2019年03月25日

●「人材を集めるにはその背景がある」(EJ第4973号)

 胡錦濤政権が2008年から実施している「千人計画」の募集
要領は次のようになっています。
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 ◎「千人計画」募集要領
  55歳以下で国籍を問わず、著名研究機関や大手企業で上
 級管理職を経験した人物、海外で博士学位を取得した人物、
 また、中国が求めるハイレベルイノベーション創造人材など
 を対象とする。
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 募集要領では、外国人を含め、幅広く人材を求めているようで
すが、当面中国籍で海外、とくに米国の大学や研究機関などで働
いている人物をピックアップし、説得して中国に帰国させようと
しているのです。そのさいの処遇に関しては次の通りです。
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 気になる処遇の方だが、まず着任時に100万元(執筆時のレ
ートで1645万円ほど)の一括補助金(所得税免除)が出て、
その後は、たとえば日本と比べるなら、ほぼ日本における給料の
2倍近い月収を出す。5年以内の中国国内における収入の内、住
宅手当、飲食手当、引越し代、票訪問にかかる経費、子女の教育
費などについて免税となる。毎招致人材の雇用機関が、招致人材
の帰国あるいは入国前の収入水準を参考に、本人と協議し、合理
的な賃金額を決めるとなってはいるが、中国人で「祖国愛が強い
人」は別だが、外国人は、表的には給料がよほど良くない限り動
かない。したがって、給料は「魅力的な程度に」いいと考えてい
いだろう。             ──遠藤誉著/PHP/
              『「中国製造2025」の衝撃/
            習近平はいま何を目論んでいるのか』
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 このような処遇もさることながら、研究者にとって関心がある
のは「研究費」です。これに関しては、高いレベルの人材を獲得
しようと、中国の各地方政府で競争になっています。これについ
て、遠藤誉氏は次のように書いています。
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 2017年3月24日付の「光明日報」(1949年6月に創
刊された中共中央宣伝部直轄の新聞)は、研究者に対する史上最
高の待遇として、「年収500万元(約8225万円)、科研費
3000万元(約5億円)」という金額が現れたと報じた。
 それも地方の大学で、たとえば華北水利水電大学、杭州電子科
技大学天津工業大学などで、天津は別だが、わりあい地方に分散
している。            ──遠藤誉著の前掲書より
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 この「千人計画」に基づいて集めた各領域におけるハイレベル
の人材は、2012年7月の時点で、千人の倍以上の2263名
に達しています。そこで2011年8月からは、「千人計画」の
なかで「外専千人計画」を加えて、外国国籍の専門家の招聘にも
力を入れています。既に2014年の時点で、242人の招聘に
成功しているといわれています。
 国籍については、米国が最も多く、シンガポール、英国、カナ
ダ、ドイツ、デンマーク、オーストラリア、そして日本と世界中
から招聘しているのです。さらに、2012年8月には「万人計
画」が発足しています。「万人計画」は、向こう10年間と期限
が切られているので、2022年までに達成を目指すことになり
ます。2012年から発足した習近平政権は、「万人計画」の達
成には、強い意欲を示しています。
 それは、2012年11月に総書記に就任したばかりの習近平
氏が、12月5日に、中国で研究に従事している外国人専門家を
招集して、北京で座談会を開いていることでも習政権がこれに力
を入れることは明らかであったのです。
 このように、中国では、今や国を上げて、ハイレベルの人材集
めに狂奔していますが、これには、米国に追い付き、追い越すと
いう目標達成のためだけではなく、その背景として、中国の強い
危機感があるのです。それは、「人材の持続性」を将来的に確保
するための人材戦略です。
 それは、中国の文化大革命の結果生じたもので、遠藤誉氏はこ
れについて、次のように述べています。
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 なぜなら中国には、1966年から76年にかけて、教育機関
が閉鎖されていたという、人材育成に関する「空白の10年間」
がある。したがって政界だろうと経済界だろうと、年齢的にその
時期にさしかかった若者たちは教育を受けていなくて、「人材の
空白」があるのだ。1978年12月に改革開放が宣言され、中
国国内の大学も77年から再開されたものの、知的欲求に餓えて
10年間も肉体労働に従事させられていた頭脳たちは、まるで堰
を切ったように一斉に海外に出てしまった。国費留学生の出国が
認められたのは1981年で、私費留学生は83年からである。
 だから1996年の第9次5ヵ年計画から、海外に散らばった
頭脳たちを呼び戻す「中国全球人材信息網」というネットワーク
を形成して、留学人員創業パークに招き入れたのだが、これにも
やがては限界が来る。       ──遠藤誉著の前掲書より
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 毛沢東の愚かな10年におよぶ文化大革命によって教育を奪わ
れた世代は、物凄い知的欲求に衝かれて海外に飛び出していった
人たちであり、根性があり、それぞれ優秀な人材に育った人が多
いのです。だからこそ、中国政府は、それらの人材を中国に帰国
させようとしてやっきとなっているのです。これが「千人計画」
「万人計画」の背景にあるのです。
 企業の人材の採用でもそうですが、景気が悪いからといって、
採用しなかったり、採用を大幅に絞ると、人材の持続性が切れ、
企業の成長力に支障をもたらすことになるのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/054]

≪画像および関連情報≫
 ●国内ハイレベル人材育成「万人計画」名簿第一弾発表
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   中国中央人材工作協調グループ弁公室はこのほど、国家ハ
  イレベル人材特別支援計画(通称「万人計画」)の対象者名
  簿第一弾を正式に発表したことを明らかにした。人民日報が
  報じた。
   「万人計画」は、「千人計画(海外ハイレベル人材招致計
  画)」と並行して進められている、国家級重大人材誘致プロ
  ジェクトで、対象者第一弾に選ばれたのは、合計277人。
  277人の内訳は「傑出した人材」6人、「科学技術イノベ
  ーションのリーダー型人材」72人、「傑出した青年人材」
  199人。このほか「科学技術起業分野のリーダー型人材」
  「哲学・社会科学分野のリーダー型人材」「大学教学分野の
  優秀教員」「百千万プロジェクトのリーダー型人材」の4タ
  イプの人材についても、すでに第一回評定・選抜が終了して
  おり、最終評定・選抜や公示などの手順を経て近く公表され
  る。「万人計画」の対象者選抜は、国内外での実績を十分に
  考慮し、「成功の経験を参考とし、『ベスト・オブ・ザ・ベ
  スト』を選抜する」という原則にのっとり、度重なる推薦を
  通じ、厳しい篩分けによって進められた。今回選ばれた「傑
  出した人材」と、「科学技術イノベーションのリーダー型人
  材」は全員、「863計画」や「973計画」など国家重大
  科学研究計画のチームリーダーや、ハイレベル革新チームの
  リーダーを担当している。    https://bit.ly/2TwKzPO
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中国文化大革命.jpg
中国文化大革命
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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