2019年01月30日

●「『奉陪到底』を貫く中国の対抗策」(EJ第4937号)

 米中貿易戦争が本格的に始まったのは、2018年7月からで
すが、その前哨戦は3月から始まっています。3月22日、午後
12時45分から13分間にわたって行われたトランプ大統領の
演説では、600億ドル(約6兆3000億円)もの中国製品に
高関税をかける制裁措置を行うというものだったのです。
 これを中国はどのように受け止めたのでしょうか。ここからは
中国サイドの視点に立って、トランプ政権のアクションをみてい
くことにします。著名な中国ウオッチャーの1人である近藤大介
氏の次の新刊書をベースにご紹介します。近藤大介氏は2009
年から2012年まで、講談社北京副社長を務めています。
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                      近藤大介著
  「習近平と米中衝突/『中華帝国』2021年の野望」
                 NHK出版新書568
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 この時点では、中国は余裕綽々であったのです。このトランプ
演説について、精華大学中米関係研究センターの周世検研究員は
次のように批判しています。
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 まずトランプのネーミングが正しくない。何が「中国による経
済的侵略」だ。貿易というのは、損するけれどもやるなどという
商人はいない。年間5200億ドルの商品が中国からアメリカへ
流れているのは、中国が強制的にアメリカに押しつけているもの
ではなく、アメリカの商人がわざわざ中国までやって来て買って
いくのだ。かつ、貿易の3分の2は日用品であり、アメリカ人の
生活に足りないものを中国が補っているにすぎない。それを「経
済的侵略」などと言うのは、「胡説人道」(デタラメ)だ。
 トランプが見ているのは、中国との貿易ではなく、11月の中
間選挙だ。「オレはアメリカ人の利益を守るためなら、何でもや
る」とアピールしたいのだ。トランプは中間選挙で負けたらレイ
ムダックになり、2年後の再選は難しくなる。それでアメリカの
ためではなく、ただ私利私欲のために今回の暴挙を犯したのだ。
                ──近藤大介著の前掲書より
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 この時点でのこの主張は比較的真っ当なもので、日本のメディ
アでも同じような論調だったのです。このとき世界は、まだトラ
ンプ大統領を色眼鏡で見ており、特別関税なんか暴挙であって、
このまま貿易戦争が続けば、米国が敗者になるという見方が支配
的であったのです。
 ちょうどこのとき、ノーベル経済学賞受賞の経済学者、スティ
グリッツ教授が北京に滞在中であり、記者にコメントを求められ
次のように答えています。この映像が中国では、繰り返し、テレ
ビで流されたのです。
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 わが国が起こした不安と混乱について、世界に対してお詫び
 する。        ──ジョセフ・スティグリッツ教授
               ──近藤大介著の前掲書より
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 さらに、トランプ大統領の演説に対し、中国の崔天凱駐米大使
は、次の緊急声明を出しています。駐米大使がこういう声明を出
すのは、異例なことです。
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 われわれは、アメリカとの貿易戦争は戦いたくない。だが、貿
易戦争を恐れるものでもない。もしわが国に何者かが貿易戦争を
仕掛けてきたなら、必ずや戦う。「奉陪到底、看誰真正堅持到最
後」                  ──崔天凱駐米大使
                ──近藤大介著の前掲書より
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 声明の最後の「奉陪到底、看誰真正堅持到最後」とはどういう
意味でしょうか。
 これは「最後まで付き合ってやる。どちらが本当に最後まで持
ちこたえられるか見てみようではないか」という意味です。実は
1996年5月、米国が中国に報復関税をかけるといったときに
当時外交部報道官だった崔天凱氏は「平等協商解決」としかいえ
なかったのです。これは「平等に協議して解決しよう」という意
味になります。つまり、20年経って、米中の実力が大きく変化
したことのあらわれといえます。
 しかし、ここで注意すべきことがあります。それは米国が「不
正な経済行為」といっていることです。中国ウォッチャーの本か
らは、当然ではありますが、そういう言葉は一切出てこないので
す。ですから、一見中国のいっていることが正しく聞こえてしま
うところもあります。
 習近平主席の考えている経済政策というのは、国の支配下にあ
る国営企業を使って、政府の資金で安い製品を作り、輸出競争力
をつけ、世界中にばらまくというものです。これは、社会主義国
や全体主義国だからできることであって、トランプ大統領は「こ
れではフェアではない」といっているのです。
 つまり、トランプ大統領は、国際社会において大国として振る
舞うのであれば、中国の今の政治体制を改革すべきであると暗に
求めているのです。少なくともそのことに中国の首脳たちは気が
付いていないと思います。この時点で中国は、貿易戦争はトラン
プ大統領が中間選挙目当てのパフォーマンスと捉えていたフシが
ありますが、それは大きな間違いであることがやがてわかること
になります。
 中国も米国と本気でやり合うのは本意ではなかったのです。し
かし、3月16日に米国が「台湾旅行法」に署名したことによっ
て、「奉陪到底」を決めたのです。台湾問題は中国最大の核心的
利益であり、米台間の高位級の交流を促すこの法案は、中国とし
ては絶対に受け入れられないものだからです。
           ──[米中ロ覇権争いの行方/018]

≪画像および関連情報≫
 ●中国の済学者「勝ち目なく壊滅的」
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   米中両国の事務レベル貿易協議が22日から米国で開かれ
  る予定だが、双方の主張は依然として隔たりが大きく、摩擦
  解消につながるかは不透明だ。今春に始まった米中貿易戦争
  は、すでに中国経済にダメージを与え始めた。「中国に勝ち
  目はなく、はやく失敗を認めて、事態を収束すべきだ」との
  厳しい見方も中国国内でくすぶっている。
   2期目の習近平政権が発足した直後の3月23日、中国商
  務省は米国による鉄鋼・アルミ製品への追加関税措置への報
  復として、128品目の米国製品に対し追加関税を課すと発
  表。問題がエスカレートした。
   中国の官製メディアは「われわれはいかなる戦争も恐れて
  いない」と強気な姿勢を崩していない。ただ、対米輸出に依
  存している中国経済が米国と全面対決することは「無謀な戦
  い」とみる投資家も少なくなく、中国の金融マーケットは敏
  感に反応した。
   株式市場では3300ポイント前後だった上海総合指数が
  3月末から下落し、8月中旬には2600ポイントと約20
  %も下げた。人民元の為替相場も対ドルで10%近く急落し
  た。中国は近年、経済成長率が前年比6〜7%で推移してい
  る。為替相場が下落すれば、輸入コストが大幅アップするな
  ど、成長率を押し下げる要因になる。「中華民族の偉大なる
  復興」とのスローガンを掲げ、経済規模で米国を追い越すこ
  とを夢みる習政権にとって、打撃は大きい。
                  https://bit.ly/2HxfaM9
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スティグリッツ教授.jpg
スティグリッツ教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 米中ロ覇権争いの行方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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