える「シンギュラリティ」(2045年問題)に基づく未来予測
について書いてきましたが、彼の未来予測についてどのように受
け止められたでしょうか。
普通は、これほど思い切った予測をすると、多くの学者から反
論の嵐を浴びるものですが、一部ではそういう動きもあるものの
彼の唱える「シンギュラリティ」は、ほぼ肯定的に受け止められ
ているといえます。
なぜかというと、カーツワイル氏は「未来学者」として紹介さ
れていますが、2012年から現在AIに関しては最も先進的な
企業のグーグルに籍を置き、最先端のAIを研究しているため、
AIの先端技術に最も近い学者としての信用があるからです。
しかし、カーツワイル氏について、既出の小林雅一氏は、再新
刊書で、次の評価をしています。
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カーツワイル氏は若干奇矯な人物として知られているため、仮
に彼一人がこうした予想を口にするだけなら、それほど真剣に取
り上げられなかったかもしれない。が、実際には同氏のみならず
世界的に有名な物理学者のステイーヴン・ホーキング博士や宇宙
旅行ビジネスなどを開拓するスケールの大きな起業家イ一ロン・
マスク氏ら、各界の著名人も同様の警告を発している。このため
シンギュラリティに代表されるAI脅威論、つまり「超越的な進
化を遂げたAIが人類の生存を脅かす」との予想も、非常な関心
と危機感を煽っている。
しかし、この点についても世界的な有名人に異を唱えるのは、
少々おこがましいが、ホーキング博士やマスク氏らはAIの専門
家ではない。つまり人工知能を実現するための具体的技術や、そ
の内部メカニズムについては、それほど詳しいと思えないのであ
る。それなのに、なぜAIが今後、発展していく方向性や、その
潜在的な危険性などを占うことができるのだろうか?
むしろ彼らはある種の興味本位、あるいはセンセーショナルな
予想によって世間の関心を惹こうとする動機の方が強いのではな
かろうか。 ──小林雅一著/『AIが人間を殺す日/
車、医療、兵器に組み込まれる人工知能』
集英社新書/0890
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小林雅一氏は、「シンギュラリティに代表されるAI脅威論」
という表現を使い、カーツワイル氏があたかもAI脅威論の元凶
というような位置づけですが、私は少し意見が違います。ここま
での検討で既に述べているように、AI脅威論というのは、いわ
ゆる「機械の人間化」によって、人間の知能をはるかに上回る機
械(ロボット)が出現し、人類を征服するというものです。小林
氏自身、上記の新刊書で次のように述べています。
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それ(カーツワイルのシンギュラリティ)によれば、2045
年頃には、コンピュータ・プロセッサの処理能力(人工知能のベ
ースとなる技術)が人間の知力を上回り、いずれは、AIが意識
や感情までも備えるようになる。そして遠い未来には、AIやロ
ボットが人類を支配し、その生存を脅かす恐れすらある、との見
方である。 ──小林雅一著の前掲書より
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しかし、カーツワイル氏はそうはいっていないのです。彼の本
をていねいに読むと、AIは指数関数的に発達して、それが人間
の脳と一体化する「人間の機械化」が起こり、スーパー人間が出
現すると予測しています。もっとも、小林雅一氏もそのことは認
めていて、次の但し書きを入れています。
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元々、カールワイル氏はそこまでは言わなかったが、やがて話
に尾ひれがついて、どんどん誇張されていった。
──小林雅一著の前掲書より
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そうなんです。カーツワイル氏のシンギュラリティ論を聞いて
一部の学者たちが、AIを人間とは異なる生命体として認識し、
その超人的パワーを誇張した結果、人類征服などの脅威論が生ま
れたのです。
この脅威論はあり得ないと考えます。しかし、発達したAIが
人間の脳と一体化し、脳が拡張することは、十分あり得ることで
す。脳が拡張すると、それまでは考えられなかったことが起きる
可能性があります。今から約200万年前に、人類の脳の拡大が
起きたといわれています。脳が拡大したことで、階層構造が増え
て、それが言語の誕生につながり、芸術や音楽がそれに続いたの
です。その脳の拡大がまた起きようとしているのです。それがシ
ンギュラリティです。カーツワイル氏は、そのときにはコンピュ
ータがナノマシン化し、脳にすら入るようになり、生物的な脳を
パワーアップするといっています。
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「バージョン2・0」の人体のシナリオは、テクノロジーとま
すます緊密な関係になる傾向がこの先もずっと続くことを示して
いる。誕生した当初のコンピュータは、空調のきいた部屋で白衣
の専門家が管理する巨大な機械で、一般の人にとってはずいぶん
遠い存在だった。それが机上に置けるようになったかと思うと、
じきに腕で抱えて運べるようになり、今ではポケットに入ってい
る。遠からず、日常的に体や脳の内側に入ってくるだろう。20
30年代までには、人間は生物よりも非生物に近いものになる。
2040年代までに、非生物的知能はわれわれの生物的知能に比
べて数10億倍、有能になっているだろう。
──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
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──[次世代テクノロジー論U/065]
≪画像および関連情報≫
●AI脅威論の払拭を模索する研究者たち/ニュースイッチ
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人工知能(AI)研究者が社会の不安や懸念に応えようと
模索している。産業技術総合研究所人工知能研究戦略部が今
後の技術開発について「人間との協調」や「AIへの信頼」
「構築のしやすさ」の三本柱を設定し、社会に受け入れられ
るAI研究を探る。これらは内閣府の人工知能技術戦略会議
がまとめる実行計画に採用される見込みだ。先に政府が示し
た「統合イノベーション戦略」に大まかな方向性が盛り込ま
れていた。多くのAI関連の戦略が策定されてきたが抽象的
なものが多かった。基盤技術の具体的なテーマにまで踏み込
んだ実行計画がまとまれば、社会の漠とした不安も払拭でき
るかもしれない。
「AIの本格的な社会実装に向けて問題点が整理されてき
た」と産総研人工知能研究センターの辻井潤一センター長は
三本柱を挙げた背景を説明する。現在の第三次AIブームが
AIによる失業への不安や脅威論によって広がった側面もあ
り、AI研究者は常に社会からの期待と懸念にさらされてき
た。そのためAI判断の説明可能性や信頼性保証、プライバ
シー保護など、社会受容性を広げる技術が活発に研究されて
いる。そして日本のAI戦略に現場主義が採り入れられた。
現場に信頼され、現場で構築しやすい技術が三本柱に掲げら
れた。そもそもAI2強の米国と中国は、それぞれグーグル
やアリババといった巨大プラットフォーマーを抱える。国家
やプラットフォーマーが集める膨大なデータをAIに学習さ
せて精度とサービスを磨く。対して日本は現場力を強みとす
る方針だ。工場などの現場をIoTでスマート化し、良質な
データを集めてAIの精度を高め現場力を向上させる。
https://bit.ly/2AmA8tC
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シンギュラリティ/カーツワイル氏


