ボーイング社の修理ミスに基づく「後部圧力隔壁破損」であると
主張し、1987年6月19日提出の最終報告書でも、それを結
論としています。その後、多くの新事実が出て、再調査を求める
要望が数多く出ましたが、国土交通省の運輸安全委員会はそれに
応じないまま、33年の年月が経過しているのです。
この墜落事故によって、JAL123便の乗客乗員520人も
の人が非業な最期を遂げているのです。しかし、この事故の関係
者である日本航空、運輸省(日本政府)、そしてボーイング社は
この事故によって、どのような責めを負ったのでしょうか。これ
について、角田四郎氏は、次のように述べています。
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この報告書によって、ボーイング社は修理ミスという汚点を背
負った。日航にはその修理の監督責任と以降の点検不充分という
責任があり、そして運輸省にも修理時のチェックと点検時のチェ
ックに怠慢があったとされたが、いずれもその発見(亀裂等)に
は困難な面も多かったという論調が支配的だった。その結果、日
航および運輸省の責任は問われないこととなり、ボーイング社の
責任だけが残った。
しかし、現実にはボーイング社は修理のミスは認めているもの
の、この事故が修理ミスから発したとするのは推論で証拠はない
と主張した。仮に推論通りであったとしても7年も前のミスであ
り、キズの生長を点検で発見できなかった日本側の管理責任だと
して、ミス修理を行なった技術者とその作業責任者の名前の公表
(警視庁および群馬県警に対し)を拒んだ。このことでボーイン
グ社を悪党か卑怯者呼ばわりする人もいたが、それはマトはずれ
の感もある。ボーイング社の言い分はしごく正当であり、法的に
も成立するものである。(中略)
この説であれば、自社製ジャンボ・ジェット機全ての修理や就
航ストップという最悪のシナリオから逃げられる。修理ミスとい
うという汚名を自らかぶっても、JA8119号が持っていた固
有の古キズが原因となれば世界中の航空会社からの苦情もない。
こうした経済的損益と汚名をはかりにかけ、汚名が選ばれたので
あろうか・・。──角田四郎著『疑惑/JAL123便墜落事故
/このままでは520柱は瞑れない』/早稲田出版
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疑惑は何ひとつ明らかになっていないのに、この事故の関係者
は、誰ひとり罪に問われることなく、事件の幕引きが行われてい
ます。結局、JAL123便墜落事故は、不可抗力の墜落という
単なる航空機事故として片づけられているのです。こんなことで
は、亡くなった520人の無念は拭えないでしょう。
とくに責任があるのは事故調査委員会です。事故調は、当時の
運輸大臣直轄の政府機関です。その事故調は、事故4日後から最
終報告書にいたるまで、事故原因を説得力に欠ける後部隔壁破壊
と断定し、生のボイスレコーダーですら最後まで公表していない
のです。生音声によるのボイスレコーダーではなく、筆記録での
ボイスレコーダーの公表は、これまでの航空機事故では聞いたこ
とがありません。しかし、生のボイスレコーダーは、いまだに公
開されていないのです。
このような事故調の頑なな対応から、見えてくるものがありま
す。事故調の委員は、すべてを知っているのではないかというこ
とです。しかし、それを公表することが、立場上できないのでは
ないか。事故調としてはこのような結論しか出せないが、どうか
その報告書から真相を読み取ってほしいと訴えているのではない
かと思うのです。
そういう観点に立って事故調の最終報告書をていねいに読むと
そこに事件の謎を解く重要なカギが見えてきます。このことは、
そもそもこの事件の疑惑を最初に訴えた『JAL123便墜落事
故真相究明』ほか3連作(文芸社刊)の著者、池田昌昭氏と角田
四郎氏の2人とも同じことを指摘しています。それは、事故調最
終報告書の次の記述の部分にあります。
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事故機の羽田出発から、18時18分28秒までの上昇中の管
制交信記録の音声から推測した機長の精神緊張度は、9段階点の
4〜6の範囲で変動している。この緊張の程度は離陸から上昇と
いう状況下で一般的なものとみられ、この時点で機長が何らかの
異常の発生を感知していた可能性は少ないと思われる。
事故機のCVR記録は18時24分12秒の「たいとおっしゃ
る方がいらっしやるんですが、よろしいでしょうか」という客室
乗務員による操縦室への機内通話から始まっている。この女性の
音声から計測した精神緊張度は表2のとおり9段階点の3であり
また、その落ち着いた話し振りから、勘案してこの時点で、客室
乗務員が何らかの異常を感知していたという可能性は少ないと考
えられる。この異常とも思えない客室乗務員の申し出に対応した
航空機関士と副操縦士の音声からは、精神緊張度9段階点の5〜
7という通常の飛行状況下ではやや異常とも思える精神的な高ま
りを示す値が推測された。このことから、この時点で同運航乗務
員は精神緊張度が高まるような何らかの異常の傾向を感知してい
たとも考えられる。
(表2)「精神緊張度9段階」
段階点(1)〜(3)
・正常な状況下において一般的に生じる緊張
段階点(4)〜(6)
・緊急状況には至っていないが、何らかの異常発生時等にお
いて一般的に生じる緊張
段階点(7)〜(9)
・緊急状況下において生じる緊張
──事故調最終報告書より
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──[日航機123便墜落の真相/013]
≪画像および関連情報≫
●JAL123便事故調最終報告書について
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この事故に関して「疑惑」という著書(早稲田出版)を著
した角田四郎氏は、事故調査委員会について「事故調査委員
会は何故、隔壁説をデッチ上げなければならなかったのであ
ろう。私は委員や調査官個人にその理由があったとは思えな
い。むしろ、その矛盾に気ずき、心を痛めながらも彼らに及
んだ大きな力に抗しきれなかった姿を感じてならない」と書
いている。
一方、事故調査委員会の武田峻委員長は最終報告書を発表
した後、記者会見を行い、報告書を70点の出来と自己採点
し、「これで全てが終わたのではなく、この報告書をもとに
さまざまな討論、検討を加えて、航空機の安全と事故の再発
防止に役立ていただきたい。」というコメントを添えた。
私も当初、亡くなられた人に鞭をあてたくないと思いなが
らも、事故調査委員会に角田氏と同じように大きな力に抗し
きれなかった姿を感じ、武田氏のコメントを言い訳と感じて
いた。しかし、私はこの事故の原因を解明する作業を進めて
いくうちに、武田氏のこの最後コメントは、氏が真意を語っ
たものであるということを確信するようになった。確かに報
告書は「圧力隔壁主犯説」を採っており、全体的にそれを補
足する構成になっている。しかし、報告書の各論の部分には
事実を述べている部分も多い。写真や資料などについてもそ
のことが言える。 https://bit.ly/2wJpcBt
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JAL123便墜落事故/御巣鷹山
末尾の「JAL123便事故調最終報告書」について
A, 武田委員長は、報告書を70点の出来と自己採点していますが、「圧力隔壁破壊説」という誤りを犯しているから、私は、ゼロ点もしくはマイナス点の評価をします。
B, 「しかし、報告書の各論の部分には事実を述べている部分も多い。・・・・・・」と記されていますが、私は、より具体的に次のように評価しています。
(1)、事故調報告書・別冊にある11件の解析のうち、付録ー1(後部圧力隔壁破壊解析)、付録ー4(与圧空気の流出の数値計算)、付録ー6(DFDRに基づく事故機の飛行状況)の3件の解析結果は、「圧力隔壁破壊説」を成立させるためにデータを擬装しており、それに基づく報告書本文の「圧力隔壁破壊説」の結論は誤り。
(2)、DFDRの解読結果は、全体図および拡大図のいずれにも疑う余地は無い。異常発生時および墜落までの経過を詳しく解明できる。
(3)、機体の構造や諸元に関する情報、落下物の回収位置、地震計のデータ、箒木山観測所の微気圧振動データ、クルーの音声の緊張度など、客観的に検証可能なものは正しく記載されている。
(4)、CVRの聞き取り結果にはいくつか疑問があるが、他の情報と照合して矛盾のない箇所は問題視する必要はない。
(5)、事故調の飛行経路図は、レーダー情報に基づいていて精度が悪いので、DFDRに基づき正確に算定すべき。DFDRに基づく経路と比べて最も重要な違いは、伊豆半島東岸上空の異常発生位置が南西方向に5km以上もずれていることで、その結果、海底調査を的外れの範囲に行っている。
2023,10,5−3 鷹富士成夢