8月6日付のEJ第4821号でご紹介したレイ・カーツワイル
氏の言葉を再現します。
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誕生した当初のコンピュータは、空調のきいた部屋で白衣の専
門家が管理する巨大な機械で、一般の人にとってはずいぶん遠い
存在だった。それが机上に置けるようになったかと思うと、じき
に腕で抱えて運べるようになり、今ではポケットに入っている。
遠からず、日常的に体や脳の内側に入ってくるだろう。2030
年代までには、人間は生物よりも非生物に近いものになる。
──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
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これは、コンピュータが特別な部屋に設置された巨大な特殊な
機械から、机の上におけるデスクトップPCになり、さらに持ち
運べるノートPCに小型軽量化し、最近ではポケットに入るスマ
ホになっている経緯を示しています。
実はこの小型化の流れは、テクノロジーの指数関数的進化に伴
い、急速に進み、やがてマイクロマシンになって、人間の体や脳
内にまで入ってくる──このようにカーツワイル氏はいっている
のです。これは、人間の脳とコンピュータが接続される可能性に
言及しています。これが実現すると、脳はインターネット上の膨
大な知識ベースを知識として保有することになります。
これによって、人間にはできないが、コンピュータならできる
ことが人間にも容易にできるようになり、そこにスーパー人間が
誕生します。カーツワイル氏は、このスーパー人間は、脳とコン
ピュータという非生物が合体することになり、それは果して「生
物」といえるのかという根本的問題を問いかけているのです。
もちろん、そんなことが実現するはずがないという人はたくさ
んいます。しかし、現在、この「人間拡張/ヒューマン・オーグ
メンテーション」が大真面目に研究され、実験されるようになっ
ています。その中心にいる学者の一人が、東京大学大学院教授の
暦本純一氏です。暦本教授は、次のことを提唱しています。
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IoT → IoA
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「IoA」とは、何でしょうか。
2017年11月3日のことです。東京大学の暦本教授は、米
国サンフランシスコで開催された「ザ・ニューコンテキスト・カ
ンファレンス/2017」で次のテーマで講演を行っています。
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「AI時代の人間拡張」/東京大学大学院暦本純一教授
THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2017 SAN FRANCISCO
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いわゆる機械による人間拡張──ここでいう「拡張」の意味を
今まではできなかったことができるようになるという意味の人間
の能力拡張を意味するとすれば、PCやスマホを持つことも能力
の拡張ということができます。
しかし、ここで暦本教授が提唱していることは、そんなレベル
の能力の拡張ではなく、カーツワイル氏のいう「バージョン2・
0」の人体レベルの能力拡張なのです。暦本教授は講演で、次の
ように述べています。
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オーグメンテーションは個人が対象とは限らない。自分以外の
他者とつなげることができるし、「他者」とはロボットであった
り、人間であったりする。つまり、さまざまなタイプの組み合わ
せによるコラボレーションができるのだ。(中略)こうしたこと
はIoA(Internet of Abilities) と呼ばれる。IoTの次に
やって来るフェーズである。IoTはモノのネットワークである
のに対し、IoAは「アビリティ(能力)のインターネット」で
ある。IoAによって、「能力」を結びつけたり、交換したりで
きるようになる。
テクノロジーは、人と人とをつなげることもできる。人間の能
力を拡げる、非常に重要な方法である。「人間対人間ジャック・
イン」である。ある人の知覚を丸ごと他の人に移し替えることで
あり、新しいタイプのコミュニケーションや教育となりうる、非
常に大きな機会である。現代の技術ではまだできないが、視覚に
ついては可能である。例えば、スカイダイビングのような特別な
瞬間を交換するなどの場合である。 https://bit.ly/2Mi3fQp
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暦本教授は「ジャック・イン・ドローン」というものを説明し
ています。ウェアラブル端末を装着している人に限りますが、人
についてドローンは飛行します。人間が動けば、ドローンも動き
ます。ドローンにはカメラが付いており、人間にはドローンから
の映像が見えます。これは、ドローンがなければ見えない映像で
あり、能力の拡張といえるというわけです。
もし、ドローンが、人間の目が死角になる位置を自動的に判断
して移動するとすれば、自分の見えない場所の映像がつねに見え
ていることになり、視覚の拡張、すなわち、人間の能力の拡張が
行われることになります。これは、人間とドローンの基本的な接
続の形態であると暦本教授はいいます。
人間がドローンに没入することもできます。ドローンと一体化
するといってもよいと思います。この場合、ドローンのカメラが
人間の目になるので、本来人間では見ることができない景色を見
ることができます。どらえもんの「竹コプター」のような感じを
味わうことができるわけです。その状況から脱却するには、「ジ
ャック・アウト・ドローン」をすればよいのです。
暦本教授の「人間拡張」テクノロジーについては、もっと驚く
べきものがあります。明日のEJでも、暦本教授の「人間拡張」
について考えます。 ──[次世代テクノロジー論U/068]
≪画像および関連情報≫
●AIは人間の能力を拡張するもの/ダニエル・ラス所長
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人工知能に仕事が奪われることを恐れてばかりいると、人
工知能との協調に秘められた大きなチャンスを見逃すことに
なるかもしれない。私たちはロボットや人工知能(AI)が
仕事を奪うと心配するのではなく、人間と機械が協力する新
たな道を探るべきだとマサチューセッツ工科大学(MIT)
コンピューター科学・人工知能研究室(CSAIL)のダニ
エラ・ラス所長はいう。ラス所長は、「人間と機械は争うの
ではなく、協力すべきだと思います」とMITテクノロジー
レビュー主催の年次イベント「EmTech MIT 2017」 の基
調講演で語った。
これからの時代、テクノロジーが雇用にどう影響するかは
経済学者、政策立案者、科学技術者にとって、大きな問題と
なっている。ロボット工学とAIの研究で世界の先陣を切る
CSAILは、来たる変化の波に大きな関心を寄せている。
専門家の間では、自動化とAIがどの程度仕事に影響するか
について、意見が異なる部分もある。また、新しいビジネス
が作り出されることで、現在の仕事がどう埋め合わされるか
についても意見が違う。2017年11月上旬、ラス所長と
MITの研究者は「人工知能と仕事の未来」と題したイベン
トを企画した。講演者の中には、これから直面するであろう
大きな変化に差し迫った警告をする者もいた。
https://bit.ly/2OboBiY
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暦本純一東大教授


