1・0」とします。この人体は、さまざまな病気に襲われ、加齢
が進むにつれて人体は年々弱ってきます。バージョン1・0の人
体は、持続力が弱く、生きて行くために必要な資源を肉体内に多
くを蓄めておけないのです。そのため、生きるために、つねに呼
吸し、つねに食品を摂取する必要があります。
バージョン1・0の人体は、血液中に蓄えられる酸素はわずか
数分しか持たず、グリコーゲンの形で蓄えられるエネルギーは、
せいぜい持って数日分です。しかし、シンギュラリティが近づき
それを超えると、テクノロジーの指数関数的発達によって、そう
いう人体の虚弱体質は大きく修復・改善され、病気にならない強
靭な人体に生まれ変わるといいます。これによって、人間はかな
り長期間、代謝資源がなくても、生きて行けるようになります。
レイ・カーツワイル氏は、これを「人体2・0」と呼び、次の
ように述べています。
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シンギュラリティが近づくにつれて、人間生活の本質について
考え直し、社会制度を再設計しなくてはならなくなるだろう。た
とえば、G(遺伝学)とN(ナノテクノロジー)とR(ロボット
工学)の革命が絡み合って進むことにより、バージョン1・0の
虚弱な人体は、はるかに丈夫で有能なバージョン2・0へと変化
するだろう。何10億ものナノボットが血流に乗って体内や脳内
をかけめぐるようになる。体内で、それらは病原体を破壊し、D
NAエラーを修復し、毒素を排除し、他にも健康増進につながる
多くの仕事をやってのける。その結果、われわれは老化すること
なく永遠に生きられるようになるはずだ。
脳内では、広範囲に分散したナノボットが、生体ニューロンと
互いに作用し合うだろう。それは、あらゆる感覚を統合し、また
神経系をとおしてわれわれの感情も相互作用させ、完全没入型の
バーチャルリアリティ(VR)を作りあげる。さらに重要なのは
生物的思考とわれわれが作りだす非生物的知能がこのように密接
につながることによって、人間の知能が大いに拡大することだ。
──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
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人類の寿命は年々伸びています。シンギュラリティが近づくと
その伸長はさらに加速される。ナノテクノロジーの研究者である
ロバート・フレイタス氏によると、老化や病気のうち、医学的に
予防可能な症状の50%を予防できれば、平均寿命は150年を
超えるといっています。シンギュラリティになれば、その予測は
不可能であるとはいえず、十分達成する可能性はあります。考え
てみると、人類はこれまでさまざまなテクノロジーを開発して、
平均寿命を伸ばしてきた歴史があります。実際に平均寿命は次の
ように伸びてきています。
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◎平均寿命
クロマニヨン人の時代 ・・・・・ 18歳
古代エジプト ・・・・・ 25歳
1400年ヨーロッパ ・・・・・ 30歳
1800年ヨーロッパ/アメリカ ・・・・・ 37歳
1900年アメリカ ・・・・・ 48歳
2002年アメリカ ・・・・・ 78歳
──レイ・カーツワイル著の前掲書より
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かぎを握るのは、ロバート・フレイタス氏の提示する「人工赤
血球」(レスピロサイト)の実現であるといいます。これが実現
すると、人は酸素なしで何時間も生きられるようになります。
ロバート・フレイタス氏は、赤血球だけでなく、血小板や白血
球、すなわち血液を人工物に交換するナノテクノロジーを研究し
ています。「人工血小板」と「人工ナノマシン」による白血球の
代替も実現し、血液をすべて改変し、プログラミングできるよう
にすることも考えているといいます。
そして、カーツワイル氏の人体改造研究は「心臓」にまで及ぶ
のです。心臓は、体の他の部分よりも早くだめになり、心不全を
起こしやすく、寿命を縮める重要要因のひとつです。これについ
て、カーツワイル氏は、次のように述べています。
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人工心臓への交換も実現し始めているが、もっと有効な方法は
心臓を完全に取り除くことだろう。フレイタスが設計したものの
ひとつに、自力運動性のナノボット血球がある。血液が自動的に
流れるのであれば、一点集中のポンプにひじょうに強い圧力が求
められるという技術上の問題は解消される。ナノボットを血液中
に出し入れする方法が完成されるにしたがい、やがてはナノポッ
トと血液をすっかり取り替えられるようになるだろう。フレイタ
スは500兆のナノボットからなる複雑なシステム「ヴァスキュ
ロイド」の設計についても発表したが、それは人間の全血流の代
わりになるもので、流動することなく必須の栄養や細胞を体の各
所に届けられる。 ──レイ・カーツワイル著の前掲書より
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カーツワイル氏のいわんとすることは、酸素摂取効率が抜群に
高い人工赤血球が本当に開発されれば、そもそも心臓のような一
極集中型の臓器は必要ないというのです。いつ誤動作や緊急停止
するかわからない心臓ひとつに頼るより、血液を改革できれば、
そもそも循環させる必要もないから、皮膚呼吸で十分じゃないか
というわけです。
しかし、ここまでやると、もはや人造人間です。このバージョ
ン2・0を人間と呼べるのかどうかという問題になります。結局
人間にとって最後に残るのは、脳だけということになりかねない
のです。これは、まさしく「人間の機械化」そのものです。
──[次世代テクノロジー論U/064]
≪画像および関連情報≫
●身体の中に病院を作る!?/「ナノマシン」が現実に
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80年代に長期的なヒットを飛ばしたRPG「サイバーパ
ンク2020」や、最近だと「エクリプス・フェイズ」など
など(日本で有名なのはガンダムだろう)で使われていた大
量のナノマシンをあなたは覚えているだろうか。
かつてゲームやアニメの中で活躍していたナノマシンは、
それらを通じてナノマシンの危険性や可能性を我々に間接的
に伝える役目を果たしていたが、今ではすっかり取り上げら
れなくなり、まるで死語のような扱われ方をしている。
しかし、最近また、注目を集め始めている「ナノテクノロ
ジー」によって、目に見えない極小サイズのワイヤレスマシ
ンが現実のものになったらどうだろう。SFの世界でしか起
こりえなかったことが現実に起こるかもしれないとしたら?
あのナノマシンが互いにコミュニケーションを取りあうこ
とができたら、どんな使い方が考えられるだろうか。先日、
まさにこの研究に取り組んでいる科学者たちがいることが明
らかになった。彼らが研究しているのは人のDNAの100
倍ちょっとの大きさで、血液の流れに乗ってデータを運ぶこ
とができるナノサイズのデバイスである。ナノテクノロジー
は、世界的に超高齢化社会を迎えつつある現在、医療への応
用に大きな期待を寄せられている。この技術を活用すること
で診断から治療まで、医者は患者の体のいたるところをリア
ルタイムで解析できるようになる。現在の検査は放射線など
体に有害となりうるものを使用しなければならないが、これ
が人体に無害で賢い「ナノデバイス」に取って代われる日が
来るかもしれないのだ。 https://bit.ly/2LvitVM
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血中で活躍するナノマシン


