2019年02月12日

●「なぜ中国はガチンコ勝負に出たか」(EJ第4945号)

 習近平主席に墨汁をかけた女性(菫瑶けい氏)は、故郷の湖南
省の精神科病院に強制的に入院させられたといわれています。上
海市内で働く女性の弟に警察から連絡が入り、上海市政府当局者
から「お姉さんを精神鑑定にしたが、精神を病んでいるとの診断
結果が出た」と告げられたそうです。
 弟は警官らの求めに応じ、手続きのため、入院先の精神科病院
に行き、姉の入院に立ち会っています。この病院での精神鑑定で
も姉は精神を病んでいるとの診断結果が下されたといいます。
 米政府系報道機関「ボイス・オブ・アメリカ/VOA」は、犯
人の女性の精神病院入りについて次のように報道しています。
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 本当の精神病患者は入院させずにほったらかしだが、当局に都
合がいい健常者は、逆に精神科病院に強制入院というのが、中国
の実態である。    ──―ボイス・オブ・アメリカ/VOA
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 一応民主的な手続きがとられているようにみえますが、中国で
は、犯罪を犯し刑務所に入れられるよりも、精神病院に入れられ
る方がずっと恐ろしいのです。薬物などで本当の精神病にされる
可能性もありますし、入院後何をされるかわからないからです。
VOAの記者は、湖南省の董さんの実家を訪ね、董さんの母親に
取材したところ、「娘が精神を病んでいるはずがない」などと頑
強に否定したといいます。なお、7月13日には菫瑶けい氏の父
親も拘束されています。
 問題は、この墨汁事件の背景です。果して単独犯なのか、それ
ともバックがあるのかです。事件の起きた場所が江沢民元主席の
地元である上海であるので、いろいろな憶測を呼んでいます。そ
れに彼女が中国のSNSではなく、あえてツイッターを使ってい
るので、海外組織に助けを求めているように見えます。
 中国では、ツイッターの使用が制限されていますが、VPNな
どを通せば使えるのです。習近平のポスターに墨汁をかけた後、
菫瑶けい氏にアドバイスを与えていた民主活動家の華桶という男
性がいるのですが、この男性も当局に拘束されています。しかし
この事件はニュースとして世界中に拡散され、海外に知られてし
まったことは確かです。
 さて、トランプ米政権によって仕掛けられた貿易戦争に対して
中国の習近平政権は「ガチンコ勝負」に出たのです。この対応に
ついて中国国内では多くの反対意見があるのです。習政権が米国
に対して強気に出た理由について、近藤大介氏は次のように説明
しています。
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 中国が、トランプに対して強気に出た背景には、2つのことが
あった。1つは、昨年11月にトランプが訪中した時の印象がと
てもよかったため、トランプが本気で、中国に牙を剥いてくると
は想定していなかった。あの時、2535億ドルものプレゼント
(中国からアメリカへの投資や購買)を与えて、それでもう貿易
摩擦問題は解決したと思っていたのだ。
 ところがトランプは、北京から戻るや態度を一変させた。中国
からすれば、「あの時の2535億ドルは一体何だったのだ?}
という怒りがあった。
 もう一つの背景は、習近平政権の第1期5年が、何もかもうま
く行き過ぎたことだ。政治的には習主席の一強体制が確立し、経
済的にはアメリカの3分の2の規模までGDPが拡大した。外交
的には「一帯一路」に多くの国が賛同し、軍事面でも科学技術面
でも世界ナンバー2の地位を確立した。
 そんな中、今年3月20日に全国人民代表大会が閉幕した。習
主席は憲法改正で自らの任期を取っ払い、省庁を改編し、ほしい
がままの幹部人事を断行した。つまり2期日の習近平政権が始動
した時点で、死角はゼロだったのだ。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
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 中国に「樹大招風/シュータージャオフン」という言葉があり
ます。読んで字のごとく、「樹が大きくなれば風を招く」という
意味になります。これは、日本の諺「出る杭は打たれる」と同じ
意味です。つまり、習政権は、早く前に出過ぎたのではないかと
いう声が中国国内に少なからずあるということです。もう少し辛
抱して、ケ小平の遺訓である「韜光養晦」を守るべきだったので
はないかという意見です。
 一方、トランプ米政権は中国に対して、一向に手を緩めなかっ
たのです。9月25日、トランプ大統領は、国連総会でスピーチ
していますが、その席で中国を次のように攻撃しています。20
17年のデビュー時の演説の敵役は「北朝鮮」でしたが、201
8年は、中国を敵役に替えてとして批判しています。
─────────────────────────────
 アメリカは、中国がWTOに加盟してから、300万人の工場
労働者を失った。そのうちほぼ4分の1は鉄鋼関連だ。そして6
万の工場もだ。その結果、過去20年で、13兆ドルもの貿易赤
字を抱え込んでしまったのだ。
 だが、もうそんな日々とはオサラバだ。これ以上、そのような
乱用は容赦しない。われわれの労働者が、犠牲になるのを許さな
い。アメリカ企業は騙され、アメリカの富は略奪され、移管され
たのだ。アメリカは自国民を守るため、決して躊躇しない。
 アメリカはさらなる2000億ドルの中国製品に対する追加関
税を宣言した。トータルで2500億ドルになる。私は習主席に
対して、大いなる敬意と愛情を抱いている。だが、貿易不均衡は
看過できないことを明らかにしておきたい。中国市場の歪みと彼
らの商習慣は、許されるものではない。
                ──近藤大介著の前掲書より
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           ──[米中ロ覇権争いの行方/026]

≪画像および関連情報≫
 ●ケ小平が主導した外交の特徴
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   本日は中国の外交方針の変遷について語ることになってい
  るが、焦点はここ数年の方針転換であり、毛沢東時代まで振
  り返る余裕はない。しかし、ケ小平が主導した中国外交の特
  徴をおさらいすることでポイントを把握することは出来る。
   ケ小平外交の第一の特徴は、現実的な国際情勢判断に基づ
  いていたことにある。ケ小平は、世界では平和と発展が主な
  潮流となっており、世界大戦は回避可能だと考えた(毛沢東
  はそう考えていなかった)。そこで、目下の第一の任務は発
  展であり、資本主義国との間でも経済的な相互依存関係を築
  いていった。
   第二の特徴は客観的な自己認識を有していたことである。
  ケ小平においても大国意識は強かったが、それと同時に、中
  国は小国でもあると認識していた。後に「社会主義の初級段
  階」にあるとも言われたが、要するに科学技術や工業化が遅
  れた発展途上国だという自覚が強かった。
   第三には、イデオロギーより国家利益を重視したことが挙
  げられる。国際共産主義運動から次第に足を洗い、平和な国
  際環境を実現して四つの近代化を追求することを外交の目標
  に据えた。
   そして第四に、「韜光養晦」の外交方針の採用が挙げられ
  る。表現は時代によって異なり、80年代の方針は「同盟せ
  ず、覇を称えず、突出せず」というものであった。
                  https://bit.ly/2tdPxWP
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トランプ大統領国連演説/2018.jpg
トランプ大統領国連演説/2018
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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