の情報をなぜ進んで日本の事故調に通告したのでしょうか。
それは、JAL123便の墜落事故が、当時世界中で使われて
いた人気機種ボーイング747特有の欠陥によるものではなく、
7年前にしりもち事故を起こした特定の機種の事故であることを
世界に発信したかったからです。
しかし、事故調は、1985年8月27日の第1次中間報告で
は、そのことに言及しなかったのです。この修理ミスについて、
NTSB調査官のシュリード氏から説明を受けた事故調調査官の
藤原洋氏は次のように述べています。
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たぶん修理ミスだろうとわかっていても、最終報告書でないと
書くわけにはいかない。「修理ミスがあった」なんてあの段階の
中間報告では書けない。中間報告はあくまで疲労亀裂がこうこう
あったという事実関係を書くしかない。それを読んで類推しても
らうしかない。 ──藤原洋調査官
──堀越豊裕著『日航機123便墜落最後の証言』
平凡社新書/885
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事故調が修理ミスを取り上げないので、シュリード氏は、NT
SBのバーネット委員長に相談したところ、「ニューヨークタイ
ムズにリークしたらどうか。ただし、NTSBからの情報である
ことは伏せるよういってくれ」と命令されたといいます。そこで
シュリード氏は、ニューヨーク・タイムズの知り合いの記者に電
話し、1985年9月6日付のニューヨーク・タイムズ紙に次の
タイトルの記事が掲載されたのです。
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日本の航空事故で手掛かり発見/7年前の事故が原因か
──1985年9月6日付、ニューヨーク・タイムズ紙
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JAL123便の墜落としりもち事故とその修理ミスを関連付
ける記事です。日本の各紙は、あわてて翌日の夕刊一面で報道し
ています。以後の事故調の報告は、この修理ミスをベースとする
「圧力隔壁破壊説」一色になっていくのです。
事故調の見解は、何らかの原因でJAL123便客室内に急減
圧が起き、客室内の与圧された空気が一気に吹き出し、後部圧力
隔壁を破壊するとともに、垂直尾翼も吹き飛ばしたという内部説
に立脚しています。
そうであるとすると、頑丈な圧力隔壁を破壊し、垂直尾翼まで
吹き飛ばすようなもの凄いパワーの風が客室内を吹き抜けたこと
になります。立っている人が何人も吹き飛ばされるような突風で
すから、荷物なども一緒に吹き飛んだと思います。しかし、もっ
とも後部圧力隔壁の近くの「56C」の席に座っていた生存者の
落合由美氏の証言では、そんな突風など吹いていないのです。落
合氏の証言を再現します。
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(「パーン」という)ピストルを撃ったように響く音だったと
思う。自分の席の後ろの天井あたり(機首に向かって左側後部側
面上部、最後尾トイレ付近の壁上部)から聞こえたように思った
が、振動は感じず、揺れもなかったと記憶している。酸素マスク
が自動的に落ち、録音されたアナウンスが自動的に「ただ今緊急
降下中」と流れたが、耳は多少詰まった感じで痛くなく、それほ
どの急降下は体に感じていなかった。一瞬白い霧が発生したが、
まもなく消えた。ハットラックという頭上の荷物収納扉が開くこ
ともなく、機体の揺れはほとんど感じなかったため、各スチュワ
ーデスたちは持ち場のお客様の様子を確認し、酸素マスクをつけ
る手伝いをしながら、通路を歩いていたことが遺族提供の写真か
らもわかる。 ──青山透子著/河出書房新社
『日航123便/撃墜の新事実/目撃証言から真相に迫る』
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この落合証言によると、何かが壊れて軽い減圧はあったものの
「振動は感じず、揺れもなかった」とし、「頭上の荷物収納扉が
開くこともなく、機体の揺れはほとんど感じなかった」といって
います。少なくとも後部圧力隔壁を吹き飛ばすような凄い突風が
客室内を吹き抜けたという状況は、落合証言からは感じとること
はできないのです。
航空機客室内で何かが原因で急減圧が起こり、それによる突風
が起きたとしても、それが垂直尾翼を破壊する力などないと明言
する学者の証言が当時の週刊誌に載っています。次の2人の学者
のコメントです。
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◎東京大学工学部・航空構造力学/小林繁夫教授
隔壁から噴き出た空気が垂直尾翼を壊すことなど力学的に絶対
ありえない。内と外の圧力差はせいぜい0・4気圧ぐらいだから
てっぺん(垂直尾翼)のプラスチック製おおいを飛ばすぐらいの
力しかない。(中略)隔壁が全部そっくり破壊されたのなら別だ
が、現場でみつかった隔壁の写真を見る限りかなり小規模な破壊
しか起きていないようだ。生存者も、吸い出されるような強い風
を感じていないことからすると、空気はかなりゆっくりした速度
で外へ抜けていったのではないか。
──『サンデー毎日』/1985年9月8日号
◎東京大学工学部・航空工学佐藤淳教授
(前略)果してこの程度の気圧差と直進するはずの空気の流れ
を考えると、風圧が垂直尾翼を吹き飛ばしたり、また、バーンと
いう音が出るのかどうか、はなはだ疑問である。
──『週刊サンケイ』/1985年9月19日号
──角田四郎著『疑惑/JAL123便墜落事故
/このままでは520柱は瞑れない』/早稲田出版
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──[日航機123便墜落の真相/007]
≪画像および関連情報≫
●急減圧は事故調によって創作されたもの
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事故調は、JA8119号機の事故原因を、後部圧力隔壁
が損壊し、引き続いて尾部胴体・垂直尾翼・操縦系統に損壊
が生じたため、と「圧力隔壁主犯説」を採っている。しかし
この「圧力隔壁主犯説」は事故調のオリジナル・シナリオで
はなく、この事故を圧力隔壁の修理ミスによる特異な事例と
して処理することを狙ったアメリカの原案によるものであっ
た。その辺の事情について、日本経済新聞は、事故発生1年
後の86年8月25日の朝刊で「後部圧力隔壁の破壊に続い
て起きた垂直尾翼などの空中分解の全容が24日、明らかに
なった。米側がコンピューター解析をもとにまとめ、事故調
に提出したものである」と伝えている。
事故調は、この「圧力隔壁主犯説」を採用したために、必
然的に起きる急減圧をデッチアゲなければならなくなった。
本章では、報告書がいうように圧力隔壁が損壊し、急減圧が
発生した場合、当然、操縦室と客室において起こる現象と、
相模湾の上で事故が発生したとき、実際に事故機の機内で起
こっていたことがらを比較し、本当にJA8119号機に急
減圧が発生していたのか、否かを、事故調査報告書をはじめ
公表された資料をもとに検証する。報告書は、修理ミス部を
起点として圧力隔壁が損壊したことがこの事故の発端である
としている。 https://bit.ly/2P4YDxP
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後部圧力隔壁の修理ミスの部分
第4835号から第4837号で、圧力隔壁説が浮上した不可解で怪しげな経過を詳しく解説していただきました。
A, この中で一部紹介された「落合証言」について記します。
「落合証言」のうち、特に「減圧」に注目すると、信頼できる情報として下記が挙げられます。
1、「吉岡忍著、墜落の夏」の中に落合さんへのロングインタビュー。「新潮45」の記事から文庫化(P68〜P80)。
2、「藤田日出男著、隠された証言」の中に、アメリカの調査官サイドレンが8月27日に落合さんから得た証言(P11)、および事故調が委託した自衛隊の小原医官が9月17日に落合さんから得た証言(P136〜137)。
いずれにも、急減圧と言えるほどの減圧は無かった、と証言しています。
当時の事故調関係者は、「落合証言」を知っていながら、急減圧を前提にした圧力隔壁破壊説を創り上げています。
最初に公表された日航幹部二人による落合さんの話は、後に落合さん自身が「私はそんなことを話していない」と否定された内容を含み、全体として信用できません。
B, ここで述べられているように、「修理ミス発見」から「圧力隔壁破壊説」に至るプロセス自体も、不可解なのですが、
それとは別に、事故調報告書・別冊の付録ー1の解析において、本来は当日の与圧では圧力隔壁が破壊しないことがデータの上で確認できるのに、逆に、破壊するかのように結論を騙っています。
長くなりますが、下記に説明しますので、事故調報告書の該当部分を参照しながらお読みください。
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《以下、(”)は2乗(上付き小文字の2)を示します。》
事故調報告書・別冊の付録−1で、圧力隔壁の破壊についての解析結果が示されていますが、
この中のページ10の付表―4、5には、一列リベット孔の場合の試験片を用いた強度試験結果が示され、その中で、「形式E」の場合の破断応力として17.8kgf/mm” が示されています。ページ21の附図ー10で、修理ミスによる1列リベット孔の疲労亀裂が進展し強度が落ちている程度を、種々の形式の試験片により確認しており、「形式E」が、最も強度低下の大きい場合です。
ページ15の付図―4に示す数値は、球殻状の構造において、内外の差圧に対する部材(板)の円周方向応力を示し、球殻の曲率半径を部材の厚みの2倍で割った値です。
例えば、曲率半径が2.5m、板圧0.8mmなら、2500÷(0.8×2)≒1563=1.563kとなります。
以下、1ksi=1000psi、 1psi=6895Pa、 1Pa=1N/m”、 1kgf=9.8N として計算。
異常事態発生直前の与圧による隔壁内外の差圧は、別ページで8.66psiと計算されています。附図―4の数値のうち最も大きい1.74を採って計算すると、
1.74×1000×8.66×6895Pa≒103.89×1000000N/m”=103.89N/mm”≒10.6kgf/mm”
となり、最も大きい応力として10.6kgf/mm"が圧力隔壁の部材に生じています。これは、付表―4、5に示された破断応力の最低値、17.8kgf/mm"を大幅に下回っており、疲労亀裂が進展して強度が落ちている部分でも、圧力隔壁が破断しないことを示しています。
ページ11の付表―6には、圧力隔壁L18接続部の推定破断圧力が示されています。最上段には、最も弱い部分のベイ2で破断が始まる時の推定圧力として6.9〜9.4psiが記されています。
付表―6の数値の6.9と9.4について上記と同様に計算すると、8.4kgf/mm”と11.5kgf/mm”が得られ、付表―4,5の破断応力の半分にも足りません。
「別冊」が採用した付表―6の推定破断圧力は、ページ8の附表―2に示された0.2%耐力の30.5kgf/mm”を基に、リベット孔や疲労亀裂による実効断面積の減少を考慮した数値を有効断面全面降伏時の応力とし、これに付図―4の数値から逆算して差圧を求め、さらに、その数値を50%に減じたものです。
しかし、0.2%耐力とは、破断ではなく永久変形をもたらす力であり、破断応力よりもかなり小さな力です。つまり、付表―6の推定破断圧力は、試験片を用いた強度試験結果を無視し、その40〜45%程度の力で破壊するかのように偽装したものです。50%に減じた根拠はどこにも説明されていません。
付表―6については、ベイ2およびベイ3までが破断した場合の圧力と比べ、 ベイ4、ベイ5の破断圧力が殆ど増えていないことも不自然です。ベイ4、ベイ5は正常な2列リベットで結合されているので本来の強度を保ち、放射状のスティフナー(厚み2.4mmのZ型部材)の働きで応力の集中も抑えられ、この部分の破断圧力は、ベイ2およびベイ3が仮に破断しても、ベイ4の手前で破断が停止する強度を保っています。付表―6の数値全体が、計算や実験データに基づいた合理的な根拠の無い、隔壁破壊を偽装するための恣意的な数値を並べたと言わざるをえません。
附図―4の中には、リング状の4本のストラップに生ずる応力も示され、これらはウェブに生ずる応力の概ね3分の1です。ウェブの厚みが0.8mmに対し、ストラップの厚みは2.4mmであることに依っています。仮にベイ2またはベイ3から破壊が始まっても、ストラップで破壊の進行が止まり、隣のベイへは進まないことを示しています。
事故調の強度試験に使われた試験片は、単純な短冊形の薄い板材にリベット孔と疲労亀裂を想定したスリットを加工したものですが、本来は、実機と同様に、ストラップとスティフナーに対応する部材をリベット止めした試験片による試験も行うべきです。それでは強度が上がることが確認されて不都合だから、データを隠したという疑いが残ります。、
試験データを合理的に解釈すれば、隔壁全体が内圧に耐える充分な強度を残しています。事故調の結論は欺瞞です。
2023,10,1 鷹富士成夢