2018年08月01日

●「ロボットにも『心』が生まれるか」(EJ第4818号)

 「機械の人間化」の話を続けます。先日、池袋のジュンク堂書
店で次の本を発見し、購入しました。ジュンク堂書店では、AI
コーナーが設けられており、そこで発見したのです。
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                 海猫沢めろん著
    『明日、機械がヒトになる/ルポ最新科学』
            講談社現代新書/2370
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 著者の海猫沢めろん氏は、40代前半のライターで、AIをは
じめ、最新のテクノロジー開発のキーマンを取材し、まとめた本
です。この手の本はたくさんありますが、この本は、単なる取材
本とは一味違うところがあり、とても参考になります。
 「機械の人間化」で一番問題になるのは、やはり「心」の問題
です。これについて、海猫沢めろん氏は、ロボット工学者の石黒
浩博士に次の質問をしています。
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──:先生は、ロボットにも「心」は生まれるという話をつねづ
  ねされています。ぼく、その心が、OSとハードウェアに分
  かれているのか、それとも、分かれていないのかが気になっ
  ているのです。
石黒:分かれていますね。ひとつにすることは、今の技術ではで
  きない。人間の心は分かれていないんですね。人間っていう
  のは脳のなかのソフトウェア的な情報処理が、時間が経つと
  ハードウェアの構造──というか、脳のシナプスに影響を与
  えて、長期的な記憶が生まれたり、脳の構造そのものを変え
  たりしているのです。
──:ハードウェアを発達させて、どうにかして、できないんで
  すか。
石黒:そこまでのデバイスはまだつくれないですね。今のIC技
  術を使っている限りは難しそうな気がします。全体がプログ
  ラマブルなハードウェアをつくることができるなら、かなり
  人間の脳に近い構造をもたせることができる可能性もあるん
  ですけど、そこまで行くかどうかはまだちょっと微妙で・・
              ──海猫沢めろん著の前掲書より
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 海猫沢めろん氏の「その心が、OSとハードウェアに分かれて
いるのか、それとも、分かれていないのかが気になっている」と
いう表現はきわめてユニークです。石黒博士によると、機械は分
かれているが、人間は一体化しているというのですが、心という
ものを抽象的ではなく、具体的に表現しています。
 人間はともすると「心」という言葉を口にします。悪いことを
すると「心を入れ替えろ」といったり、話し方に「心がこもって
いない」とかいいます。しかし、「心とは何か」と問われると、
何も答えられないのです。石黒博士は「心」について、次のよう
にいっています。
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 人に心はなく、人は互いに心を持っていると、信じているだ
 けである。     ────海猫沢めろん著の前掲書より
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 石黒博士の論法によると、相手に「心」があると人間が信じれ
ば、ロボットにも「心」は存在するといえます。このテーマは、
ややもすると哲学的になりますが、この石黒博士の意見は、西洋
ではデカルト以来、哲学者がずっと論じ続けている「私」の問題
でもあるわけです。要するに哲学の問題なのです。
 石黒博士は、仏教関係者からも、よく講演を依頼されるそうで
す。浄土真宗の研究部門に石黒ファンが多いようです。「人は互
いに心を持っていると、信じているだけである」という考え方は
仏教でも同じであり、最終的にはすべて無に帰するものと考えて
いるようです。仏教にも通じる問題なのです。
 演劇の世界でもロボットが取り入れられつつあります。多くの
人は、感情を持たないロボットに演劇の俳優が務まるのかと考え
ますが、演出家の平田オリザ氏は、石黒浩博士の協力を得て、既
に「ロボット演劇」を行っています。2013年には、国立劇場
で次の公演が行われています。
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 アンドロイド版『三人姉妹』
 原作:アントン・チェーホフ 作・演出:平田オリザ
 ロボット・アンドロイド開発:石黒 浩(大阪大学&ATR石
 黒浩特別研究室)
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 「ロボット演劇」といっても、出演者が全部ロボットではなく
人間との共演です。演劇の演出というものは、演出家にもよりま
すが、プログラミングとよく似たところがあります。平田オリザ
氏の演出について、海猫沢めろん氏は次のように述べています。
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 平田オリザさんは、舞台役者に対してすごく細かい指示をだし
ます。感情ではなく、どの台詞を何秒、どういう身休の状態で言
うか、そういうプログラミングめいた指示です。つまり、ロボッ
トに対する演出と、人間に対する演出がまったく同じなのです。
「10センチ前に」「1秒間を取って」という演出をロボットで
やると、そのままプログラムを書くだけになります。
 果してそんなものに人は感動するのか?結論からいうと「イエ
ス」です。これは一体なにをしているのでしょうか。
            ────海猫沢めろん著の前掲書より
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 演劇だけでなく人々は普通の生活で、ロボットと一緒に暮らす
ようになります。既にそれは始まっています。もしそれが人型ロ
ボットであると、家族と同じように感じてしまってもおかしくは
ないと思います。このように「機械の人間化」は急速に進んでい
るといえます。   ──[次世代テクノロジー論U/062]

≪画像および関連情報≫
 ●ロボットの動きが不自然に見える理由/平田オリザ氏
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  平田オリザ氏:今日、何の話をしようかと思ったんですけど
  石黒浩先生が(今日の講演で)何の話をするかが、分からな
  かったので、僕決めてなくて。どんな意味があるのか、ある
  いは何をしているのかってことなんですね。僕はずっとこの
  15年くらい、石黒先生と全く関係ないところで認知心理の
  方たちと一緒に、演劇のリアルっていうものはどういうとこ
  ろから生まれてくるのかという研究をしていました。分かっ
  てきたことはいくつかあるんですけど、一番単純なところで
  は、どうも皆さんがあの俳優は上手いとか、あの俳優は下手
  だとか、あの俳優はリアルだ、あの俳優は、ちょっとリアル
  じゃないっていうふうに感じる大きな要素の一つに、無駄な
  動きが適度に入ってるかどうか(がある)んですね。最近は
  ずいぶん変わってきてると思うんですけど、例えば今までの
  ロボット工学って(ペンを突き出し)これをいかに上手く掴
  むかっていうことをずっと研究してきたわけですよね。産業
  用ロボットっていうのは、まさにきちんと掴むっていうのが
  大事なわけですけど。でも人間はこんなにガシッとは掴まな
  くて、なんかモノがあったりすると、大体ちょっと手前で止
  まって掴んだりとか、全体像を把握してから掴んだりとか、
  何かのためらいとか、すごく無駄な動きが入るんですね。認
  知心理ではこれを「マイクロスリップ」というんです。
                  https://bit.ly/2AeEoLR
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演出家/平田オリザ氏.jpg
演出家/平田オリザ氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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