2018年06月28日

●「シリはフロントエンド機能である」(EJ第4795号)

 CALO──それは、DARPAが資金を拠出し、技術系シン
クタンクのSRIインターナショナルが元請け業者として立ち上
げた米国史上最大のAI研究プロジェクトです。2003年に創
設され、2008年まで続けられたのです。CALOは次の言葉
の頭文字をとったものです。
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    CALO
    Cognitive Assistant that Learns and Organizes
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 このCALOの語源は、ラテン語の「calonis (戦士に付き従
うもの)」であり、兵士を戦場でサポートするための研究だった
のです。そのCALOから分社化して設立されたのが「シリ社」
という企業です。
 このシリ社が一番最初にやったことは、アップルストアに「シ
リ・アシスタント」というアプリを無料公開したことです。20
10年2月5日のことです。まだ精度はそんなに高くないものの
現在の「シリ」とほぼ同じ機能を持っていました。
 しかし、このアプリは、一部のユーザーからは歓迎されたもの
の、特別センセーションを巻き起こしたり、支持されたわけでも
なかったのですが、別のことで話題になります。
 それは、2010年4月28日にアップルがシリ社を買収する
と発表したことです。これについては、相当の驚きをもってネッ
ト上の大きな話題になっています。
 当時、アップルのCEOはスティーブ・ジョブズ氏です。ジョ
ブズ氏が、いつこのアプリのことを知ったかはわかりませんが、
彼がこのアプリの存在を知ったとき、おそらくこれはアイフォー
ンの「フロントエンド機能」として使えると確信したものと思わ
れます。「シリ」の音声操作のレベルがかなり高いからです。フ
ロントエンド機能とは、ユーザーがアイフォーンを使うとき、最
初に使う機能のことです。
 「シリ」の音声機能の高度さについて、自然言語処理研究者の
工藤友資氏は、ネットで次のように述べています。
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 シリがここまで注目を浴びたのは、会話の応答がインテリジェ
ントであることはもちろんだが、それに付け加えてインターフェ
ースが音声であることが重要なポイントだろう。シリの音声認識
精度は驚くべきものだ。これは、ニュアンス・コミュニケーショ
ンズの技術だとされる。ひと昔前の音声認識技術は、個々人に応
じて教育する必要があった。たとえば筆者の音声をある程度正確
に認識できるようになったとしても、筆者以外の音声は正しく認
識できない。これに対し、ニュアンス・コミュニケーションズの
システムは誰が話した音声でも、高精度で認識する。
                  https://bit.ly/2N0aUnk
─────────────────────────────
 開発者だから当然ですが、ジョブス氏はアイフォーンの弱点を
よく掴んでいたのです。アイフォーンは高性能なコンピュータで
すが、何しろ小さいし、文字入力に難があります。キーボードも
マウスも使えないので、特殊な入力が求められます。つまり、使
い勝手はけっしてよくないのです。
 しかし、音声であれば、誰でも使えるし、手が不自由な人でも
使えるので、フロントエンド機能として最適です。そこで、ジョ
ブス氏は、自らシリ社に電話をかけ、買収交渉をはじめます。
 このときの状況について、小林雅一氏の著書には次のように書
かれています。
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 シリ創業者の一人で、CEOでもあったダグ・キトラウス氏は
あるテレビ番組の中で、ジョブズ氏から買収打診の電話を受けた
時の様子を次のように語っています。「受話器の向こうから『も
しもし、私はステイープ・ジョブズだが・・』という声を聞いた
ときは、夢でも見ているのかと思った。
 ジョブス氏は、十分な買収金額を提示した上で、キトラウス氏
らシリのオリジナル・スタッフを全員雇用し、買収後も彼らが、
自由に研究・開発して構わないと約束しました。
                 ──小林雅一著/朝日新書
                  『クラウドからAIへ/
    アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
─────────────────────────────
 シリ社はこの申し入れを受託し、アップルは、シリ社を約2億
ドルで買収します。そして、2011年発売のアイフォーン4S
から「シリ」は標準機能として組み込まれたのです。
 自然言語処理研究者の工藤友資氏が指摘するように、「シリ」
の音声認識は、ニュアンス・コミュニケーションズという会話型
AI会社の技術を使っています。それでは「シリ」自体は、何を
しているのでしょうか。
 「シリ」は、ユーザーからの要求に応じてそれに対応できるそ
れぞれのウェブサービスに対して、仕事を割り振る「知的エージ
ェント」の機能を果しているのです。ユーザーが何かを知りたい
という要求を出すと、それに対応できるウェブサイトを検索し、
そのサイトから戻された適切な回答を音声や文字でアイフォーン
に表示します。
 また、「シリ」に対して、「近くの雰囲気の良いフランス・レ
ストランを教えて」と話しかけると、「シリ」は、そういうロー
カル・ビジネスの紹介サービスのサイトを呼び出し、GPSによ
る位置情報と組み合わせて、最適と思われるレストランを選定さ
せ、現在ユーザーのいる場所に近い、いくつかのレストランを写
真とともにアイフォーンに表示するのです。
 こんなことは、かつては考えられなかったことですが、現在の
スマホなら、簡単にできるようになっています。もちろん、アイ
フォーンだけでなく、他のスマホでもこんなことは簡単にできる
ようになっています。──[次世代テクノロジー論U/039]

≪画像および関連情報≫
 ●アンドロイドアプリ「アイリス/Iris」がある
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   発売前の予想を上回る勢いで、世界中で好調に売れている
  アップルのアイフォーン4S。同機には、ユーザーを虜にし
  そうな魅力的な機能として音声アシスタントの「シリ」が搭
  載されている。これは音声を認識するだけでなく、ユーザー
  の発言内容を理解し、メールを送ったり、スケジュールを確
  認してくれたりする優れた機能だ。
   アンドロイド端末を使っているユーザーは、うらやましい
  と思ってしまうのではないだろうか。しかし、がっかりする
  にはまだ早い。海外のソフトウェア開発会社が、シリっぽい
  アプリを開発し、提供を開始したのである。その名も「アイ
  リス(Iris)」。本当に使えるのか?と侮るなかれ、なかな
  か優れたアプリケーションなのである。
   このアプリを開発したのは、デクセトラ社だ。同社は、ア
  イフォーン4Sが発売されたわずか4日後の2011年10
  月18日に、「Iris」を発表した。お察しの良い方ならすぐ
  に気づかれたと思うが、「Iris」は「Siri」の名前を逆にし
  て名付けられている。ふざけたネーミングと思われるかもし
  れないが、意外にもしっかりとした機能を備えている。シリ
  同様に、端末に向かって話しかけると応えてくれるのだ。音
  声認識はアンドロイド端末の機能を用い、回答はグーグルの
  音声検索と紐付けられている。  https://bit.ly/2K9J7mA
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スティーブ・ジョブズアップル前CEO.jpg
スティーブ・ジョブズアップル前CEO
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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