2019年02月04日

●「中国内で習近平批判が巻き起こる」(EJ第4940号)


 当初くみしやすいと考えていたトランプ米大統領からの貿易戦
争ですが、それによって中国国内では、大きな地殻変動が起きる
ことになったのです。それは、次の3方面から巻き起こった「習
近平批判」です。その3つの方面を再現します。
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   1.国内の経済や金融の専門家からの習近平批判
   2.北載河会議での長老たちからの政権失政批判
   3.「墨汁事件」に代表される市民の習政権批判
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 「1」の習近平批判について考えます。
 近藤大介氏によると、中国の学者には、次の3つのタイプがあ
るといいます。
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 1.中国共産党や時の政権に媚びて、政権の目指す方向の正
  当性を主張し、立身出世を目指す御用学者
 2.中国共産党や時の政権から助成金などの支援は受け入れ
  るが、表面的、国際的なことを論ずる学者
 3.中国共産党や時の政権から距離を置き、中国にとって悪
  いものは悪いと一刀両断するタイプの学者
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 習近平政権が、当初トランプ政権からの貿易戦争をくみしやす
しととらえたのは、上記1のタイプの御用学者たちから、中国経
済はやがて米国を抜いて世界一になるとか、米国の方こそ中国を
恐れているなどの政権幹部にとって耳ざわりのよい提言を多少な
りとも信じていたからであるといえます。
 しかし、米中の貿易戦争が過熱化すると、中国国務院傘下のシ
ンクタンクから、一編の経済論文が提出されたのです。このシン
クタンクは、2015年6月に設立された研究員約120名を擁
する国家金融・発展実験室のことであり、金融政策を政府に提言
するのが仕事です。ここに属する学者は上記2のタイプの研究者
たちであるといえます。その論文の要旨は次の通りです。
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 中国では今年に入って、債券の不履行、ボラティリティ(流動
性)の緊張、為替の下降や株価の下落などが相次いで起こり、し
かもそれらはますます勢いを増している。通貨総量の増大は縮小
し、企業への融資環境はあまりに先細りしている。
 それらに加えて、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げと
中米貿易摩擦の長期化に伴って、不確実性が高まっている。そう
した中、いまや中国に金融恐慌が起こる確率は極めて高い。
 中国発の金融恐慌への対応は、大規模で、かつ明確に世間に宣
布しなければならない。主要な措置は、第一に、直ちに国務院金
融安定発展委員会の内部に応急処置を取る機構を立ち上げる。第
二に、対策を制定し、適宜果断に、違約や破産事件を処理してい
く。第三に、いち早くわが国の通貨供給制度を、米ドル、為替、
外貨準備と切り離し、不可避になってくる外部との衝突を防ぐた
めの準備を、周到に取り行うことだ。
           ──近藤大介著/NHK出版新書568
    「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
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 この論文は、シンクタンクを率いる李揚理事長と部下の3名の
研究者の連名になっています。李揚理事長は、中国社会学院で、
金融研究所長、副院長などを歴任し、中国人民銀行(中央銀行)
で通貨政策を決める通貨政策委員も務めた経済学者であり、習政
権の金融ブレーンの一人です。しかし、仕事であるとはいえ、論
文の内容は、結果として習政権の貿易戦争への対応の甘さを指摘
しており、学者生命を賭けて警鐘を鳴らしたのです。習政権下で
政策を批判するのは、大変なことなのです。その結果、実態に基
づかない政権におもねる情報を吹き込んだ御用学者たちが非難の
対象となったのです。
 「2」の習近平批判について考えます。
 中国では、8月上旬に「北載河会議」というものが開かれるこ
とになっています。北載河というのは、渤海湾に面した中国河北
省の保養地です。この北戴河において、毎年7月下旬から8月上
旬ごろにかけて、共産党の指導部や引退した長老らが避暑を兼ね
て集まり、人事などの重要事項を非公式に話し合うことが毛沢東
時代から行われているのです。重要なことは、この会議では長老
たちに強い発言権があることです。したがって、現政権が北載河
会議で批判されると、他の長老たちの担ぐ一派との間で毎年のよ
うに権力闘争が起きるのです。
 7月6日に米国との貿易戦争がはじまった直後の北載河会議で
す。まして、「下手をすると中国発の金融恐慌が起きる」と指摘
された状態で北載河会議に臨むと、習近平主席は長老たちから批
判のマトにされることは火を見るよりも明らかです。そこで、習
近平政権は、党中央宣伝部に命じて、国内の全メディアに対して
「官製報道」以外の米中貿易戦争関連の情報を一切禁止したので
す。禁止されたのは、次の7つの報道です。
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       1.       中米貿易戦争
       2.     中国経済の不景気
       3.        消費の低迷
       4.        家賃の高騰
       5.特定の国家元首に対する批判
       6.       離職率の増加
       7.      政府の税制批判
                ──近藤大介著の前掲書より
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 しかし、いかに官製報道を行っても、年初3307ポイントを
つけていた上海総合指数は6月末には2847ポイントと14%
も下落してしまったのです。この数値は隠しようがないのです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/021]

≪画像および関連情報≫
 ●金融ブレーンが告発!「中国発の金融恐慌は必ず起こる」
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   いよいよ世界中が注視する運命の7月6日がやって来る。
  サッカー・ワールドカップの話ではない。世界の2大経済大
  国であるアメリカと中国が、共に相手国に対して340億ド
  ル規模もの経済制裁を課す米中貿易戦争の火ぶたが切って落
  とされるのだ。「米中冷戦時代」の始まりと言い換えてもよ
  い。これによって米中両国はむろん、世界中が大なり小なり
  巻き込まれていくことになる。あのリーマン・ショックから
  丸10年を経て、またもや人類は懲りずに人為的な巨大リス
  クを背負い込んでしまうのだ。
   中国中央テレビ(CCTV)はこのところ、2018年上
  半期に、中国経済がどれほど好調で、どれほど各種のデータ
  が伸びているかを連日これでもかというほど報道している。
  これまでは、7月中旬に上半期の速報データが発表された際
  に、この種の報道は行われてきた。それが1ヵ月前倒しで報
  道されるということは、本当は中国経済が悪化しているから
  それを覆い隠すために、いわゆる「豊作報道」を連発してい
  るのではないかと勘ぐりたくなってくる。そもそも、毎年6
  月下半期は、中国経済のアキレス腱となる時節だ。なぜなら
  銀行など金融機関が、上半期のデータを遜色なくするため、
  一斉に貸し渋りに走るからだ。2015年6月下半期の株式
  暴落も、そのような中で起こった。おそらく、そのような周
  期を見越した上で、米トランプ政権は6月15日に、対中経
  済制裁の7月6日からの発動を宣言したのではないか。
                  https://bit.ly/2MPNsJO
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北載河会議.jpg
北載河会議
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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