れたとき、中国は妙な高揚感を持っていたといいます。そのため
中国としては、次の3原則でこれに臨むと宣言しています。
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1.たとえ相手がアメリカであっても何も恐れない
2.米国のWTO違反に対する正義の防衛戦である
3.全面戦争ではなく、貿易に限った局地戦である
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この強気の対応のウラには、中国はトランプ大統領を一段低く
見下していたフシがあります。『習近平と米中衝突』の著者であ
る近藤大介氏は、米国を担当する中国の外交関係者の言葉として
中国の本音を次のように紹介しています。
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われわれが得ている情報によれば、トランプ大統領は、物事を
一人で決める傾向がある。トランプには団体という概念がない。
優秀なシンクタンクも活用しなければ周囲に専門家も置かない。
商人の手法そのもので、まず相手に大きく吹っかけてから、徐々
に値切っていくだけだ。
トランプ政権はまた中国を深く研究しているように思えない。
それに対し、中国はアメリカを長期にわたって十分研究している
から、半分の力でアメリカに勝てるだろう。(中略)
これが、ヒラリー・クリントン大統領だったら、大変なことに
なっていただろう。トランプは単純な商人だから、「商談」にな
る。最後はトランプが、前線に立つライトハイザーUSTR(米
通商代表部)代表をクビにして、幕引きを図るのではないか。
近藤大介著/NHK出版新書568
「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
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中国としては、米国に対して「2つのことを聞いてやったでは
ないか」という思いがあります。2つのことの1つは、「北朝鮮
を何とかしてくれ」といってきたことです。これに対し中国は、
国連制裁を守るだけでなく、厳しい独自制裁を北朝鮮に課して、
中国としては米国の要請に応えたつもりなのです。
2つは、「貿易不均衡を何とかしてくれ」と要求してきたこと
です。これに対しては、2017年11月のトランプ大統領の訪
中のさい、十二分におもてなしをしたうえで、2535億ドル分
米製品を購入して応えている。習近平主席としては、米国の要求
は、これで終わりと考えていたのです。
実際に、この米中貿易問題の担当者である劉鶴副首相は、その
とき、次のように主張しています。
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昨年(2017年)11月にわれわれはアメリカから2535
億ドル分も購入した。あと何を買って欲しいというのか。両国の
貿易格差が縮まらないのは、中国がアメリカの先端技術を高く買
うと言っているのに、アメリカが許可しないからではないか。
──劉鶴副首相
近藤大介著の前掲書より
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これはかなり思い上がった考え方です。それは、中国政府がト
ランプ大統領を「商人」と見下し、甘く見ていた結果であるとい
えます。習近平主席は、中国をロシアが「プーチンのロシア」と
いわれているように「習近平の中国」と呼ばれるようにしたいと
考えているのです。そのため、国家主席の任期10年の規定を廃
止し、生きている限り国家主席を続けられる「永代資格」が必要
であると考えたのです。そんなとき、米国から貿易戦争を仕掛け
られたので、中国全体に妙な高揚感、「米国なにするものぞ」と
いう思いが高まっていたのです。
しかし、人民解放軍は、米国の出方に不気味さを感じ取ってい
ました。2018年3月23日、トランプ大統領がホワイトハウ
スで対中貿易戦争の宣戦布告をしたほぼ同時刻に、米軍は「航行
の自由作戦」を敢行し、南シナ海南沙諸島の美済島の12海里内
にミサイル駆逐艦「マスティン」を進入させてきたからです。
ある重大な発表をしたりするさいに、それに関連する重大な行
動を同時並行に起こさせるのは、トランプ大統領の常套手段であ
るといえます。2018年にアルゼンチンのブエノスアイレスで
の米中首脳会談の開催とほぼ同時刻に、カナダでファーウェイの
副会長を逮捕していたこともトランプ流です。
同じことが昨日30日にも起きています。この日、ワシントン
で米中貿易戦争の閣僚級協議が開始されたのですが、その1日前
に、ファーウェイ孟副会長を起訴し、同副会長を逮捕しているカ
ナダ当局に対し、その身柄の引き渡しを求めたのです。米国は、
閣僚級協議とは一切関係ないといっていますが、協議の内容は知
的所有権に関するものであり、関係は大ありです。これがまさに
トランプ流といってよいと思います。
「マスティン」の南シナ海南沙諸島進入に関して中国国防部は
任国強報道官によるメッセージを発表して、米国を非難していま
す。その要旨は次の通りです。
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中国海軍は、570艦艇と514艦艇(共にミサイル・フリゲ
ート艦)を即刻、出動させ、「マスティン」に警告を発した。中
国は、南シナ海において、争いようのない主権を有していて、ア
メリカの行為は中国の主権と安全を厳重に損なうものだ。かつ海
空で思いがけない事件を引き起こすことになる。アメリカ軍の挑
発行為は、中国軍の国防建設をさらに強化するものにしかならな
い。 ──近藤大介著の前掲書より
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このようなことから、中国の人民解放軍は、これら一連のトラ
ンプ政権の中国への圧力は、周到に計画されたものではないかと
考えはじめたのです。しかし、中国上層部の高揚感は続いていた
のです。 ──[米中ロ覇権争いの行方/019]
≪画像および関連情報≫
●中国が南シナ海で「戦争のリハーサル」
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中国空軍は2018年3月25日、SNSアカウントでの
報道官声明を通じ、南シナ海で実戦訓練を行うと同時に、台
湾北部の宮古海峡で偵察行動訓練を行ったと発表した。中国
空軍の申進科報道官は、一連の訓練を「戦争準備のための演
習」だと語っている。行われた時期は明らかにされていない
が、23日の米海軍の「航行の自由作戦」など、西側諸国の
軍事行動を意識しているのは明らかだ。中国側が「戦争」と
いう言葉を明言したこともあり、主要海外メディアは一連の
訓練や南シナ海情勢に警戒感を強めている。
申報道官の声明によれば、南シナ海での“威力偵察作戦”
には、最新鋭のH−6K戦略爆撃機、Su−35戦闘機も参
加。中国のH−6K爆撃機は、アメリカ、ロシア以外の国で
唯一長距離空対地ミサイル発射能力を持つ。APは、南シナ
海からであれば「遠くオーストラリアまで射程に収める」と
H−6Kが実戦訓練に参加したことの危険性を指摘する。
沖縄本島と宮古島の間にある宮古海峡でもH−6KとSu
30戦闘機による戦闘訓練が行われた模様だ。日本の防衛省
は、23日に中国の爆撃機・戦闘機8機が宮古海峡を通過し
たことを確認。航空自衛隊の戦闘機がスクランブル発進して
いる。宮古海峡は日本にとって戦略的に重要であるばかりで
はなく、台湾有事の際にも地政学的な鍵となるエリアだ。
https://bit.ly/2DHrLIJ
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米ミサイル駆逐艦「マスティン」


