2019年04月02日

●「中国が量子通信衛星打ち上げ成功」(ÉJ第4979号)

 米国が中国に決定的に差をつけられているのは、「宇宙開発」
の分野ではないかと思います。宇宙開発といってもいろいろあり
ます。ロケットの打ち上げにはじまって、人工衛星、惑星探査、
有人宇宙飛行、そして宇宙ステーションなど、いろいろです。
 この分野では、既に述べているように、米国は社会主義国に遅
れをとる傾向が強いのです。かつてのアイゼンハワー大統領時代
のスプートニクショックがその好例です。社会主義国では、最高
指導者が決断すれば、開発に必要なヒト、モノ、カネはすぐ揃い
ますが、民主主義国では、予算ひとつとっても、さまざまな手続
や審議を行う必要があり、どうしても遅れてしまうのです。
 それでは、実際に宇宙技術のどの分野で中国が米国をリードし
ているのかについて考えていくことにします。
 2016年8月16日のことです。中国の国営通信社、新華社
は、次のニュースを大々的に報道したのです。サイエンス・ポー
タル・チャイナからニュースを引用します。
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 中国は16日午前1時40分、「長征2号丁」ロケットを使い
酒泉衛星発射センターから世界初の量子科学実験衛星(略称は、
「量子衛星」)「墨子号」を打ち上げた。新華社が伝えた。
 量子衛星は中国科学院宇宙科学先導特別プロジェクト第1陣の
科学実験衛星の一つで、その主な科学目標は、△衛星・地球間高
速量子暗号通信実験を行い、これを踏まえたうえで広域量子暗号
ネットワーク実験を行い、宇宙量子通信の実用化で重大な進展を
目指す。△宇宙スケールで量子もつれ通信・量子テレポーテーシ
ョン実験を行い、宇宙スケールの量子力学の整合性を確認する実
験・研究を行う。          https://bit.ly/2UoHVjg
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 われわれは、このような衛星打ち上げの報道に接しても、あま
り強い関心を示さなくなっています。もはや衛星打ち上げなどは
現在ではニュースにならないのです。しかし、この衛星の打ち上
げは、超大ニュースそのものなのです。なぜなら、世界初の「量
子通信衛星」の打ち上げだからです。このニュースで一番ショッ
クを受けたのは、米国のはずです。おそらくスプートニク・ショ
ック級の大ショックです。これは、米国の軍事的優位を根底から
揺るがす大問題であるといえます。
 遠藤誉氏によると、ロケットの名称「墨子号」にも深い意味が
あるといいます。墨子といえば、日本では中国の戦国時代の思想
家として知られていますが、中国では「中国最古の科学者」とし
て知られているというのです。
 墨子は、物理学のなかでも光学に関して関心が深く、光の直進
性や反射性など、光に関するさまざまな実験をやっていたそうで
す。そういう意味で、超先端科学を担うロケットの名称に墨子の
名前を使ったのです。
 ところで、墨子といえば、あの小泉純一郎首相は、イラクへの
自衛隊派遣に関する国会論争において、墨子の次の言葉を使って
自分の正当性を主張したものです。
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 義を為すは毀(そしり)を避け誉(ほまれ)に就くに非(あ
 ら)ず                    ──墨子
─────────────────────────────
 ところで、普通の通信衛星と量子通信衛星とは、どこが違うの
でしょうか。
 難しい言葉を一切使わないでいうと、「量子通信」とは、第三
者には絶対に解読されない通信のことです。遠藤誉氏の言葉を借
りると、量子通信衛星とは次のようなものです。
─────────────────────────────
 量子力学の原理を利用して、他者には解読不可能な暗号を用い
た通信システムを構築するための人工衛星である。
   ──遠藤誉著/PHP/『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
─────────────────────────────
 「他者には解読不可能な暗号を用いた通信システム」──その
ようなものが本当に存在するのでしょうか。
 よく「セキュアな通信」といいますが、それは「第三者に盗聴
されないよう対策を施してある通信」のことです。メールも電話
も一応「セキュアな通信」ですが、あらゆる手段を使って盗聴し
ようとすれば、それを防ぐことは困難になります。そういう意味
で「解けない暗号はない」のです。
 「RSA暗号」という有名な暗号があります。最初に「素数」
について知る必要があります。素数というのは、1とその数以外
に約数がない数のことです。たとえば、4は1とその数以外に2
で割れるので、素数ではありません。しかし、2と3と5は、1
とその数以外には割れる数がないので、すべて素数ということに
なります。
 ある数を素数の積に分解するのを因数分解といいます。たとえ
ば、「91」は何と何を掛けたものかと問われたら、すぐに答え
られますか。これを解くのが因数分解です。91は「7×13」
という素数の積に分解できます。ちなみに、7と13は素数とい
うことになります。
 しかし、因数分解は、桁が多くなると、計算に非常に時間がか
かるのです。たとえば、200桁の因数分解には、現代のスパコ
ンで約10年かかりますし、1万桁になると、スパコンでも10
00億年かかります。こうなると、物理的には計算はできるもの
の、実際上時間がかかるので不可能であるということで、暗号に
使われるのです。
 しかし、量子コンピュータが出現すると、200桁の因数分解
なら、数分、1万桁になっても、数時間から数日で説くことがで
きてしまいます。既に量子コンピュータが出現している以上、R
SA暗号は、暗号としては使えないことになります。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/060]

≪画像および関連情報≫
 ●この世の中の暗号がすべて無力になるかもしれない
  ───────────────────────────
   SSL/TLSの項でも触れられているが、秘密を守るた
  めの暗号技術の開発は何世紀にもわたって続いてきた。その
  おかげで、ネットで銀行振込や買い物を安心してできるわけ
  だけれど、世の中そんなに甘くなかった!というのが今回の
  話。どういうことかというと、「現在、多くの人が使ってい
  る暗号化技術が無力化する」可能性があるのだ。
   マジか!?と世界の研究者たちを震撼させたのは1994
  年に発表された"ショアのアルゴリズム"理論。発表した米ベ
  ル研究所の研究者ピーター・ショアさんいわく、「量子コン
  ピューターが実現すれば、現在の暗号は、すべて破れてしま
  う」。なるほどそういうことか。・・・で、量子コンピュー
  タて?
   量子コンピューターについてはこのICT用語事典でも取
  り上げているので、詳しくはそちらを読んでいただきたいが
  以下、簡単におさらいを。現在のコンピューターは、1ビッ
  トで0か1(有か無か)の1つの状態しか表すことができな
  い。量子力学の原理を利用した量子コンピューターでは、1
  量子ビットあたり2つの状態を表すことができる。たとえば
  「00000000」から「11111111」の組み合わせから特定の条件
  を選ぶ場合、今のコンピューターは律儀に総当たり計算をし
  て解を探すが、量子コンピューターでは大量の組み合わせを
  1回の計算で完了できるのだ。これはつまり、大量の計算を
  並列して一度に行うようなものだ。
                  https://bit.ly/2CFt6Pt
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「墨子号/打ち上げ成功」.jpg
「墨子号/打ち上げ成功」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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