ります。私は情報収集用に複数のニュースアプリをダウンロード
していますが、「スマートニュース」の場合、ニュースの選定の
的確さや文字の読み易さには定評があると思っています。
タイトルや記事の読み易さを支えているのは、昨日のEJで取
り上げて説明している「形態素解析」の技術を使っています。形
態素解析という技術は、文章を構成している要素を単語レベルに
バラバラにします。その単語単位で行を折り返したり、文字の横
幅を圧縮するなど、日本語組版に工夫をこらしています。そのた
め、文字と文字の間隔や、改行などが適切に行われているので、
記事がとても読み易いのです。AIの技術はこんなところに使わ
れているのです。
さて、現代は「第3次AIブーム」と呼ばれています。今や何
でもかんでもAIです。「AI家電」がその典型です。お掃除ロ
ボットから始まって、AI冷蔵庫、AI調理器、AIスピーカー
など、何でも「AI」の言葉を冠するようになっています。
その多くはIoTを含む現代のICT技術をすべてAIと呼ん
でいるフシがあります。こういう傾向は、第2次AIブームのと
きもあったのです。AIには、きちんとした定義がないというか
定義できないので、こういうことが起きるのです。
これについて、現代AIの日本の第一人者といわれる東京大学
特任准教授の松尾豊氏は「AIは擬人化の一種であり、技術をあ
たかも人であるかのように例えると理解しやすい。ICTをAI
と呼ぶこと自体は問題はないが、過度な擬人化には注意が必要で
ある」といっています。
それでは、現代のAIは、どのように捉えるのが、正しいので
しょうか。
AIは、ディープラーニング(深層学習)にあるといえます。
松尾豊准教授が現代のAIについて、記者のインタビューに答え
ている記事をご紹介します。
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──深層学習は何をもたらすのでしょうか。
松尾:「目が誕生した」と考えればいいでしょう。深層学習は人
間でいうところの目の技術です。網膜の役割をセンサーが、視覚
野を深層学習が果たすわけです。
画像認識の精度はどんどん上がっています。2015年に人間
の目の精度を超えました。最近では、画像認識の次の段階として
予測が出てきました。例えば海岸から見た波の映像を与えると、
次に波がどう動くのかを予測し、描画するというものです。人間
が世界を観察する仕組みと同様のものを実現するための研究が進
んでいます。
深層学習は、見ているものが何かを判断する「パターン処理」
の技術と言えます。見ているものに次に何が起こるか、を予測す
るのもパターン処理です。
──目を獲得すると、何が起こりますか。
松尾:生物が目を穫得してから、生物の戦略は急速に多様化して
いき、飛躍的な進化につながりました。
同じことが、機械やロボットの世界にも起こるはずです。(約
5億年前のカンブリア紀に生物が飛躍的な進化を遂げた)「カン
ブリア爆発」と同様の現象を予想しています。
農業を例に取ると、自分の目で判断する農作物の収穫ロボット
が実現できます。収穫が可能なら、農作物が病気かどうかも判定
できるようになる。すると対処策を講じられる。同じようなこと
が、製造業の工場でも可能になります。医療、介護、建設、食品
加工といった、至るところで適用できるのではないでしょうか。
目を穫得した機械はハードウエアとして販売するほか、サービ
スの一部として提供できます。農業ではトマトの収穫、病気の判
定、対処を講じるサービスが可能です。 松尾豊東京大学准教授
「深層学習の価値は『目』の獲得/産業応用で日本は勝てる」
──『まるわかり!人工知能最前線』/2018年版
日経BPムック刊
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ディープラーニングは「革命」です。6月18日のEJ第47
87号において、なぜ、革命かについて、AIの3つの可能性に
ついて指摘しているので、再現します。
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1.3つの認識が可能になる
2.運動ができるようになる
3.言語の意味が理解できる
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「1」の3つの認識とは、「画像認識」「文字認識」「音声認
識」のことであり、これはいずれも既に可能になっています。そ
れは、AIが目を持ったからです。そして、遂に2015年にお
いて、AIの画像・音声誤認識率、画像認識や音声を間違える率
は人間の方が高いのです。松尾准教授はこれを「数年後、歴史の
教科書に載ってもいいくらいの出来事である」としています。
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AI ・・・・・ 5・1%
人間 ・・・・・ 4・9%
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「2」の「運動ができるようになる」という意味は、人間が教
えることなく、自らの観測データと合体させて、同時の行動がと
れるようになることを意味します。
米ATARIの約60のゲームのうち、半数では既にAIが、
人間のハイスコアを超えています。AIは習熟を通じ、人間のよ
うな熟練した動きができるようになってきているのです。将棋や
碁の世界でも同様です。
「3」の「言語の意味が理解できる」についても大きな進展が
あります。これについては、明日のEJで述べることにします。
──[次世代テクノロジー論U/042]
≪画像および関連情報≫
●AIの世界で「眼の誕生」が持つ意味
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「カンブリア爆発」という言葉をお聞きになったことがあ
ると思います。古生代カンブリア紀、およそ5億4200万
年前から5億3000万年前という比較的短期間に、今見ら
れる生物種のほぼ全てが出そろった現象を指すのですが、そ
の爆発的な生物多様性の出現の理由として挙げられている一
つが、高度な眼を持つ三葉虫の存在があります。高精度の眼
を持った生物が圧倒的サバイバル戦略を駆使して、進化して
いったのです。
実は、東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻特
任准教授・松尾豊氏によれば、AI、機械やロボットの世界
でもこのカンブリア爆発が起こると考えられるのです。もち
ろんその原因は「眼」にあります。ディープラーニングの画
像認識技術の進化によって、機械やロボットも、「眼が見え
る」ようになりました。「今までだって高性能のカメラを搭
載したいわば“眼を持つ機械・ロボット”はたくさんあった
じゃないか」と思ってしまいますが、「見る」とは網膜と脳
の後ろの方にある視覚野が働くことで可能になってきます。
つまり、カメラとディープラーニング技術が組み合わさって
初めてAIは「眼を持つ」と言えるのです。
今まで見えなくてもすむ作業しか機械に任せられなかった
ところ、この「眼の誕生」によって、見る必要のある、見て
判断して作業を進める必要のある複雑な仕事を任せられるよ
うになったのです。 https://bit.ly/2tT9HoR
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松尾豊特任准教授


