エンタングルメントと表現することからも分かるよ
うに、量子あるいは光子は、互いにどんなに遠く離れていても、
間に如何なる媒体がなくても、互いに影響し合うことを指す。こ
れは、量子が「波と粒子の二面性」を持っていると同時に「1つ
なのに、同時に複数の場所に存在する」という「状況の共存性」
という、摩訶不思議な性格を持っているからである。(中略)
 つまり、どちらかの状況に変化が起きると、もう片方にもすぐ
さま同じ影響が及ぶ現象を一種の遠隔作用というが、通信を暗号
化し、盗聴を防ごうと思ったときに、2つの「もつれた量子」が
途中で誰かにハッキングされたりすると、2点間で影響していた
「もつれの法則」が壊れてしまい、遠隔作用が成立しなくなって
しまう。そのため、ハッキングされたことが分かるので、こっそ
りハッキングや盗聴ができなくなるという効果があるのである。
人類の誰もが、この夢のような量子通信ができるための量子通信
衛星の発射に成功したいと競争していたのに「こともあろうに」
というか、アメリカではなく、もちろん日本でもなく、こともあ
ろうに、あの中国が先に成功したのだ。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
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 つまり、エンタングルメントの関係にある2つの粒子は、どん
なに離れていても、その一方だけを観測すれば、もう一方の状況
は認識できるのです。これは、「量子テレポーション」ともいう
べき現象であり、量子通信の基礎になるものです。
 中国は、そのための衛星を2016年に打ち上げに成功し、既
に実験を重ねているのです。この「量子のもつれ」を利用すれば
凄いことができるのではないかということに米国は、1980年
に気が付いているのです。それがどうして、後発であるはずの中
国に先を越されることになったのでしょうか。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/062]

≪画像および関連情報≫
 ●シンガポールとイギリスが量子通信衛星の打ち上げを計画!
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   「量子鍵」配布による暗号化通信の実現のためには、衛星
  による量子通信技術の開発がカギとなる。量子暗号通信が実
  現すれば、理論上第三者による傍受が不可能となり、セキュ
  リティ強化の観点から国を挙げての取り組みが進められてい
  る。中国はすでに通信衛星からの量子もつれ配信を行う実験
  を成功させているほか、日本でも情報通信研究機構(NIC
  T)が、小型衛星を使っての量子通信の実験をおこなってい
  る。こうした世界情勢に後れをとるまいと、シンガポールと
  イギリスが手を組んだようだ。
   シンガポールとイギリスは、2021年までに小型量子通
  信衛星を打ち上げることを目指し、共同プロジェクトを開始
  した。両国の戦略は、量子通信の分野で先行する中国よりも
  はるかに小型で低コストな量子通信システムを開発し、広域
  をカバーする通信網を展開すること。
   中国の通信衛星の重量が600キログラム以上あるのに対
  して、シンガポールの開発する「キューブサット」は最終的
  に約12キグラムにまで軽量化する計画だ。ただ、通信衛星
  を小さくすればバックアップシステムなどを搭載する余裕が
  なくなり、冗長性を犠牲にせざるをえない。このため、シン
  ガポール国際大学の量子テクノロジーセンターが、発進の振
  動や宇宙での温度変化などを綿密にシミュレートし、そのう
  えで性能テストを実施。極力故障が起こらないシステムを設
  計しているようだ。       https://bit.ly/2OBDigo
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量子の重ね合わせ(量子もつれ).jpg
量子の重ね合わせ(量子もつれ)
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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