2018年07月19日

●「50年前からあるチャットボット」(EJ第4809号)

 ここまでの学習によってわかったことは、もっともAIらしく
見える自動対話AI「チャットボット」が、現状では依然として
「人工知能」ならぬ「人工無能」のレベルに止まっているという
ことです。対話型AIの技術が、50年前から技術的に大きく進
化していないのが原因です。
 「チャットボット」とは、「チャット」すなわち、おしゃべり
のことであり、「ボット」すなわち、ロボットの合成語で、「お
しゃべりロボット」を意味します。おしゃべりロボットには意外
に長い歴史がありますが、おしゃべりといっても、音声ならぬ文
字での対話だったのです。したがって、なぜ最近チャットボット
が注目されるようになったかというと、不十分ながら、人の音声
が認識できるようになったからです。
 チャットボットは、人間がプログラミングを行い、それに基づ
いて、コンピュータが対話を行うものでした。チャットボットを
動かすアルゴリズムにはいくつかのパターンがあり、次の2つの
ものが主流であったといえます。
─────────────────────────────
 1.事前に決められたシナリオを人間が選択して、マシンと
   対話する。
 2.人間の発言した単語と事前に登録された単語を見つけて
   応答する。
─────────────────────────────
 チャットボットの歴史を振り返ると、世界初の「イライザ/E
LIZA」があります。イライザは、1966年に誕生しており
既に50年を超えています。しかし、対話といっても、もちろん
音声でのやり取りではなく、文字と文字との対話です。
 それから2年後の1968年のことですが、映画『2001年
宇宙の旅』が公開され、そこでは、宇宙船に装備されている人工
知能コンピュータ「HAL9000」が、堂々と音声で乗務員と
会話しているさまが描き出されています。きっと2001年にな
れば、コンピュータは人と音声で対話できるようになっているだ
ろうとの予測があったのでしょう。
 しかし、その2001年になっても、音声によるコンピュータ
の対話は実現しておらず、IBMのAIコンピュータとして名高
い「ワトソン」がテレビのクイズ番組で人間に勝利した2011
年になっても音声での対話は実現していなかったのです。
 現在「ワトソン」は音声認識ができるようになっており、メガ
バンクなどのコールセンターで活用されていますが、「ジェパデ
ィ!」で勝利したときは、文字認識だったのです。次のウィキペ
ディアの記事をご覧ください。
─────────────────────────────
 2011年2月14日からの本対戦では、15日と16日に試
合が行われ、初日は引き分け、総合ではワトソンが勝利して賞金
100万ドルを獲得した。賞金は全額が慈善事業に寄付される。
なお、「ジェパディ!」は問題文が読み上げられた後に手元のボ
タンを押して回答する早押し形式であるが、ワトソンは音声認識
機能を持たないため、文字で問題を取得し、シリンダーでボタン
を押す装置を用いて回答した。      ──ウィキペディア
                  https://bit.ly/2Lg2XZI
─────────────────────────────
 このように、人とAIコンピュータが音声でやり取りできるよ
うになったのは、ごく最近のことであり、あわせてインターネッ
トの普及による膨大なウェブサイトの出現によって、それが巨大
な知識ベースになるに及んで、人とAIが音声で何とか対話でき
るようになったといえます。しかし、言葉の意味を理解しての対
話とはなっていないのです。
 チャットボットの元祖イライザの時代から、現在まで続いてい
るAIに関する有名なテストがあります。それは「チューリング
テスト」といわれます。このテストは、イギリスの数学者、アラ
ン・チューリングが、1950年に発表した論文のなかに書かれ
ているものです。
 どういうテストかというと、コンピュータと人間に対して質問
が行われ、それぞれが答えるのですが、そのやり取りが人かマシ
ンか区別がつかなくなったときに、コンピュータの勝ちと判定す
るというものです。以後長い間、コンピュータは合格できません
でしたが、2014年になって、やっと合格したのです。
 このチューリングテストについて、AI研究の第一人者である
小林雅一氏は、以下のようにわかりやすく、かつ詳しく説明をし
ています。
─────────────────────────────
 チューリング氏は1950年に著した論文の中で、次のような
思考実験を提案しています。人間(判定者)とコンピュータが壁
を挟んで向かい合います。この判定者から見て、壁の向こうには
コンピュータ以外にも、複数の人間がいます。このような状況下
で、判定者は壁の向こうにいる「誰か」と会話を交わします。そ
の誰かは、ひょっとしたらコンピュータかもしれないし、人間か
もしれない。そして判定者が彼ら見えない相手と会話を交わす中
で、相手が人間かコンピュータか区別がつかなくなった段階で、
それは人間に匹敵するAIの誕生と見ていいのではないか。チュ
ーリング氏はそう提案しました。念のため、細かい点まで注意し
ておくと、まず、ここでの「会話」とは声による通常の会話では
ありません。判走者はキーボードからコンピュータ・ディスプレ
イに文字を打ち込む形で言葉を発し、これに対する相手の返答も
ディスプレイに文字として表示されます。つまり現在のインスタ
ント・メッセージングのような形で会話するのです。
                 ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/053]

≪画像および関連情報≫
 ●チューリングテスト
  ───────────────────────────
   「はじめまして。お会いできて光栄です、ホーエンハイム
  教授。医療魔学部のエドワード・アレクサンダー・クロウリ
  ーです」。
  「ようこそ、エドワード。コーヒーでいいかね?」。
   初めて会ったテオフラストゥス・フォン・ホーエンハイム
  教授は、気さくな笑顔でぼくを迎え、少し酸化して煮詰まっ
  たコーヒーの入ったビーカーをテーブルに2つ置いた。フリ
  ッツはもうすでに退出している。この「パラケルスス」と言
  うペンネーが有名な錬金学者をぼくの親友は苦手としている
  らしかった。ぼくはビーカーに口をつけ、その苦い液体を少
  し飲み込んだ。
  「ふむ、きみはだいぶ優秀のようだね」。
   教授はビーカーに口をつけ、ぼくの成績調査票をぱらぱら
  とめくる。書類をぽんと机に放り投げた彼に向かって、ぼく
  は背筋を伸ばした。
  「はい。身寄りのない私は国からの奨学金で学ばせていただ
  いている身ですので、最低限優秀であることは求められてい
  ると理解しています」。記憶はないのだが、ぼくは事故で両
  親を亡くし、同じ事故で体が欠損するほどの大怪我も負って
  いる。そんなぼくが手厚い治療を受け、こうして国の最高学
  府である魔法学院で学び、衣食住の心配をせずにいられるの
  は、すべて奨学金制度、つまり国家予算のおかげだ。将来国
  のためにその知識を役立たせることができる立派な人間にな
  るために、勉学に励むことはぼくの義務と言えた。
                  https://bit.ly/2NSuX7l
  ───────────────────────────

アラン・チューリング.jpg
アラン・チューリング
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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