2018年05月24日

●「論理への過度の過信が失敗の原因」(EJ第4770号)

 ジョン・マッカーシー、マービン・ミンスキー、ハーバート・
サイモン──いずれも当時の高名な学者ばかりですが、彼らは等
しくAI(人工知能)の発展について、きわめて楽観的な見通し
を立てていたのです。「10年もあれば、AIを構成する実質的
な問題は解決される」といった具合にです。
 彼らの計画によれば、少なくとも1970年頃にはメドがつい
ていたはずですが、2回の「AIの冬」を経て、AI発展の見通
しがついたのは、2000年を超えてからのことであり、10年
どころか、40年もかかったことになります。どこを間違えたの
でしょうか。
 それは、数学や自然科学者の天才たちの陥りがちな「論理への
過信」にあったといえます。彼らは、自ら論理的にものを考える
傾向があり、論理の積み重ねで、機械にある程度の「知性」を持
たせることはできると考えたのです。
 既出の小林雅一氏の著書を参考に、「機械翻訳」を例にとって
考えます。仮に日本語を英語に翻訳するとします。機械翻訳は、
基本的には人間の言葉を機械に読み取らせる自然言語処理の技術
のひとつです。「自然言語」というのは、人間が日常的に使って
いる言語であり、それをコンピュータに処理させるのです。初期
の機械翻訳は、文章を機械に読み取らせるのですが、それは次の
ステップによって逐次行われます。
─────────────────────────────
    @文章から単語を切り出す ・・ 単語解析
    A木構造を生成する    ・・ 構文分析
    B述語論理形式に変換する ・・ 意味分析
─────────────────────────────
 機械翻訳は、予めコンピュータの記憶装置に「辞書」と「構文
規則」のデータベースが用意されています。
 機械は、与えられた文章から単語を切り出し、バラバラにしま
す。これが第1段階の「単語解析」のステップです。続いて、機
械はデータベースを参照しながら、それらの文法的構造を明らか
にして、構文のシンタックスの木構造を生成します。これが第2
段階の「構文解析」のステップです。
 そのうえで、機械はその文章を述語論理形式に変換します。こ
れよって、機械が文章の内容を把握できる「中間言語」になりま
す。これが第3段階の「意味解析」のステップです。
 この後、コンピュータが内容を理解した中間言語を、これらの
3ステップとは逆方向に、「意味合成」→「構文合成」→「単語
合成」を経て、英語に翻訳が行われるのです。
 しかし、この方法では、ごく簡単な文章でないと、翻訳できな
いことがわかります。文章はそれほど論理的ではないからです。
例えば、次の文章の翻訳などは完全にお手上げです。
─────────────────────────────
  日本代表のサムライたちが無敵艦隊スペインに勝った。
                      ──小林雅一著
 『クラウドからAIへ/アップル、グーグル、フェイスブック
                の次なる主戦場』/朝日新書
─────────────────────────────
 人間であれば、この文章は、サッカーの試合について述べてお
り、日本代表が強敵のスペインチームを破ったという意味である
ことはすぐわかります。しかし、当時の機械翻訳の技術レベルで
は、「刀を持った日本の侍が、スペインの軍艦に切りかかった」
などと訳しかねないのです。
 マッカーシー氏に代表される初期のAIの状況について、小林
雅一氏は、次のように述べています。
─────────────────────────────
 こうした事情から、初期のAI研究は何とかできる問題を幾つ
か解いた後、先の見えない袋小路に陥ってしまいました。197
3年には、英国の著名な数学者であるジェイムズ・ライトヒル卿
が、「AI研究は、その当初に約束したロボット工学や自然言語
処理などの領域において、なんら実質的な成果を上げていない」
と厳しく批判するレポートを公表しました。これを受けて、英国
や米国の政府は自由なAI研究への予算を全額停止してしまいま
した。手厳しい批判にさらされ、世間の理解とスポンサーを失っ
たAI研究は急速に衰退し、長い停滞期に入りました。
                ──小林雅一著の前掲書より
─────────────────────────────
 このジェイムズ・ライトヒル卿の「自然言語処理などの領域に
おいて、なんら実質的な成果を上げていない」という言葉にもあ
るように、初期のAIはほとんど成果を上げているとはいえませ
ん。これが第1回の「AIの冬」と呼ばれる期間です。1950
年代から1970年代の期間です。
 しかし、後世の人はこの期間を「AIの冬」といっていますが
当のマッカーシー氏やミンスキー氏らは、十分成果が出ていると
胸を張っていたのです。確かに、コンピュータは代数問題を解い
てみせ、幾何学の定理を証明してみせ、英会話をデモ的に学習し
てみせたりしており、これは当時の人々にとって十分「驚異的」
であったのです。
 それは、当時の人々には、コンピュータがそのような「知的」
な行動ができるとは全く信じていなかったので、その程度のこと
でも喝采してみせたのです。しかし、政府から予算を止められて
しまうと、それ以上の研究が進まなくなったことは確かです。
 この時代のAIは、推論と探索の時代であったといえます。例
えば、ネズミの脱出ゲームのようなルールとゴールが決められて
いるゲームにおいて、いかにしてゴールにたどり着くかという問
題が解かれたのです。チェスなどのゲームへのAIの投入もテー
マになったのです。しかし、これらは現実世界とはあまり関係の
ないスケールの小さい世界での話であり、実際には何の役に立つ
かはっきりしなかったので、資金が打ち切られ、研究が一時スト
ップしたのです。  ──[次世代テクノロジー論U/014]

≪画像および関連情報≫
 ●AIとは何か--コンピュータの歴史から紐解く人工知能
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   今、情報科学において重要な技術のうちの1つとして「人
  工知能」(AI)が多くの場で議論されている。しかしなが
  ら、技術者でない一般的な観点で見た場合に、そもそも「人
  工知能」というものが一体何なのかが十分に理解できないよ
  うな議論を目にすることがあるのが現状である。
   この記事では、コンピュータの歴史を紐解くことにより、
  そもそも、人工知能というものが一体何で、ビジネスや社会
  とどう関わっていくのか解説したい。
   そもそも「人工知能」が何なのかについての明確な定義は
  存在しない。人工知能学会のウェブサイトでも、人工知能の
  定義そのものが「議論の余地がある」とされており、実際に
  人工知能研究自体に2つの立場があるとしている。「人間の
  知能そのものを持つ機械を作ろうとする立場」と「人間が知
  能を使って行うことを機械にさせようとする立場」である。
  (現在多くの企業が採用している人工知能は「機械学習」と
  呼ばれるものであり、後者の立場に位置づけられる。機械学
  習は、人間による知的作業のうちの「論理的な推論」を代替
  する技術であり、音声や画像、テキストなどのデータを事前
  に機械に学習させておくことによって、新しいデータを見た
  ときに、自動的に”推測”可能にするというものだ)
   ここで注目すべきなのは、いずれの立場に立った場合にお
  いても、「知能」とは何なのかについての定義が必要であり
  これについての定義は存在しないということである。
                  https://bit.ly/2IBVcvQ
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マービン・ミンスキー.jpg
マービン・ミンスキー
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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