2018年06月14日

●「IBMワトソンはどんなマシンか」(EJ第4785号)

 IBMが開発した「ワトソン」という名前のコンピュータがあ
ります。今やAI(人工知能)とワトソンは同義語として語られ
るほど有名な存在です。実は、当のIBMは、ワトソンについて
次のようにいっているのです。
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 ワトソンとAI(人工知能)は目指すゴールが決定的に違う
                       ──IBM
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 「ワトソン」という名前を聞くと、アーサー・コナンドイルの
推理小説『シャーロック・ホームズシリーズ』の登場人物で、名
探偵シャーロック・ホームズの友人のワトソン博士を想起する人
が多いと思います。小説でのワトソンは、いろいろな場面でホー
ムズにアドバスする役割であり、AIコンピュータ「ワトソン」
の役割にぴったりですが、まったく関係がありません。
 ワトソンの名は、IBMの事実上の創立者であるトーマス・J
・ワトソンから取られています。創立者ではありませんが、初代
社長で、1914年から1956年までIBMのトップとして、
IBMを世界的大企業に育て上げた人物であり、IBMを代表す
るコンピュータの名前を冠するのに相応しい人物です。
 ところで、なぜ「ワトソン」とAIとは目指すところが違うの
でしょうか。キーワードは次の言葉です。
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  IBMの「ワトソン」は、コグニティブシステムである
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 コグニティブ(cognitive) とは、日本語で「認識」とか「認
知」のことであり、コグニティブシステムとは、ある事象につい
てコンピュータが自ら考え、学習し、自らの答えを導き出すシス
テムを意味します。「コグニティブ・コンピューティング」とも
いわれています。
 米IBM基礎研究所バイスプレジデントで、ディープラーニン
グの応用や神経細胞のシナプスのように働く新しい「シナプス・
チップ」の研究を牽引するダリオ・ギル氏は、コグニティブシス
テムについて、次のように説明をしています。
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 AIの技術が、コグニティブシステムに使われていることは間
違いないが、AIとコグニティブシステムは「ゴール」が違う。
AIは、科学分野における技術であり、人間ができることのイミ
テーションを目指している。一方、コグニティブシステムは人間
が中心。人がより良い作業が行えるようにサポートするものだ。
 コグニティブシステムは、学習能力を持った点が大きな特徴。
これまでのようにルールを書かなくても、システム側が事例を通
じて学習することが可能だ。ソフトウェアの世界を抜本的に変え
ることになる。普通、コンピュータというのは、購入した日が最
も性能が高い日であるが、コグニティブシステムは最もパフォー
マンスが悪いのが購入した日。学習することで、日に日に性能が
向上する。その学習の成果をもとに、コグニティブシステムは、
人間が持っている専門知識を補完するものだ。私は、コンピュー
タが人を置きかえるという考え方は根本的に間違っていると思っ
ている。    ──ダリオ・ギル氏 https://bit.ly/2l5bFPd
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 ワトソンは、自然言語処理ができるマシンですが、早押しの人
気クイズ番組「ジョパディ!」で優勝しています。当時のワトソ
ンには音声認識機能は搭載されておらず、問題は文章で出題され
シリンダーでボタンを押す装置を用いて回答したことがわかって
います。
 現在では、ワトソンにはかなり強力な音声認識機能が装備され
ており、日本のメガバンクのコールセンターでも、ワトソンが使
われています。文字は解読できるし、人の会話を聞き取り、文章
化できる能力も持っています。しかも、知識のソースを与えれば
ワトソンは、自動的に機械学習できる能力も持っています。
 ダリオ・ギル氏はこうもいっています。現在のコンピュータは
現存する2・5エクサバイトのデータのうち、80%のデータの
意味が理解できない。これらは、SNSなどによって発信されて
いる自然言語のデータですが、人間にとってもこれらのデータは
あまりにも分量が多いので処理できない。ワトソンのコグニティ
ブシステムは、これらの80%のデータを読んで、理解できるよ
うにするものである、と。
 これらのことから、ワトソンとは、自動学習でき、豊富なデー
タから、高度な推論のできるエキスパートシステムではないかと
思われます。既にIBMは、ワトソンによる「コグニティブビジ
ネス」を展開していますが、課題は多くあるようです。
 しかし、IBMのワトソンについて、松尾豊東大准教授は、次
のように絶賛しています。
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 IBMのワトソンがすごいのは、自然言語処理に優れていると
ころだ。コンピューターが扱えるデータが爆発的に増えていると
いっても今はまだ紙に書かれた情報が山のようにある。書籍をス
キャナで読み取って、文字を認識したとしても、コンピュータに
は、その書籍の内容がどういうものなのかは理解できない。どの
部分が書籍のタイトルで、どれが著者名かということさえも、そ
のままでは分からない。
 ところがワトソンは、コンピューター向けに作られていない文
字情報を、コンピューターに理解できるような形に変えるところ
でさまざまな工夫がされているのだという。クイズ番組「ジョパ
ディ!」に出演したワトソンは、書籍や百科事典、ウィキペディ
ア上の情報など、2億ページ分のテキストデータ(70GB程度
約100万冊の書籍に相当)をスキャンして取り込んでいた。
       ──松尾豊東大准教授 https://bit.ly/2LFgAl9
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/029]

≪画像および関連情報≫
 ●ワトソンで苦戦のIBMが狙う「AIでの反撃」
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   人工知能(AI)分野ではグーグルやマイクロフト、フェ
  イスブックらが優秀な人材をかき集める一方、IBMのよう
  な古くからの大手は苦戦を強いられている。
   IBMは、莫大な費用を同社のAIのワトソンに注いでい
  るが、目立った成果をあげられていない。健康情報メディア
  「Stat」は先日、ワトソンのガン治療分野への導入が遅延し
  ている状況を詳細にレポートした。
   IBMは大学の研究機関とともに、この状況への対処を始
  めた。2017年9月7日、IBMは、マサチューセッツ工
  科大学(MIT)と実施するAI研究プロジェクトに、今後
  10年間で2億4000万ドル(約260億円)を出資する
  とアナウンスした。「MIT-IBM Watson AI Lab」と 呼ばれる
  このプロジェクトは、100名の研究者らを4つのAI領域
  の研究に割り当てる。
   その4領域とはニューアルゴリズム、ハードウェア、ソー
  シャルインパクト、ビジネス活用だ。アルゴリズム開発にお
  いて同プロジェクトは、マシンラーニング(機械学習)の一
  分野であるディープラーニング(深層学習)に続く新領域に
  注力する。「今回の提携で、ディープラーニングを超える新
  たなアルゴリズムの発見に向けた基礎研究を開始する」とM
  ITのエンジニアリング部門学部長は述べた。
   研究チームが特に注力するのは、人間による監視や手作業
  によるデータのタグづけ無しで実行可能なAIアルゴリズム
  のトレーニングだ。現状のディープラーニングのトレーニン
  グには、人間の目視による確認が必須で、個々のデータにラ
  ベルづけを行う必要がある。例えば車の画像データがあれば
  これは車だと教えてやる必要があるのだ。
                  https://bit.ly/2Mix7MR
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ダリオ・ギル米IBM基礎研究所副社長.jpg
ダリオ・ギル米IBM基礎研究所副社長
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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