いきます。「人間の機械化」とは何でしょうか。
人間というものは、何らかの機械のサポートを受けて生活をし
ています。視力が弱くなると、人は眼鏡をかけますし、心臓に疾
患のある人はペースメーカーを身体に埋め込んでいます。難聴の
人は、補聴器を使うか、蝸牛(内耳)を脳に移植して、人とのコ
ミュニケーションをとっています。
眼鏡や補聴器は別として、機械で身体や能力を強化された人間
のことを「サイボーグ」と呼んでいます。しかし、機械がどんな
に進化したとしても、人間の脳を超えることは、たとえディープ
ラーニングがさらに発達しても、少なくとも現時点では非常に困
難であると考えます。したがって、「機械の人間化」は当分SF
の世界にとどまるものと思われます。
しかし、機械──AIと考えてもいいと思いますが、人間の脳
と一体化することは十分あり得るし、そういう新しい人類が出現
することは、荒唐無稽ではないと考えます。レイ・カーツワイル
氏は、シンギュラリティ以後、そういう可能性があると考えてい
ることは確かです。
人間の脳とコンピュータを接続する──実はこれは既に可能に
なっています。米国の国防高等研究計画局(DARPA)が、年
間2400万ドルを投じて、この研究を行っています。これにつ
いて、カーツワイル氏は自著で次のように紹介しています。
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デューク大学のミグル・ニコレリスらは、サルの脳にセンサー
を埋め込んで、思考だけでロボットを操作させている。実験の最
初の段階では、サルに、ジョイスティックを使ってスクリーンの
カーソルを操作することを教えた。次は、脳波計から信号パター
ンを収集し、ジョイスティックの物理的な動きではなく、脳波信
号の適切なパターンにカーソルが反応するようにした。サルはす
ぐ、ジョイスティックはもう役に立たず、考えるだけでカーソル
が操作できると学んだ。この「思考検出」システムは、次にはロ
ボットに取りつけられ、サルは、思考だけでロボットの動きを制
御するやり方を学習することができた。ロボットの動作から視覚
的なフィードバックを得て、思考によるロボット操作を、完壁に
マスターした。この研究は、身体が麻痺した人に四肢と環境を制
御できるような同様のシステムを提供することを目指している。
──レイ・カーツワイル著/NHK出版編
『シンギュラリティは近い/人類が生命を超越するとき』
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少し分かりにくいと思うので解説します。
まず、サルにジョイスティックを操作させて、PCのディスプ
レィ上のカーソルを動作させたのです。カーツワイル氏は書いて
いませんが、そうすることによって、プラスティックの管が押し
出され、サルは水が飲める仕掛けになっていたのです。サルはそ
れをすぐ覚えて、水が飲みたくなると、ジョイステックでカーソ
ルを移動させ、水を飲んだのです。
次の段階として、サルの脳波を脳波計を使って信号パターンを
収集し、それとディスプレィ上のカーソルが反応するようにした
のです。これは、サルの脳波とコンピュータがつながったことを
意味します。サルは、水を飲もうと思うと、脳波がコンピュータ
に送られ、カーソルがうごいて、水の管が押し出されてくるので
それで水を飲むようになります。当然、その後、サルはジョイス
テックを使わなくなくなるのです。
この実験は人間に対しても行われ、身体がマヒした人が、考え
るだけで、PCなどを動かすことができるようになっています。
こんな話もあります。2014年にブラジルで行われたサッカー
W杯で、足を失った障害者が、特殊なスーツとこの技術による装
置を組み合わせ、サッカーボールを蹴ることに成功しています。
これらの実験は2005年に放映された「NHKスペシャル」
で取り上げられています。
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立花隆/最前線報告
「サイボーク技術が人類を変える」
NHKスペシャル https://bit.ly/2v27cSP
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NHKは「NHKスペシャル」を公開してくれていませんが、
上記サイトでは、「サイボーグ・テクノロジー」として連続して
視聴することができます。非常に参考になる内容であり、時間の
あるときにご覧になることをお勧めします。
なかでも注目すべきは、満足に歩行できないパーキンソン病の
患者が、脳に電極を入れる「脳深部電気刺激移植」の手術によっ
て、あっという間に手足の震えが止まり、数週間で普通の人と同
じように歩けるようになる映像は、パーキンソン病によって苦し
む人にとって貴重な情報になると思います。
これらのサイボーグ研究の最前線は、義手や義足を脳波で動か
すという次の研究です。
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◎BMI/ Brain-machine Interface
ブレイン・マシン・インタフェース
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BMIというと、体重と身長の関係から算出されるヒトの体格
指数「ボディマス指数」(Body Mass Index) と間違えてしまい
ますが、サイボークの研究でのBMIです。
このように、人間の体内に、いわゆる「機械」を埋め込むこと
によって機能の回復を図る技術は非常に進化しつつあります。こ
れはまさしく「人間の機械化」といえます。BMIが進化すると
脳さえ異常がなければ、手足が動かなくなっても、脳波によって
動かすことは可能になっています。しかし、それは医療の分野で
あれば、問題はないものの、それを超えると恐ろしいことになり
ます。 ──[次世代テクノロジー論U/063]
≪画像および関連情報≫
●「2030年代、サイボーグとなった人類は"神"に近づく」
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世界的な未来学者、発明家のレイ・カーツワイル氏の予想
によれば、人間は脳をコンピュータに接続することによって
さらに複雑な感情や特質を発達させるという。
「人間は、もっとユーモラスで、魅力的に、そして愛情表
現が豊かになるでしょう」。シリコンバレーにある教育機関
「シンギュラリティ・ユニバーシテイ」(SU)で最近行わ
れたディスカッションで、カーツワイル氏はこのように述べ
た。彼はグーグルの技術責任者として人工知能(AI)の開
発に参加しているが、この言葉は同社を代表して述べたもの
ではない。
カーツワイルの予想では、2030年代に人間の脳はクラ
ウドに接続可能になり、メールや写真を直接、脳に送信した
り、思考や記憶のバックアップを行ったりできるようになる
という。これは脳内毛細血管を泳ぎまわるナノボット(DN
A鎖からつくられる極小ロボット)によって可能になる、と
カーツワイル氏は言う。非生物的な思考へと脳を拡張するこ
とは、私たちの祖先が、道具を使用することを学習したのと
同様に、人類の進化の次なるステップであると彼は捉えてい
る。また、この拡張によって論理的知性だけでなく、感情的
知性も高まるという。「人間は、脳モジュールの階層レベル
を増やし、さらに深いレベルの感情表現を生み出すだろう」
とカーツワイルは述べた。 https://bit.ly/2uXoTmr
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意識するだけで、カーソルが動く


